第三話 恋愛シミュレーションゲーム~爆モテ~
主人公はベッドの上で体を起こす。
「君が森で倒れていたから僕の家に運んだんだ。僕の名前はサファイアブルー。君は?」
「私はあああ」
「あああか。いい名前だね」
「ありがとう……名前を褒められたのは初めて……」
主人公が頬を赤く染める。まあ「あああ」なんて名前じゃ普通は褒められないだろうが。
「どうなの? 女の子って名前褒められたら嬉しいものなの?」
一応胸キュンシーンっぽいし、後学のために千冬に聞いてみよう。
「好きな人から褒められたら名前でもなんでも嬉しいよ」
「そんな本末転倒な」
俺が誰かの名前を褒める日は来るのだろうか。なんというか誰かの好きな人になる未来が見えないな。そんなことを考えながらもゲームは進む。
ベッドの上で憂鬱な顔をする主人公。サファイアブルーが優しく声を掛ける。
「どうしたの? 俺でよければ話を聞くよ」
「実は私、婚約破棄されて……」
「あーそれは婚約者が悪いわ。俺があああの婚約者なら絶対にそんなことしないのに」
サファイアブルーは椅子から立ち上がり、主人公がいるベッドの上に座った。それから主人公を抱き寄せる。
「俺の胸なら貸すよ?」
サファイアブルーは会ったばかりだというにずいぶん積極的だな。これが乙女ゲーのスピード感なのだろうか。
画面の中では主人公のモノローグが表示される。
「あああ、ドキドキする。どうしよう。まだ名前くらいしか知らないのに……」
またまた困惑した声なのか自分の名前のことなのか分かりにくい。画面に選択肢が表示される。
「サファイアブルーの胸で泣く」
「サファイアブルーの手を払い退ける」
画面の中で「サファイアブルーの手を払い退ける」が選択された。俺が何か言うよりも早く。
「私、髪を染めてるようなチャラい人はタイプじゃないんだよね」
凛とした顔をして千冬は言う。つまりタイトル画面に表示されていた男性陣は全員脈なし判定を受けたということだ。
千冬はタイプがいないならどうしてこのゲームを買ったのだろうか。というか中世ヨーロッパ風異世界ファンタジーだから、別にサファイアブルーも地毛であって髪を染めてるわけではないと思うのだが。
ポチポチとコントローラーのボタンを押す千冬。サファイアブルーの手を払い退けた主人公は、慌てた様子で靴も履かずに部屋の扉を開け外へ出た。
画面に映るのは一人部屋に取り残されたサファイアブルー。サファイアブルーは放置された主人公の靴を手に取り、自身の鼻に近づけた。
「ふっ、おもしれー女」
口元を綻ばせている。どうやらサファイアブルーの好感度が上がったようだ。靴の匂いフェチなのだろうか。同じ男としてサファイアブルーの気持ちは一切共感できないし、この活動が恋活に役立っている気がしないな。
画面は切り替わり、裸足で石畳の上を駆ける主人公。サファイアブルーの家は町の中にあったのか。
「ちょっと待ちな。そこのお嬢さん」
声を掛けられる。画面には緑色の髪をした男が表示されている。髪色が黒じゃないしこいつもタイプじゃないって切り捨てられるんだろうな。
「なんでしょう?」
「どうやら履いていないようだね?」
靴を履いていないことを指摘されたようだ。主人公の視線が地面に向かう。それから目を丸くする、どうやらようやく主人公が靴を履かずにサファイアブルーの家を飛び出したことに気づいたようだ。
「実は、私急いでいて……」
「エクセレント! 君こそが私の求めていた女性だ!」
嬉しそうに男が両腕を広げている。
「あの……一体どうして……」
「取り乱してすまない。私の名前はエメラルドグリーン。遂に会えたのだ。パンツを履いていない女性に!」
「えっ……」
画面の中で主人公が固まっている。俺も困惑している。履いていないのは靴の話だったはずだ。
「靴を履き忘れるくらいなのだ。きっとパンツも履いていないに違いないと思って声を掛けたが正解だったようだな! ノーパン女子は俺の夢だったのさ」
エメラルドグリーンは満面の笑み。
「どうしよう。そんなに自信満々に言われると私は今日パンツを履いていたか不安になってきたわ」と主人公のモノローグが表示される。
普通に考えたら感触で分からないものだろうか。女性もののパンツ履いたことないから憶測でしかないが。後学のために千冬に聞いてみようかと思ったが「変態」とか罵られそうだから自粛しておこう。
思い出した。私は今日パンツを――。
「履いている」
「履いていない」
選択肢が表示される。
「大和はどっちが好き?」
千冬に聞かれた。恋活力向上シミュレーションなら男として一般的な答えを言った方がいいだろう。
「まあ履いていた方が脱がせる楽しみがあって好きかな」
「……脱がせるなんて変態」
結局変態と罵られた。
画面の中ではエメラルドグリーンが衝撃を受けた様子で取り乱している。
「そんな……履いているだなんて……嫌だ、信じられない」
「ごめんなさい……あなたの期待には応えられないわ」
「嘘だ! 信じない! 見せてみろ。パンツを!」
エメラルドグリーンが主人公に距離を詰めてくる。
選択肢が表示された。
「エメラルドグリーンにパンツを見せる」
「エメラルドグリーンにビンタをする」
さすがにこれは一択だろう。
「ビンタだよな」
俺が言うと千冬は頷いた。
「この変態!」
主人公がエメラルドグリーンに力強くビンタをした。それから逃げるように全力で駆けだす主人公。
画面には路上で立ち尽くすエメラルドグリーンが表示されている。
「はじめて女の子に叩かれたがこれはこれで悪くないな」
どうやらサファイアブルーに続き、エメラルドグリーンの好感度も上がったようだ。
「ああ……名前を聞きそびれてしまった。またビンタされたいものだ。ついでに蹴られたり踏みつけられたり唾をかけられたりしたい……」
エメラルドグリーンが恍惚とした表情で言う。
名前は惜しいぞ。あと一文字足せば見事正解の「あああ」にたどり着いていた。
「ねー、ビンタしたら大和は私のこと好きになってくれる?」
ゲームのせいで千冬の恋愛観が壊れていく。
「そういうので喜ぶのは一部の人だけだから……」
「だよねー。現実もこれくらい簡単だったらいいのに」
千冬はため息を吐き、ゲームを進めた。その気になれば逆ハーレムを簡単に作れるくらいには千冬は既にモテているのと思うのだけどな。
◆
その後もゲームの中で主人公は次々と男性に会い、そのたびに惚れさせていった。俺と千冬がどんな選択肢を選んだとしてもだ。エンドロールが流れるころには「あああ」は十五人の男と並行して付き合っていた。
不思議に思ってインターネットで検索すると、このゲームはどんな風にプレイしても最後には逆ハーレムを形成する親切設計がウケているらしい。
春休み最終日を消費して、恋活力は一切向上した気がしなかった。
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