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果ての世界で  作者: yuki
第三部 帝国編
31/56

海戦に向けて-2-

 皇国海軍最高指揮官であるイレーンは突然現れた自分の子どもより小さな少女に思わず胡乱な視線を送っていた。

 差し出された書簡を訝しげに受け取ると、開こうとして見えた封蝋に思わず目を見開いた。王家にしか使うことが許されない紋章が入っていたからだ。

 どう見てもこの小さな少女に王家との関わりがあるとは思えないが、少女の背後に控えているのは数名の王立騎士団。

 国王陛下を守護するために作られた少数精鋭が集う騎士団を護衛にしている時点で政治的に重要な人物だということは分かる。

 この忙しい時期にどこかの国の姫の護送でも命じられるのだろうかと内心舌打ちしながら書簡を開けばそこに書いてあったのは短い一文だけだ。


 "これをもつ少女が行った質問を全て答えよ。この命令はあらゆる軍規を超越する"


 下には何度か見た事のある国王の署名が連なり印まできっちりと押されている。そして背後に控える王立騎士団。

 彼は初め国王の正気を疑った。ここに書いてある情報はありとあらゆる、全ての情報を包み隠さず正直に少女に話せといっていることに等しい。

 海戦に使われるような大型の船はどうしたって量産できない。材料然り、製作にかかる時間然り、必然的に古いものをどうにか修理して使いまわすしかなくなる。

 船によっては弱点となりうる致命的な欠点を抱えている事も多いのだ。

 また乗っている船員、特に魔術師の数は海戦に置いて非常に重要な情報になりえる。大きな船だから魔術師が多いだろうと、離れた一回り小さな船を狙ったら許容量を遥かに超えた魔術師が乗っていましたという騙し討ち戦法を取る事だってあるのだから。

 それ故に船の詳細な状況や人員の配置などは一切秘匿されるトップシークレットでもある。

 それを、国王はこの小さな少女に包み隠さず話せといっているのだ。

 

 イレーンは国王を高く評価している。一つは大した家柄でもなかった自分を海軍の最高指揮官に任命してくれたことだ。

 一代前の指揮官は典型的な無能貴族といった輩で、軍隊を私物化までしていた。海賊が出現したというのに自分の親族の護衛に要らぬほど大掛かりな艦隊を付けて海賊への対処を後回しにする事など日常茶飯事だったのだ。

 しかし貴族としての格だけは高かったせいで文句を言うにも言えず、イレーンはその尻拭いに翻弄された。

 今まで海の安全を守ってこれたのは全て彼の涙ぐましい功績と言っても過言ではない。

 そしてもう一つは同じように腐敗した貴族を様々な手管で主要なポストから削ぎ落として行くのをこの目で見ていたからだ。

 これまで何度か首をかしげるような命令がなかったわけでもないが、全てが終わった後で振り返ってみれば命令に大きな意味があった事を気付かされる。

 国王は慧眼の持ち主だということを彼は少しも疑っていなかった。

 が、その信頼が目の前の少女で流石に少し揺らぎを見せた。

 首をかしげる命令どころの騒ぎではない。よもやロリコンの気質でもあって目の前の少女にほだされでもしたかと邪推さえしたほどだ。


「この国の海戦について詳しく教えてください」

 セシリアの言葉にイレーンは更に眉にしわを寄せた。彼女の瞳から予想以上の理性と強い意志のような物を感じたからだ。

 国王の勅命とあって答えないわけにも行かない。これがセシリアと二人きりの場であれば幾らでも誤魔化しようがあるが、背後には王立騎士団が控えているのだ。

 下手な回答をすれば国王の勅命に逆らったことになり、地下牢行きまでありえる。

 結局イレーンは危ない情報は多少誤魔化しつつ素直に答えるという選択を取らざるを得なかった。


 7歳のセシリアは海戦を知らない。その母親であるシスティアも執事のロウェルも当然知るはずがない。

 商船の商人ならともかく、彼等は普段陸で暮らし、船に乗ったことなど一度としてないのだ。

 だからまず予備知識として海戦の流れを把握する必要があった。

 その為に国王にお願いして海戦に一番詳しい人間と話ができるように取り計らってもらったのだ。

 国王の推薦が海軍総指揮官だったのは少し意外ではあったが彼の推薦に間違いがあるはずもない。



「そうですね、ではまず基本的なところから、船がどういうものかについて説明します」

 皇国の船は全て帆船だ。櫂による操作を行うガレー船は一隻も存在していない。

 理由としては櫂を操作する人員が必要になるガレー船は燃費が悪いというもの。

 多人数が乗り込むということはそれだけ食料も船の大きさも必要になりトラブルだって増える。

 船の喫水が下がることによる速度低下も由々しき問題だ。

 そもそも櫂で漕ぐというのは極めて重労働で、戦闘時に爆発的な加速に期待できる時間は精々が十数分だといわれている。

 それならば魔法による水流の操作や風の操作で速度を出した方が遥かに経済的なのだ。

 

 艦隊に使われる船の種類は大まかに3つある。ガレオン船、キャラック船、キャラベル船だ。

 ガレオン船は少し細長い印象を受ける船で喫水が浅いことから速度が出る上、積載量も多く商船としてもよく使われている一般的な船だ。これを大型化し搭乗人数を増やす事で戦艦、或いは巡洋艦としての役割を負うことになる。

 キャラック船はガレオン船よりも横幅が大きい為に速度的な問題が出る物の、安定性と積載量が大きい。その為補給船として使われることが多かった。

 最後のキャラベル船は前者2つに比べて圧倒的に小さいが小回りも効くし浅い海岸にも入れる利点を持つ。

 速度も速いので多くは哨戒用、探査用として使われることが多かった。

 戦艦以外の等級の船で軍に属している船の事をフリゲートといい、その中でも戦闘能力があるものを護衛艦という。

 

 皇国に配備されている船の数は然程多くない。

 戦艦級が7隻、護衛艦が13隻。元々地続きの王国と争っていた影響もあって海軍の整備はかなり遅れてしまっているのだ。

 規模で言えば海路を使って商売している商国の方が余程大きい。



「ここからは海戦についてですね。まずどうやって敵を発見するかについてお話します」

 海戦では基本的に"波紋"と呼ばれる策敵魔法を使って敵を走査し、発見次第戦闘に移る。

 この波紋という魔法は自分の魔力を薄く周囲360℃全面に放つ魔法だ。

 もし魔力を持つ人や魔法具があれば放たれた魔力が干渉し、大体の位置がつかめるのでそこへ向けて船を走らせて撃墜することになる。

 ただ気をつけなければならないのは、"大体の位置"だけしかつかめないところだ。

 波紋の範囲は人によるが、熟年の魔術師の最大射程で半径10km程度と通常の攻撃魔法とは比べ物にならない広大な範囲を持つが、距離が遠くなればなるほど位置の把握が難しくなる欠点も持っていた。

 100m程の近距離であればほぼピンポイントで把握できるが、この距離であれば既に目視確認もできるだろう。

 500mを越えた辺りから位置はおぼろげになり、1kmを越えると薄ぼんやり分かる程度で最大射程の10kmだと方向がどうにか感知できる程度の正確さしか備えていない。

 だから小型の探索船を幾つか別方向に放ち、主要艦隊から離れて全方位を走査させるのが一般的な方法だった。

 

「波紋の魔法は敵の船の大きさ等も分かるのでしょうか」

 セシリアが波紋について疑問に思ったことを片っ端から尋ね始める。

「魔術師が何人搭乗しているか、魔法具がどの程度搭載されているかをおぼろげに把握することは可能ですが、船の大きさまでは把握できませんね」

「相手の魔力の大きさなども確認はできますか? 小さいと反応が現れないとかもあるのでしょうか」

「この魔法はあくまでも魔力があるかを探索する魔法です。ですから、余程小さくない限り反応は現れますが魔力の大きさまでは……」

 そんなセシリアの矢継ぎ早の質問にイレーンは丁寧に答えていた。

 もとより王立騎士団が控えている前でいい加減な回答はできないのもあるが、誰かが海戦に興味を持ってくれることは存外に嬉しいことだったのだ。

 幸いにして機密に関わるような質問はまだ一つもない。海兵ならば誰でも習う知識を教えるくらいであれば躊躇う必要性はどこにもなかった。



「何か質問がなければ次に行きますね。次は敵を発見した際の戦闘についてです」

 戦闘は主に魔法と白兵戦によって行われる。

 船の甲板に魔術師部隊を並べて敵船に向けて魔法攻撃を行うのが基本だが、場合によっては弓兵による火矢も打ち込まれる。

 といってもこれは効果が薄くもあった。

 船にいる人を全て殺すよりも船を沈めた方が手っ取り早いのは誰もが理解するところだ。

 木造の船はどうしたって火に弱いし、魔法によって船底に穴でもあけられれば浸水でどうにもならなくなる。

 そうならない為にも、魔法は船の防御に回す傾向が強く、火矢程度の軽い攻撃は全て展開されている防御魔法によって弾かれてしまうのだ。

「魔法による攻撃で最も大事なことは数を揃える事です。攻撃魔法と防御魔法ではどうしても防御魔法が有利なので攻撃は慎重に見極めなければなりません」

 

 防御魔法の方が有利。何より厄介なのはこの問題だ。

 例えば実力が同じ魔術師を100ずつ集めて片方が全て攻撃、片方が全て防御を行うとどうなるのか。

 普通に考えれば100:100となり完全な相殺になるように思えるが、魔法は対象までの距離によって威力が減衰してしまう。

 最大射程で放った魔法が敵の防御魔法に当たっても相殺できる威力は既になくなっており、防御魔法の耐久値を越えることができず少し残ってしまう。

 そしてこの"少し"は多数の魔術師で行われる海戦に置いては酷く重要な要素になる。塵も積もればなんとやら。

 

 敵の防御魔法を打ち破るには攻撃役を増やす必要性があり、必然的に自分の船の防御魔法を弱めなければならない。

 するとそこにめがけて他の船が集中攻撃をする可能性も出てきてしまい、攻守のコントロールを上手く運ばねば海戦には勝てないのだ。

 これを見てくださいといい手渡された航海日誌にはずらりと過去の戦闘の結果が事細かに記されていた。

 

……

 敵旗艦を補足、味方フリゲート艦と共に両舷からの集中攻撃を行い、撃沈

 敵フリゲート艦を2艦補足、味方3艦と共に攻撃を決行、割り込むように敵艦を分断、両舷からの集中攻撃を行い撃沈するも味方1艦を失う

 敵旗艦を捕捉するも片舷からの攻撃しか行う事ができず、敵旗艦は離脱す

……

 

 敵艦影発見からの撃沈、あるいは遁走までの行動を事細かに記載されている。

 基本的に敵が見えたら2艦で挟み込むように攻撃するのが定石のようだ。そうすれば2隻分の魔術師がいることになり、防御魔法を弱めることなく敵の船を沈めることができる。

 逆に言ってしまうと、挟み込めていない場合は敵を撃沈できていない。

 両舷を包囲し2艦の火力を集中でもしない限り、攻撃対象の艦が完全に防御モードに移行するとまかないきれなくなるという事だ。

 おまけに攻撃魔法は他者の魔法に干渉し威力を殺いでしまうことがあるが、防御魔法の重ねがけはそんな心配もなく思うままに展開できてしまう。

 密度を高めた攻撃では防御側の有利はセシリアの想像以上に絶対的なものだった。

「ですから、海戦は基本的に両舷を取られることの無いよう、不測の事態に備えられるよう密集隊形で行われることが殆どです」

 指揮官の言葉にセシリアは驚く。確かに数を集めなければならないのであれば密集させるのは有効なのだろう。

 だがそれは防御を簡単に貫通できる範囲攻撃さえ用意できるなら簡単に弱点に変わるという事だ。

 攻め入る隙があるとすればもうそれしか残っていない。

 最後の確認とばかりにセシリアはイレーンへ尋ねた。

「敵艦隊を攻撃魔法で攻撃するなら何を使いますか?」

「火か風を槍状にしたものが最も有効ですね。土系の魔法は触媒がありませんし、水は形を持たないので攻撃に使うのは難しいです。氷として使うにも海の水は向いていませんから」

 海の水を凍らせるのは至難の業だ。それだけの魔力があるならもっと簡単な別の魔法があるのだからそちらを使うだろう。

 ならば、とセシリアはもう一つ質問を重ねる。

「もし貴方がフリゲート艦に比べてあまりにも小さな、けれど沢山の小船と戦うとしたらどんな魔法を?」

「こ、小船ですか……? 揺れのある海上では移動する小さな目標には中々当てづらいので……面で補いますね」

 セシリアの不思議な質問に、指揮官は戸惑いつつも今までの経験を元に即座に戦略をめぐらせる。

「というと?」

「火がついてしまえば撃沈はさけられませんから、空に細かな炎を作り雨のように降らせます」

「その解答に自信はありますか?」

「これでも長いこと指揮官を続けていますから。妥当な手段だと思っています。どこの国でもまずはそうするでしょうね」

 イレーンの丁寧な説明にセシリアが精一杯のお礼を告げると彼もまた顔を綻ばせた。

 どこか内陸のお姫様が港で軍艦を見て興味を持ちでもしたのだろうと考えたからだ。

 結局セシリアが軍事機密になるようなことを尋ねてこなかったのも原因の一つだろう。

 最も、彼の予想は後に大きく裏切られることになるが。

 

 夜、王城の客室に集まった3人はそれぞれ調べてきた内容を事細かに説明していた。

 セシリアは海戦の方法について、ロウェルは敵艦隊の情報について、システィアは海という戦場について。

 ロウェルが調べてきた敵の情報によると、敵艦隊は約130という途方もない数であるらしい。

 しかしその情報が伝えられてからというもの、帝国に潜ませている間諜からの報告が途絶えていた。最悪の事態になったことは想像に難くない。もう追加の情報が来る事もないだろう。

 分かったことはそれだけで敵の航路も準備段階も全くの不明だった。

 直前の報告では出航の準備に3週間ほどと、皇国までの移動に2週間近い時間が必要だとされている。

 

 システィアが調べてきた海図を眺めると幾つかのラインが引かれていた。

 これは恐らく帝国が通るであろうと予測されるチェックポイントだ。

 このラインは風の流れが南向きの場所や海流があって航行速度に大きな影響がある場所である。

 敵の数は130の大艦隊だ。移動する手間も時間もかかる上に積み込まれた食料というタイムリミットもある。

 なにより負けるはずがないという思惑もあるならばこういった加速ポイントは間違いなく通るといっていいだろう。

 問題は彼等に散開された場合勝ち目がなくなる点だ。恐らく大陸に近いた後、彼等は主要な港を包囲するように幾つかの小隊に分かれる。

 そうなったが最後、もう包囲網を突破できる可能性は絶望的と言ってよかった。

 だからなんとしても敵が密集して移動しているタイミングで仕掛けなければ勝機はない。

「だとしたら、ここね」

 皇国に程近い海域に、皇国へと流れる海流が存在している。風向きは北向きだが風力は緩やかで海流の流れが急ということもあって貿易のルートでも有名な場所だ。

 当然帝国がつかんでいないはずもない。

 恐らく敵艦隊はこの流れに乗って終わりと共に散開する。

 

 また"賭け"か、とセシリアは内心小さく嘆息した。

 これだけの規模の艦隊相手に逆転の一手を仕掛けるには賭けが必要なのは仕方がないと誰もが思うだろう。

 この賭けに勝つことで得られるアドバンテージは言葉にできないほど大きいのだ。それこそ、数万の軍を数百程度の人数で抑え込めてしまうほどに。

 そうなればきっと沢山の人が救える。皇国も商国も戦艦を使わないで済む。

 これだけの条件が揃っていれば賭ける事は正しいことなのだろうか? 使われるチップが人の命であったとしても。

 考えてもきっと答えは見えない。


「一つだけ、方法が見つかりました。何度か危ない橋を渡らなければいけないけれど、条件さえ揃えば勝てるはずよ」

 セシリアの作戦にロウェルはもう乾いた笑いしか出せない。

 だれがどう見たって詰んでしまった盤面を、セシリアはすいすいと渡って気付けば勝ち筋さえ見つけている。

 これはもう一種の才能だ。守られるはずの存在はとっくに一人歩きして守る側の存在に変わってしまったのかもしれない。

 だからといって守られてばかりいるつもりはロウェルにはなかったが。

 この主は必ずどこかで無茶をするのだから。

 

 翌日、朝早くに駆けつけたセシリアは編み出した作戦を国王に話した。

 彼の顔が驚愕に染められるのは何度目だろうか。きっとセシリアという存在があり続ける限りこれからも数えるのが億劫になるくらい機会があるだろう。

 結局セシリアの案は採用されることになった事は言うまでもない。

 

 

 

 

 ***********

 

 

 甲板に立って空を見上げると分厚い雲が空を覆い尽くしていて、真夜中の今となっては一筋の光さえ零れ落ちてこない。

 ゆらゆらと揺れる船体の上でセシリアはたった一人、目を瞑って佇んでいた。

 時折緩くはあるものの冷たい潮風が吹きぬけ、セシリアの頬を撫でる。

 髪が幾束か揺れ動き、着ていた簡素なワンピースがゆらりとはためいた。

 不意に、セシリアの髪と服が風以外の要因で大きく舞う。同時にその顔に苦痛が浮かび唇を強く噛んだ。

 それが一定の間隔で何度となく行われるにつれてセシリアの息は荒くなり頬にも朱が走り爪が突き刺さることも厭わず二の腕を強く握った。

 唇が、掴んだ腕に刺さった爪あとが赤く滲んでもセシリアはその場を一歩も動かない。

 遂には力が抜けたようにその場にへたり込んでしまうと慌てたようにロウェルが駆け寄るものの、その肩に触れるより僅かに早く、セシリアの瞳が開かれた。

「来ました。配置についてください!」

 セシリアの一声によって静まり返っていた甲板に慌しい人々の靴音が響く。数え切れないほどの魔術師が甲板にずらりと並び今か今かとその時を待ち詫びていた。

 ここは1ヶ月ほど前にセシリアが指し示した海流の激しいチェックポイントだ。

「賭けには勝ったみたいです」

 失敗は許されない。どうにか掴んだ勝機を手放すわけにはいかない。

 敵の艦隊は130隻。対してセシリアが率いる艦隊は143隻。艦隊の数はセシリアの方が若干多いが、もし今この場に太陽があれば誰しもセシリアの艦隊を見て嘆きの声を漏らすだろう。

 彼女の率いる艦隊の殆どは民間の大き目の漁船で、フリゲート艦とさえ呼べない粗末な代物だったからだ。

 海戦では小さいといわれている護衛艦と比べたってその大きさはよくて1/2か、1/3といった程度だ。体当たりでもされれば一撃で沈むだろうし搭乗できる魔術師の差から一隻相手でも勝ち目は見えない。

 その上、用意された漁船艦隊には誰一人として乗ってすらいなかった。

 甲板には藁で作った人形に帽子と皇国の魔術師部隊の衣装にどうでも良い魔法具を埋め込んでそれっぽく見せているだけだ。

 まともにやり合えば勝てる要素などどこにもありはしないだろう。

 

 でも、甲板に立つセシリアの表情は微塵も勝利を疑っていない。

 彼女の小さい口が開かれ、宣告する。

「これより、作戦名"ジークフリード"を開始します!」

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