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教会とチーフ

 宿を探しながら通りを歩いていると、後ろから何か独特な甘い香りが近づいてくる。サーストの横をどこか急いだ様子の槍を携えた青年が通って行くと風で甘い香りが少し強めに匂って来る。香水でもつけているのかとも思ったサーストだが自らそれを否定する。香水は貴族が使うものであり値段も庶民には決して安くない。先ほどの青年にそんな香水を買うほどの財力があるとは思えない。

 何かサーストの中で引っかかる。その正体を確かめようとかなり先を走る青年を付けていく。






 青年が入っていったのは孤児院も行っている教会だった。

 少し警戒しながら中に入ると青年が年老いた神父の前で困ったように何を探していた。


「あれ、サイフがねえ。おかしいなポケットに入れてたはずなんだけどな」


「これのことか?」


 手に青年が横を通った時に掏っておいたサイフを見せる。


「おい、お前どこで盗んだ!」


 顔を赤くし怒りをあらわにしながら怒鳴りつけてくるのに対して顔色一つ変えることなくウソをつく。


「神様の前で人聞きの悪いことは言わないでくれ。あんたがさっき落として言ったからわざわざ届けに来たんだ」


 それを聞きすっかり勢いをそがれた様子の青年。


「す、すまねえ。俺ってきりサイフを盗まれたものだと思ってたからよ。けど良かったよそのサイフは孤児院の子供たち為にじっちゃんに渡そうと思ってたからよ。あっ、俺はチーフってんだ」


「誤解が解けたのなら別にいいよ」


「チーフ君は昔から落ち着きがないですからねえ。君ももう大人なんだから少しは落ち着きを持って行動をですね」


「わっ、分かってるよ。じっちゃん。そ、そろそろ時間だから行くよ」


 神父のお叱りには弱いのかあからさまウソをつき出ていく。

 チーフが教会を出てしばらくすると息をきらしながらまた戻ってくる。


「はぁはぁ、お金渡すの忘れてたぜ。はいよ、じっちゃん」


 サイフから銀貨を一枚取り出し迷いなく神父に渡すチーフ。  


「いいんですかこんなに。有難いですがチーフ君だって何かとお金がかかるのではないですか?」


 チーフが渡してくるお金を受け取るべきか迷う神父だが、当然の反応である。庶民の平均月収が銀貨四枚だからだ。サーストや熟練のハンター達ならばすぐに稼げる金額ではあるが、チーフがそれほどの実力者には見えない。


「いいんだよ。じっちゃんには孤児だった俺を育ててもらったしチビたちにも大きく育って欲しいからよ。それに、実は最近ハンターから貴族様の護衛になって、お金も安定して入ってくるしな。いやー、ほんとナクル様はいい人だぜ」


「そうですか。出世したのですね。きっと優しいチーフ君を神様が見ていたんでしょうね」


「へへへ。おっといけね。そろそろ本当に行かないと。それじゃ、じっちゃんまたな」


 優しい笑みを浮かべる神父からの褒め言葉に少し顔を赤くしながら今度こそどこかに走っていく。その様子を暖かい目で眺めていた神父はチーフの後ろ姿が見えなくなるとサーストに話しかける。


「チーフ君のサイフを届けてくれてありがとうございます。私はこの教会で神父をしているブラザといいます。子供たちからはじっちゃんなんて呼ばれていますがね」


「いや、拾った物を届けただけだ」


「当然のようにそんなことができるのは心が清いからですよ。お礼と言っては何ですが今夜はここに泊まっていきませんか」


 宿の決まっていないサーストにとってはありがたい提案である。


「じゃ、ありがたく泊めてもらうよ」


「夜ごはんはもう食べましたか。パンとスープならありますが」


「何から何まで悪いな」


「いえ、構いませんよ。そういえば名前を聞いていませんでしたね」


「俺はサーストだ。一応ハンターをやっている」


「サースト君ですか。いいお名前ですね。サースト君に神のご加護があらんことを」


 目の前にある聖像にお祈りをするブラザを見ながらサーストは復讐の為に生きている自分が神のご加護など受けられるわけがないと思った。







 案内された部屋でパンとスープを食べたサーストは夜が深くなるまで質素なベッドで横になっていた。

 教会の中が静まり返ったころ、サーストは物音ひとつ立てずに教会から出ていく。

 通りからひとつ外れた裏通りで人を探していると背後から不意に声をかけられる。振り返ると目当ての人物がいた。


「・・・何かようか」


 足音一つせず近づいてきた人物は反帝国組織‘‘トレイトアウト’’のメンバー、ファスタンであり主に暗殺兼情報収集を専門に行っている。


「ナクルという人物の情報が欲しい」


 先ほどチーフが言っていた雇われ先の貴族の名前を告げる。もともとは頭の片隅で引っかかかっただけだがチーフからする甘い香りそして銀貨一枚を渡している姿を見てサーストはナクルという人物の正体がほぼわかった。


「・・・ナクル。フルネームはミルド・ナクル。ここ最近、没落寸前だった家を立て直す。表向きは貧しき人たちの味方として安く食料を売っているが本当の顔は帝国と繋がりをもち輸入した中毒性の高い麻薬を売っている」


「やはり麻薬か。そこまでわかっていながらなぜ殺さない」


「・・・組織からの優先度が低い。暗殺者もあまり多くないからな」


「優先度が低いということは暗殺リストには載っているんだな」


「・・・一応な」


「なら、俺が消してもいいわけだな」


「・・・ナクルの屋敷の護衛は十人。殺るなら明日の夜のほうがいい。もうすぐ日の出だ。人が起き始める」


 それだけ告げるとまた足音ひとつ立てずどこかに去っていく。






 ファスタンと別れた後、誰にも気づかれることなく教会に戻って部屋に入る。しばらくするとコンコンと扉をたたく音がする。


「サースト君、起きていますか。朝ごはんの時間なんですが」


「今行く。少し待ってくれ」


 寝ていた様子を出すためにベッドのシーツにしわをつけると扉を開ける。


「よく寝れましたか」


「ああ、よく寝れた」


 孤児院の子供たちと朝ごはんを食べる前にブラザにチーフを助けてくれたと紹介されたサースト。子供たちにとっては槍を持ち同じ孤児院をでてお金を稼ぐチーフは人気者ようでそれを助けたサーストは子供たちから引っ張りだこだった。

 朝ごはんを食べ終わり神へのお祈りが終わると子供たちから肩車をせがまれそのまま鬼ごっこをし子供たちから解放されたのは昼過ぎだった。

 昼になると各々、孤児院から出ていくときの為に活動をし始める。女の子たちは内職をしたりどこかでメイドとして雇ってもらうために家事を。男の子たちは何人かが女の子たちと内職をしているが多くはハンターになるためか庭で木の棒を槍に見立てて練習をする。

 そんな様子を見ていたサーストに先ほどまで槍の練習をしていた子供が近づいてくる。


「なぁー、兄ちゃん。兄ちゃんは何の仕事をしてるんだ?」


「俺は新米ハンターだが。それがどうした」


「だったら、俺に槍を教えてくれよ。俺も将来ハンターになりたいんだ」


 目をキラキラさせ教えを乞う子供の聞いてか周りの子供たちも集まってくる。全員が教えを乞う姿に負ける。


「俺は剣が専門だから基本的なことしか教えられないぞ」


 教えながら話を聞いていると全員チーフが槍を使っているのをみて槍に憧れたらしく、全員槍の練習をしているらしい。

 







「今日はありがとうな、兄ちゃん」


 最初に話しかけてきた子供がみんなを代表して言うと他の子供たちも頭を下げくる。それと同時にブラザが夕食を呼びに来ると子供たちは我先にと食堂に走っていく。ブラザは子供たちと入れ替わりで近づいて来る。


「今日はありがとうございました。子供たちに槍を教えてくれて」


「いや、別にいいよ」


「もう夜ですし今夜も泊まっていってください」


「恩にきる」






 夕食を食べ終わり昨日も泊まった部屋に戻ると昨日と同じように夜が深くなるのを待ち音もなく教会からでていった。






















 


 


 


 















 

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