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果ての世界で  作者: yuki
第二部 商国編
20/56

1年後

 それから1年という時間があっという間に流れた。私もようやく7歳になったけれどまだまだ幼い。

 ロウェルが教えてくれた魔法具の作り方。初めは図を彫る手先が上手く動かずに道具で自分の手を何度も突いてしまった。

 そのせいで生傷が絶えず、染みる薬草を嫌というほど塗りこまれ白い包帯に巻かれる日々だったが半年ほどでどうにかコツを覚え、見る間に指の傷が減っていき、もう半年を過ぎれば複雑な図形であっても時間をかければ彫れる様になっていた。

 

 コンバインの方も経過は順調だ。

 親方は村に魔術師が居なくても使える書式通信があることに驚いていたが、そのおかげで報告や相談はスムーズに行うことができた。

 組み立ててから試験稼動したところ、村人は大層驚いたようだ。

 前に一人、後ろに2人が縄と手を使って引っ張らねばならないほど力が必要だったが、穂を刈り取り脱穀する作業の簡略化の恩恵は筆舌にし難いほど大きいと言われた。

 今まで1つの畑に対して数日はかかりっきりになる作業もコンバインを使うことで半日さえかからずに終わってしまったという。

 試作したコンバインはルーカスの村に預けて親方には量産の計画を話し、イシュタールにある工房で量産化を開始。

 半年ほどで各農村への配布が完了し、そのデータを纏めたものを持って商人ギルドへ赴くと販売を掛け合った。

 関わった商人はこの商売がもたらすであろう莫大な恩恵を俊敏に察知し驚嘆の声を漏らしながらも抜け目がなかった。

 独占権を部分開放して商人ギルドで手配した鍛冶屋でも量産できるようにすべきか考えもしたが、今はひとまず親方の工房で作成したコンバインを商人ギルドに引渡し、売値の9割5分をこちらが貰うというかなり有利な契約をしている。

 この方法では小数の販売しかできず、利益的には低いかと思ったのだが……やはり商人というのは抜け目ない。

 コンバインの価格は高くなってしまう為、一括で買える様な購入層は少ない。そこで分割払い、いわゆるローンといった信用取引を行い手数料を取ることにしたようだ。

 ローンで支払えばコンバインの料金は2割り増しになるが、導入すればそれ以上の利益になると宣伝し保障もした結果、飛ぶように売れていったという。

 また私たちに支払われるコンバインの売値はローンを組まない場合の値段で換算されるので商人ギルドは本来5分だった売り上げを2割5分まで上げた。

 それに加えて組み立てのサービスなり整備のサービスなり、独占権に接触しない新しいサービスを次々と立ち上げている。

 彼らにとってコンバインの販売権を握ることが重要で、売る時に利益がでるかはこの際どうでもよかったのだ。

 おかげでノーティス家の資産は1年前よりも桁が増える程の利益を得ているが、商人ギルドが得た利益はそれよりさらに桁が1つ多いかもしれない。

 

 各村々へ伝達した硝石生成の為の準備も順調だ。

 元より肥料を作る工程と類似していることからも大きな混乱や障害は発生しなかった事が大きい。

 掘り返された土の中での発酵は想像以上に早く、藁やヨモギ等の有機物は1年経つと殆ど土に分解され見えなくなった。

 この土から結晶を析出させる必要があるのだが、村にはその道具がないと半年ほど前に気付き、急遽イシュタールへ大きな樽と大人でも軽々入るほどの大鍋を発注して農村で結晶を析出させられるようにした。

 方法としては単純だ。水を張った大鍋にかき混ぜ続けた土を入れて沸騰させる。

 すると土中に含まれる硝酸カリウムはお湯に溶け、このお湯だけを樽へ移してから冷ます事によって、自然と硝酸カリウムを析出させるのだ。

 後は析出した結晶を運んでもらえば土を運ぶより手間も時間も圧倒的に少なくなる。

 

 それからノーティアに流れ込む大きな川の近くに水車小屋を建ててもらった。

 作り上げた火薬の材料を全て魔法によって粉砕するわけには行かない。かといって人力で行うには量が多すぎる。

 そこで水車の回転を利用して自動的に木の槌を振り下ろす仕組みを作り、材料の粉砕を行うことにした。

 既に硫黄と木炭に関してはイシュタールから定期的に届けてもらっている。

 細かく砕いた材料は樽の中に入れて乾燥した部屋の中に積み込むわけだ。

 

 駅馬の制度は比較的簡単に配備できた。農村騎士団の人に飼育をお願いして、今は物資の輸送で試験運用をしている。

 評価は概ね好評で、日数も遠くなればなるほど届くまでに必要だった時間が大幅に減った。

 特に首都からの物資の運搬や、解放区で行われている自由市への商品の輸送が高速化したことで利益に関しても昔より2割程度の上昇を示している。

 

 これが全て終わるのに1年。本当に長い時間だったと思う。

 でもまだまだこれからだ。これでようやく地盤が固まってきただけなのだ。

 当初の予定では1年の間にどうにかして辺境伯として認めてもらう必要があると考えていたがまだ果たせていないのだから。

1年を細かく書くべきか悩みましたがやってることは酷く単純な確認作業になるので濃縮しました。

ようやく本編が始められます。

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