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seasons  作者: 安芸咲良
第二章 ハルとナツ
8/16

8

 菜津は唇を尖らせて頬杖を付いていた。友人が話し掛けているが、どうも生返事のようだ。頭を叩かれている。

 その様子が後方の席の羽流からはよく見えた。

「……流……おい羽流ってば!」

 大声によくやく我に返った。友人の斉藤が隣で呆れた顔をしている。

「えっなに?」

「なに、じゃねぇよ。ぼーっとしてどうしたんだよ」

 問われて羽流は言葉に詰まった。まさか菜津を見ていたとは言えない。

 友人はちらりと前の方の席に視線をやった。

「どうせ河井さんだろ」

「……! 違うって!」

 図星を指されて羽流は慌てる。

「別に隠さなくてもいいよ。バンド誘われたこと気になってんだろ? やればいいじゃん。なんで断ったんだよ」

 そう言われて羽流は押し黙った。

 自分でも何と言ったらいいか分からない。中学に上がってから、周囲の目が気になるようになった。


『茂内と河井さんってよく一緒にいるよな』


 そう言われたのはただの一回だ。でも改めて言われて気が付いた。こんな風に女子といる男子は自分だけだった。

 女子といるのはおかしいのかもしれない。

 そう思い出始めたら、菜津にどう接したらいいか分からなくなってしまった。無視する羽流に傷付く菜津の顔を見て、後から羽流の心は痛んだ。でもどうしたらいいか分からなかった。


「つまんない意地張ってんじゃねーよ」

「別に意地張ってる訳じゃ……」

 そう言うとまた斉藤に頭を小突かれた。

「ボヤボヤしてたら他のヤツに取られちまうぞ?」

「だから違うって……」

 羽流は痛む頭をさすった。


   *


「あー!!」

「うるさい」

 休み時間、突然叫びだした菜津の頭を千穂はグーで小突いた。

「千穂ちゃん痛い……」

 思いのほか痛かった菜津は恨みがましい目で見上げた。千穂は軽く溜め息をついて見下ろしてくる。

「あんたは何をそんなに悩んでんのよ」

 菜津は頭をさすった。昨日のことを思い出しては叫び出したい気分になる。もう叫んでいたが。

「だってハルが……」

「まったくあんたは茂内くんばっかりなんだから……。押してダメなら引いてみろ、よ?」

 千穂は菜津の前の席にカタンと座って言った。その目は優しい。何だかんだいって、この友人は菜津のことを考えてくれているのだ。

「一回で諦めるなんて菜津らしくないんじゃない?」

 頬杖をついて微笑む友人に、菜津はうーんと考え込む。今までにも羽流とはケンカして仲直りをして、を繰り返してきた。こんな状態が続くのも今だけかもしれない。

「そっか……。そうだよね!」

 意気込む菜津に、千穂はふっと笑った。

「茂内くんとずーっと一緒にいたいんでしょ?」

「だからそういうのじゃないって!」

 千穂はくすくす笑っている。この友人はすぐ色恋沙汰に繋げようとからかってくるが、菜津としてはそういうものではないのだ。もっとも、気付いてないだけかもしれないが。

「そしてそんな菜津に朗報」

 そう言って千穂は一通の手紙を差し出した。菜津は首を傾げた。


「ごめんね、急に呼び出したりして」

 放課後の校舎裏。菜津は隣のクラスの杉山に呼び出されていた。

「いや……」

 手紙の差出人は杉山だった。千穂と同じ部活だからそのよしみで頼まれたのだろう。そしてこの雰囲気を考えるともしかして――。

「河井さんって茂内と付き合ってるの?」

「ハルと? まさか!」

 考えていたことと違う質問に、菜津は素っ頓狂な声を上げた。羽流は大事な幼馴染だが、付き合うとかは考えたこともなかった。

 ――では羽流に彼女ができたら自分はどうするんだろう?

「なら良かった」

「ん?」

 杉山はほっとした顔をする。

「俺と付き合ってくれない?」


   *


「もー! 笑い事じゃないよー!」

『ごめんごめん。あの杉山がまさか菜津を、って思ったらおかしくて……』

 菜津はベッドの上にあぐらをかいて、むすっとした表情をする。電話の向こうの千穂はまだ笑い声だ。

『それで? 何て返事したの?』

「……ちょっと考えさせてって」

『ふーん、菜津にしては上出来だね』

「人事だと思って……」

 菜津はベッドに座りなおす。

『そんなことないよ? 私は割りと杉山気に入ってるんだし』

「だったら千穂ちゃんが付き合えばいいじゃん……」

『そういうことじゃないんだな』

 受話器の向こうで少し笑った声がした。

『一回付き合ってみれば? 茂内くん以外を見てみるのもいいかもよ?』

「だからハルはそういうのじゃないんだってば……」

 千穂は盛大な溜め息をついた。

『菜津ね、前々から言おうと思ってたんだけど、茂内くんのことになるとちょっと変だよ? いくら幼馴染とはいえこの歳になったらいつも一緒っていう訳にもいかないんだよ?』

 言われて菜津は押し黙る。さっきも少し考えたことだった。

 もし羽流に彼女ができたら自分はどうするのだろう。一緒にいることも難しくなるのだろうか。

「ハルは……家族みたいなものなんだし……」

『それ。それ茂内くんに彼女ができても同じこと言える? 茂内くんの隣に菜津がいて、彼女がなんて思うか考えたことある?』

 千穂の言葉に菜津は返す言葉もなかった。

『子離れっていうか親離れっていうか、いっぺんしてみるのもいいかもよ?』

 菜津は窓の外の、明かりの漏れる羽流の部屋を見つめた。

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