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果ての世界で  作者: yuki
第二部 商国編
13/56

馬車と仕事と現実逃避

改稿しました

ピンと来た方は内容が大分変わってしまったため、

3話くらいまで撒き戻って読まれる方がストーリーを楽しんで頂けると思います

 報酬と手配の方法を決めるとひとまずノーティアへ戻ることになった。

 帰りの馬車は速度控えめ。クッションが変わったことで揺れは大幅に軽減し外を見る余裕も生まれた。

 

 例の道具はひとまずルーカスの村に送ってもらう事にした。弟子の何人かが一緒に乗り込んで村で組立作業をしてくれるらしい。

 既に小麦は乾燥を始めているからもうそろそろ収穫しても良い頃だ。丁度最盛期に使われれば気付かなかった問題や改善点が見つかるかもしれない。

 私が知っているのはあくまで道具の作り方と使い方であって経験が紐付かない。

 だがもしこれによって大幅な作業日数の低減が可能ならば、いよいよ各農村へ駅馬の配置を行うことが出来る。

 それと同時に火薬の材料である硝石、硝酸カリウムを作ってもらう作業も残っていた。

 

 火薬で一番使うのはこの硝酸カリウムだ。土中から鉱石として採掘できることもあるそうだが、どういう条件がある場所でなら採掘できるのか詳しく知らない。

 本当はハーバー法によって製造するのが最も効率も良く手間もかからないけれど、高温高圧で処理を行わねばならず自前の知識では設備が作れない。

 そこで思い付いたのが自然分解による製造だ。

 かつて日本の武将が火薬の製造を国内で行おうと試みた事がある。戦争で最も重要な武器である火薬をどの程度生産できるかが戦の勝敗を決めたといっても良い。

 作り方としては土壌が持つ分解を人為的に促進させる。

 土中には大抵どこにでもいる硝酸バクテリアが糞尿や藁に含まれる動物性たんぱく質を分解し亜硝酸という物質に変わるが、亜硝酸は時間とともに酸化し硝酸となる。

 この硝酸がこれまたどこにでもある土中のカルシウムと結合し、灰をくわえる事によって主成分の炭酸カリウムが作用し硝酸カリウムに変わる。

 やっている事は藁と糞尿と木灰を数年間の間ぐるぐるとかき混ぜるという奇怪な行動だったが実に理に適った行為でもあったわけだ。

 ただこの方法で作るにはどうしても時間が2~3年もかかってしまい、余り効率的とはいえない。

 そこでまた一工夫。この世界が本当に地球と同じような環境で助かった。

 

 親方に作ってもらった試作一号機でひとまずの感触は得られた。

 硝石の製造はどうしたって個人では出来ないからそれぞれの村の人たちに作業をお願いする必要がでてくる。肥料を作るのと似たものだから多分戸惑いはないはずだ。

 早馬を走らせてお願いするとして、どのくらいの日数と人数が必要かを膝の上に広げた地図で考えているとロウェルが良い方法があると教えてくれた。

「通信設備を使うのがよろしいかと存じます」

「通信設備、ですか」

 ロウェルはそういうが、実は通信設備がどんなものか分かっていない。

 魔法による連絡手段の一種だと思っているのだが、そもそも村に魔法を使える人間はあまりいないと聞いている。

「通信設備は書式通信と音声通信の2つが御座います。この内書式通信は魔力の消費が少ないので太陽から受けられる自然の魔力でも成立するのですよ」

 村々への伝令は通信施設によって行われている。これも魔法具の一種なのだが、書式通信は魔力を人から供給するのではなく太陽光によって補充しているらしい。

 現代科学の知識はあってもこういった魔法の知識はさっぱり分からない。


 書式通信というのはメールのようなもので送れる情報量が少ない代わり消費魔力も低いのだという。

 それとは別にある音声通信は電話のように会話が出来るが書式より圧倒的に大きな魔力を使ってしまう為、魔術師のいる場所にしか置かれない。

「書式通信で手紙を送れば全ての村に伝わるのですか?」

「ええ。バレル様が有事の際に連絡が遅れてはならないと普及させた物ですから。村長には毎日確認するように厳命していますので、夜までには伝わります」

 なるほど、活版印刷が作られていないのはメール機能がこの世界に作られているからかもしれない。

「そういえば昔、お父様に報告書を見せてもらいました。それに村の税収の報告書もそうですが、もしかして通信の内容を紙に書き写したのですか?」

「ええ、そうです。毎日朝早くに私ども使用人が届いた書式通信を紙に書き写すのですよ」

 だからあれほど詳細な情報を集めることが出来たのかと納得する。

 ついでにこの魔法の道具に印刷機能でもつけられればロウェル達の手間も減らせるかもしれない。

 インクの尽きないペン然り、何かに呪文をこめて発動するというのは色々と応用が効きそうな気がする。

 今の技術では作れない部品ももしかして魔法具という仕組みに落とし込む事で使えるようになるんじゃないだろうか。


「ロウェル。屋敷に戻ったらその、手紙の送信をお願いします」

「かしこまりました。セシリア様」

 どの道硝石が大量に得られるようになるまで1年は必要だ。確かノーティアにも農業用の発酵が終わった肥料があったはずだ。

 あれを少し分けてもらって、硝石を製造できないか試してみるのもいいかもしれない。

 

 帰りの馬車では景色を眺める余裕もできた。森の中にはうさぎやリスなんかも時々姿を見せてくれるから見ていて飽きない。

 一面に広がる花畑に止めてもらって休憩することにした。蜂が出てくるのが少し怖かったが、辺りでは有名な蜂蜜の産地でもあるらしい。

 休憩を申し出たのは色々と限界だったからだ。

「という訳でそろそろ手を離してください!」

 何が"という訳で"なのかは私にも分からないしどうでもいい。大事なのはそんな些細なことじゃない。

「いいじゃないの。昔みたいに抱っこしてあげるわ」

 馬車の中で初めからずっと、しっかり、がっちり、私の身体はお母様の細腕によって膝の上できっちりホールドされてる。

 ぎぶぎぶ、へるぷみー。

 どうしてこんな事になっているのか、きっかけは昨日の夜に撒き戻る。

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