災厄の前夜:血に染まる管制塔
夜が明ける。
大陸軍の中央基地では、朝から多くの兵士が式典の準備をしていた。
「馬鹿が」
『まぁそう言うな。そろそろだぞ』
「そうね。そっちもしっかりと準備しておいてね」
『了解』
中央基地の管制塔の上に、アリスは立っていた。
一方ケイは、基地から1キロ以上離れた場所にある建設中のビルの中から、スナイパーライフルを構えていた。
「じゃあ、始めるよ」
『……あぁ、存分に暴れてこい。武運を祈る』
「そっちも頑張って。オーバー」
アリスはヘッドセットを取ると、地面に叩き落とした。
そして、付いていくようにアリスは飛び下りた。と見せかけて、管制塔の最上階の窓ガラスを素手で破壊し、中に跳び込んだ。
「な……ッ!」
そこには、20人以上の兵士がいた。全員ハンドガンを携行し、出入り口付近にはサブマシンガンが2人。
「死ね」
ダンッ!という、踏み込む音。
アリスは出入り口目がけて跳躍、同時にノックスとルーメンを抜刀。
そして着地と同時に体を回転させ、サブマシンガンを持った2人の兵士の首を斬り裂く。
時計回りに斃していくと決めたアリスは、そのまま左に立っていた3人を同時に斬り、そのまま奥へと進んでいく。視界に入った兵士を片っ端から切り裂いていく。そして兵士は、例外なく一撃で死に至った。
最後の3人、ここで兵士が我に返り、ハンドガンを抜いた。だが、引き金は引けなかった。
バシュッ!という音と共に、3人の胴体が一撃で両断された。
「……次は下か」
僅か1分程度の戦闘だった。ノックスとルーメンに付着した血を一振りで払い落すと、アリスは階段を下りて行く。
「誰」
ヒュン!ザクッ!
階段の脇にいた警備兵の心臓を、虫を追い払う感覚で切り裂く。そのままゆっくり進んでいると、階下からいくつもの足音が聞こえた。
「敵が侵入したぞ!」
「殺せ!」
どうやらばれたらしい。
アリスは一度ノックスとルーメンを鞘に収めると、廊下に積み上げられていた木箱の陰に隠れる。そして腰のあたりから何かを取り出すと、それを階下に投げ落とす。
ズドォン!という爆発音。その後に、悲鳴が聞こえた。
「殺ったか」
階段を下りて、アリスは全員が木端微塵になったことを確認する。投げたのはMK3A2と呼ばれる手榴弾で、効果範囲は狭いが威力は極めて高い。
さらに階段を下りて行くと、展望室のような場所に出た。休憩する場所らしく、いくつか売店も並んでいた。
見渡す限り、人はいない。
「……こそこそ隠れてないで、とっとと撃てよ雑魚どもが」
アリスはノックスとルーメンを抜き、構える。その瞬間、売店のカウンターなどから無数の銃口が顔を出した。
「撃て!」
ガガガガガガガガッ!
今の一瞬で視認出来た敵の数は15人。完全包囲されているので、その倍以上はいる。
だが、アリスにとってそれらは蟻でしかない。噛み付く蟻は踏み潰す、ただそれのみ。
複数の射線上を這うようにノックスを移動させ、同時に床を蹴って突進。ルーメンを水平に振り売店のカウンター上にあるものごと斬った。
そのまま横方向に回転移動し、ノックスを先ほどと同じように水平に薙ぐ。カウンターの上に置かれたレジの破片が、兵士の頭と共に飛び散る。
後方から殺気。だが慌てることは無い。地面を蹴り、振り返ると同時に射線を振り抜く。それだけで、アリスを狙った弾丸がノックスに吸い込まれいき、斬られて後方へ飛んでいく。
「あと、5人か」
気付けば数が減っていた。おそらく逃げたのだろう。ここにいる5人は、銃を構えてただ突っ立っているだけだった。
「く、来るなッ!」
「撃ち殺すぞ!」
口先ばっかりだな、というのが正直な感想だった。冷静な判断すら出来ていないようだ。
「弾すら装填されていない銃で、どうやって撃ち殺すんだ?」
ほぼ同時に、カチッ!カチッ!という音が何度かした。どうやら引き金を引いたようだ。
「馬鹿が」
容赦はしない。例え敵が無抵抗だろうと、殺るときは殺る。
だがこの時は、少しだけ油断していた。
もう少し気付くのが遅ければ、死んでいたかもしれない。
殺気ではなく、物理的な熱さ。しかも細く、高密度だった。
攻撃を即座にキャンセルし、床を思いっきり蹴って回避。先ほどまでいた場所を、凄まじい速度で翔け抜けたそれは、後方の壁を蒸発させ、大きな穴を開けた。
「魔法か……」
アリスは舌打ちする。
この世界には、魔法という異質な力が存在する。アリスは、魔法に疎い。
「お、お前は、魔法が使えないのか!」
その言葉は、アリスの逆鱗に触れた。
無言で床を蹴る。ノックスが音を立てて空気を切り裂く。同時に、敵兵の指先に球状の光が現れる。
次の瞬間、アリスは目を見開いた。
バギャンッ!
凄まじい音を立てて、アリスの一撃が弾かれた。それと同時に、魔法を発動しようとしていた敵が木端微塵になった。




