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果ての世界で  作者: yuki
第二部 商国編
16/56

初めての火薬

 村に出た私は肥料を管理している村人の元にいくと、肥料の底に石が出来ていなかったかを確認する。

 肥料を作る過程で硝石も出来るからだ。土中の成分によって分解・発酵されるのはどちらも変わらない。

 無事にそれらしき石を籠に分けてもらうと屋敷の自分の部屋へと戻った。

 この硝石も肥料として細かく砕いたり水に溶かして撒いているらしい。

 

 イシュタールでは試作機の完成を待つ間に色々な店を巡って実験道具を買ってきていた。

 この世界の薬は草や花を煎じたり乾燥させたりして作られているようだ。

 その為のすり鉢やすりこぎ、ビーカーや試験管まであった。流石にガスバーナーは無かったがこれはランプで代用する。

 

 厨房で水をビーカーに半分ほど入れてもらうと貰った石を放り込んでかき混ぜる。

 ビーカーの中に入れた石は溶けて一回りほど小さくなっていた。ビーカーに触れると先ほどよりも幾分か冷たい。

 特性から考えてもこれは硝石で間違いないだろう。

 後は純度を上げるため、結晶を作る作業に移る。

 網を張った三脚台の上にビーカーを載せて加熱しつつ、貰った硝石を全て入れてかき混ぜる。

 5分ほどで沸騰した水の中には硝石が僅かな塊を残して溶けなくなっている。飽和状態になったと見ていいだろう。

 綿の布を二枚重ねてから緩く張った簡易なろ過装置をつけた別のビーカーに沸騰させたお湯を流し込む。

 砂や埃などの不純物はここに引っかかって下には高濃度の硝酸カリウム水溶液が貯まることになる。

 後はそのまま液体の温度が自然に下がるのを待つだけだ。

 硝酸カリウムは熱湯には良く溶けるが水には余り溶けない。

 だからこうしてお湯に溶かしたものを冷やすだけで飽和量が急激に下がり、溶け切れなくなった硝酸カリウムが純度の高い結晶になって析出する。

 

 その間に親方の工房で結晶化した硫黄を、買ってきたすり鉢の中に入れてごりごりと削る。

 力が必要ではあるが強化の魔法によって引き出せる力の量を上げれば然程苦労せずとも粉末状へと砕くことが出来た。

 完成したそれを脇において、もう1つ新しいすり鉢を取り出すと今度は木炭を同じようにすり潰していく。

 吹けば飛ぶくらいのパウダー状まですり潰したらこちらも完成。

 その頃にはビーカーの中の水の温度は下がっていて幾つもの透明な結晶が底に出来上がっていた。

 細い木の棒を箸の様にして結晶を取り出すとタオルでよく拭き取る。

 

 硝酸カリウムに関しては普通に砕くのは難しいのですり鉢の中に取り出した結晶を入れて厚い木の板で蓋をする。

―対象を指定 風の元素を以って廻る刃へと改変を行う―

 3年前、山のようにあった本棚から一番初めに見つけた魔法と、共通点を比べた魔法を自分なりに分析して新しい呪文にした物だ。

 強風を巻き起こすだけではなく、風の刃を内包することで対象を切り刻む微妙に危ない魔法だ。

 その規模を鉢の中に収まるくらいまで弱めて発動すればミキサーと同じ役割に変わる。風の刃なので損耗はないし静電気や摩擦も殆ど発生しない。

 始めは石が砕けるような音が、次第に砂が飛び散るような音へと変わっていく。

 いきなり開けてしまうと粉になり中で舞い上がって硝酸カリウムの粉末を吸い込む可能性があるので少し待つ。

 息を大きく吸ってから止め、慎重に、ゆっくりと蓋をずらして舞い散らないことを確認する。

 そこへ若干の水を垂らしてから良くかき混ぜた。これで材料は全て揃った。

 

 木炭と硫黄を別に買ってきた革張りの容器へと移してすり潰すようによくこねる。

 次に硝酸カリウムを加えて、木の棒で出来る限り優しく、軽く混ぜ合わせてから、少しだけ小分けして別の容器に移す。

 残った大部分の混ぜ合わせた粉末をまた少し水を加えてから、今度は木の棒で練り込むように何度も何度もすり潰すようにしてこねる。

 そうやってよく混ざった火薬を、今度は綿布の上に乗せてからくるりと包んで平らな木の板の間に挟むと上に乗って跳ねた。

 こうする事で圧搾すると火薬の密度が高まり威力が上がるのだ。

 ちなみに圧搾する時に水分量が低いと爆発する。まさにでんじゃらす。

 一応足元に防御系の魔法を可能な限り強く展開しておいたが、幸い爆発することはなかった。水分も多めに加えたし。

 あとはこの火薬を竹で粗く編まれた籠の中にいれてふるい、粒の大きさを整える。

 明日にでも日の当たる庭において乾かしておけば完成するだろう。

 流石に乾燥を魔法の力に頼ろうとは思わない。先ほどの圧搾の効果でもし火がつけば爆発する可能性は既に十分にあるからだ。


 問題は火薬だけ作ったところで大した防衛力にはならないところだろう。

 あくまで火薬は武器の材料だ。この方法では大した量が作れるわけではないから爆弾として利用するのは厳しいだろう。

 かといって銃を作れるかといえば否、製法までは知らない。

 何か別の武器の開発を考えないと。

 それにしても……いいのだろうか、こんなにあっさり作れてしまって。

 実は成分が地球の物と違って爆発しないなんてことないだろうな……。

 

 翌日、木陰になる風通しの良い場所に作った火薬を放置した。この天気なら夜までには乾くはずだ。

 その間の時間を使って導火線を作ることにしよう。

 細く切った紙に糊をつけて上から昨日小分けした圧搾していない黒色火薬をまぶしていく。長さは10メートルほどもあれば十分だろう。

 後は庭に出て大きな石がないか探してみる。これは爆破の威力を測るためだ。

 苦労して見つけた抱えるような大石を7つほど、魔力を使って持ち上げると一箇所に集める。

 そうしている内に日は暮れ、乾かしていた火薬を見ると量も少なかった為十分乾燥したようだ。

 早速片面が塞がれている金属製の筒に作った火薬を入れて棒で上から突っついてしっかりと固める。

 半ばまで詰め込んでから導火線を差し込んでまた火薬を入れて圧縮。

 黒色火薬が衝撃に弱いといっても、不純物が混じってさえいなければ空気を逃がす程度の力で圧縮したくらいなら反応しない。

 最後は反対側を魔法を使って物質の創造を行い導火線の穴だけを残して完全に密封する。

 思わず膝をつきそうになるほどの魔力が一気に持っていかれた。やはり素材を使わずにゼロから創造するのは骨が折れる。

 全ての準備が出来ると、ロウェルに複合魔法の実験をすることを告げて庭に来てもらった。

 記念すべき1回目の実験で作った黒色火薬の量は100g。

 爆弾を予め集めておいた石で完全に囲んで導火線を延ばして準備完了。

 

「それでは、試しに使ってみますね」

「本当にこれで複合魔法になるのですか?」

 なる、はずである。配合比率も純度も問題なかった。これで爆発しなければ何か手順が間違っていたことになる。

 若干の不安を残しつつも伸ばしてきた導火線に向けて魔法で火を放とうとするが上手くいかない。

 そういえば爆弾の蓋を素材を使わずに創造したからもう魔力が切れているんだったっけ。

「ロウェル。あの導火線に向けて小さな炎の魔法を使ってくれませんか? 火をつける感じで」

 そう頼むと短い呪文の詠唱の後右腕が振られ、マッチくらいの大きさの炎が導火線に触れ着火。

 細かな火花を撒き散らしながら少しずつ火が伝っていく。

 40、39、38、37、36、35……。

 一応、念の為に直線状ではなく、建物の影に移動して様子を見ておくべきかと思って興味深そうに眺めているロウェルを無理やり引っ張って隠れた。

 10、9、8、7……2、1、0。

 カウントダウンを追えた瞬間にとんでもない爆音が響いた。

 所詮黒色火薬と思っていたのに100gともなればかなりの規模になるらしい。

 精々が岩を転がす位だろうと思っていたのに、目を前を砕けた石の欠片が水平にすっ飛んで行く。

 もし建物の陰に潜んでいなかったら今頃砕けた破片をしこたま浴びて全身打撲と切り傷を作っていたかもしれない。

 これには隣のロウェルも驚きすぎて目を白黒させていた。恐る恐る爆弾を仕掛けた場所を覗けば白煙が吹き上がりよく見えない。

 ロウェルに頼んで突風を巻き起こす魔法を使ってもらい白煙を吹き飛ばすと、そこにあったはずの大石は一つ残らず砕け散って何も残っていなかった。

「えぇー……」

 何が転がす程度だ。そういえば密閉された車内で10gの黒色火薬を爆発させると人さえ即死するって言う記述をどこかで見たような……気がする。

 

「どうしました!? 今の音は……って」

 騒ぎを聞きつけて来たメイドが眼前に広がる光景を目にして唖然としていた。

 爆発地点は多少抉れて黒く煤け、周りにあった草は見事に放射線状になぎ倒され、砕けた石は幾つかが屋敷の方にも飛来して壁の一部を欠けさせ、ガラスを何枚か破損させていた。

 爆弾から家までの距離は凡そ20メートル程度。まさかここまで被害がでるとは微塵も思っていなかったのだが……。

「ロウェル、これは一体どういうことなんですか」

「え!? いや、これはその……」

 どうやらメイドの彼女は目の前の光景をロウェルが引き起こしたと勘違いしたらしい。

 かといって表立って私のせいだと言うのも躊躇われたのだろう。

「違うんです。これはその、私が」

「お嬢様が庇う必要はありません。ほら、ちょっとこっち来なさい!」

 助け舟を出そうと訂正するも余計に勘違いが促進されたようで有無を言わせぬ口調と主に力技でずるずるとロウェルを引きずって行く。

 そういえば私が魔法を使えることを知ってるのは屋敷の中ではロウェルとお母様だけだったと今更ながら思い出した。

 ロウェルも魔法の心得はあるそうから、あの場で疑いの目が行くのはロウェルしかいない。

 訂正しようにも今日は先ほどの蓋を作った時の力技のせいで魔力は打ち止め。魔法が使える証明が出来ない。

「ごめんなさいロウェル……」

 後で幾らでも謝ろう。今はただ引きずられていく彼を見送ることしか出来なかった。

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