復讐の始まり
ぎぎぎぎっと音をたてる扉を押しながらサーストはギルドに入る。
中に入ると血の匂いが鼻を付く。実際に血が流れているわけではないが魔物たちの素材を売りに来ているハンターが多いため、いくら拭いても完全には取り切れない血の匂いが鼻を付くのだ。
サーストは迷いもなく受付嬢に声をかける。
「すまない、この依頼を受けたいんだが」
クエストボードから持ってきた依頼書を受付嬢に渡す。
受付嬢は眠たそうに、依頼書を確認することなくサーストに返事をする。
「あー、はい。わかりました。それでは、ギルドカードの提示お願いします」
そして、流れ作業のように淡々と仕事を進める。
「いや、済まない。ここに来るのは初めてでギルドカードを持っていないんだ」
受付嬢はチラッとサースト顔を確認すると、一度席を離れギルドカード製作のための書類を持ってくる。
「では、こちらの用紙に必要事項をお書きください」
サーストが書類に必要事項を書き終えると、受付嬢はこれも確認することなく書類をもって奥の部屋に入っていき、数分後、ギルドカードをもって戻ってくると、そのまま依頼書に了承のハンコを押す。
「これで、完了です。ご武運を」
全く心の籠っていない声で言うと、そのままサーストから目を離す。
「あー、ありがとう」
サーストの返事に耳を傾けることなく、瞼を閉じ暗闇の世界に落ちていく。それが、後にギルド長からお叱りを受けることになると知らずに。
サーストは依頼書を鞄の中に入れると、そのままギルドを出る。
空は生い茂った木々で見えず、昼間だというのに、ところどころから漏れ出た光しかないため暗い森の中でサーストは一体の魔物と対峙していた。
ハンター達には翼を失ったドラゴンと称される魔物である。実際はドラゴンとは違うのだが熟練のハンター達が戦う魔物であり本来、ギルドカードを作ったばかりの新米ハンターが戦う相手ではない。
しかし、サーストは冷静だった。もともと自分が受けた依頼であり、復讐への第一歩だからである。
「グルギャャ」
魔物ーーーランドリザードーーーはそんな鳴き声を上げると口を大きく開け直径2メートルは下らない火球を打ち出す。
だが、サーストはその場から動かず腰を少し下げ、腰に下げている刀に手をかける。そして、目の前にまで迫っていた火球を斬った。
刀が火球に触れると、そのまま真ん中で火が真っ二つになり、サーストの後ろの岩に直撃し消える。
「グルるるる」
ただの火球では意味がないと分かったランドリザードは今度はいくつもの火球打ち出す。どれも最初の火球よりは小さいが威力は十分であり、速さも増している。これがランドリザードが翼を失ったドラゴンと称される理由である。ランドリザードは学習力がとても高く、攻撃に対処されると新たな攻撃を繰り出してくるのだ。
サーストは火球を一瞥すると今度は刀を持ったままランドリザードを中心に円を描くように走り出す。円を描いているようだが少しづつ近づいてくるサーストを見て今度は自分の足元に火を放ち自分を囲むランドリザード。これ以上、近づかれないようにする為だが、それが仇となる。
待っていたかのように走り出すサースト。そのまま、火がランドリザードを囲む前に火の中に入る。ランドリザードは火を吐いたばかりの為、火を吐けない。走り出すと、移動を前脚に重きを置いている為、発達しているその前脚を上からサーストを押しつぶす為に脚を落とす。ランドリザードの体の表面は鱗で覆われており生半可な武器では傷はつけられても致命傷を与えることはできない。それをランドリザード自身理解している。だからこその攻撃だった。
だが、サーストが前脚に対して手にもつ刀を振るう。本来、鱗に弾かれるはずのその斬撃は何の抵抗を受けることなく前脚を切り落とす。
「ギャアアアア」
驚きと痛みで鳴き声をあげる。動くための前脚を斬られ動くことができないランドリザード。
自分の目の前で呻き声を上げているランドリザードに死の宣告をする。
「死んでくれ」
短く気合をいれる。
「ハッ!!」
そして、ドスッという音とともにランドリザードの首が地面に落ちた。