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果ての世界で  作者: yuki
第三部 帝国編
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World's End Project

この物語は、World's End Onlineとのクロスオーバーになります。

 優さんの住んでいた異世界に、彼の姿を借りて降り立った私は"また"繰り返す。

 1週間と言う限定された時間の中で、ある可能性を紡ぐために。

 

 世界は因果律によって成り立っている。

 紙に火を近づければ燃えるように、雨が降れば濡れるように、事象は不可避の結果を生み出す。

 人の人生もそうだ。

 運命と言う言葉があるように、生きていれば必ず避けようのない事象に直面する。

 一番身近な例で言えば「死」だろう。


 人はいつか必ず死ぬ。

 老衰、病気、事故、或いは、何者かの手によって。

 方法は様々だが、いつか訪れる死から逃れることはできない。

 他にも両親からの遺伝によって生まれる前から身体的な数値はある程度決まってしまう。

 人生にはこうした、避けようのないポイントが幾つも存在する。

 私はそれを、運命の収束と名付けた。世界が決めた避けようのないイベント。

 私の死も、運命の収束によるものだった。


 フィーリルに進行してきた敵勢は成す術のない私達を捕えて殺す。

 そんな理不尽な運命を受け入れられる筈もない。

 私は抗い、概念魔法と呼ばれる、世界の理に干渉する力を手に入れた。

 運命は変えられる。ただそれだけを信じて、何度も何度も死ぬまでの工程を繰り返し、どうにかして回避できないかを検証し続けた。

 でも、無理だった。私一人の力では、強固な運命の収束を止める事ができない。

 だから私は一計を案じることにした。


 運命の収束が因果律によって生じるならば、因果律そのものを歪めてしまえば収束を回避できるのではないか。

 そんな安易な思いから、異世界の他人の魂と自分の魂を結びつけたのだ。

 結果は自分でも驚くくらいの成果を残した。

 この世界にある筈のない知識で作られた物は、この世界の因果律を大きく歪めることができたのだ。

 フィーリルで死ぬ筈だった私は、敵勢を追い返すと言う考えもしなかった成果を残すことができた。

 けれど、歪んだ因果律は元に戻ろうとする性質を持つ。

 因果律は私を異分子とみなし、排除しようとしたのだ。

 その結果、フィーリル地方の小さな戦乱は飛び火し、遂には国家間の紛争にまで発展した。

 運命の収束はなくなったわけではなかった。ほんの少しだけ、タイミングが遅れただけなのだ。


 挫けそうになったこともある。

 未来を変えることなんてできないのではないかと嘆いたこともある。

 でもその度に彼は優しく大丈夫だと笑った。巻き込まれただけの被害者だと言うのに。

 私がこの運命の収束から抜け出せたのは、何から何まで彼のおかげだ。

 私のせいで何度も殺され、それでもなお、私を生かすことを考えてくれた彼の想いは並行世界の壁を越えて収束したのだ。

 彼の概念魔法は、私だけの騎士と言ってもいい。

 ただ、私を生かすこと。呪われた死の運命から、私を異分子とみなした因果律から解放すること。

 そうして私はようやくこの世界で生きることを認められたのだ。


 だが、概念魔法には必ず代償が存在する。

 彼と私は近くにあり過ぎた。

 同じ身体で悠久の時を過ごし、記憶領域が不足して死ぬ筈だった私を助けようと一体化したせいで、彼と私の因果律は癒着し、呪われた死の運命は彼にも伝染してしまった。

 今から一週間後に、優さんは必ず死ぬ。

 魔法の使えない彼に、因果律を歪められない彼に、定められてしまった死を防ぐ手立てはない。

 私は彼を救う手立てを探し、ようやくとある可能性を見つけた。


 彼の概念魔法は"私"を因果律から、運命の収束から守ること。

 そして人は"身体"と"魂"で成り立っている。

 もしも彼と私が同じ世界に、別々の魂で存在できたなら。

 私の身体に優さんの魂を、優さんの身体に私の魂を固定できたとしたら。

 身体と魂は2つで一つの存在だ。

 魂が優さんであっても、私の身体であればそれは"私だ"。

 身体が優さんのものであっても、私の魂が宿っているならば、それは"私"だ。

 身体が死ねば魂も死に、魂が死ねば身体も死ぬのだとすれば、優さんの概念魔法はどちらの"私"も守ってくれるはず。

 そうすれば彼を取り巻く運命の収束は回避できる。


 ただし、この仮説には問題がある。

 私一人を守ってくれた時と違い、概念魔法の範囲が2人に広がれば効力は弱まってしまう。

 この状態で運命の収束から逃れる為には、再び因果律を大きく歪める必要があった。

 その方法は、私と優さんが同じ空間に実態を持って存在すること。

 出会う筈のなかった私達が、世界の垣根を越えて手を取り合う事ができるならば、運命の収束は起こらない。


 世界の垣根を超える魔法を何年もかけて探し研究した。

 そうして限界を知ってしまった。

 魔法だけではどんなに努力しても質量のない物質を転送することしかできない。

 人の身体どころか、砂粒一つさえ違う世界に贈ることはできないのだ。

 だからといって諦める訳にはいかなかった。

 今の私は一人ではない。あの頃の何も知らなかった私ではない。

 この世界の因果律を大きく歪める事ができたのは、彼の知識があったからだ。

 だから今度は、私が彼の世界へ行く事にした。

 彼の世界にはない魔法を発展した科学と組み合わせる事で、因果律を超えられる可能性を信じて。


 何度も繰り返して情報を集めたから調べは済んでいる。

 世界を繋ぐ扉に一番近い科学者の名前は"霧島祐也"

 大学で研究に勤しんでいる、一人の科学者だった。

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