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第二話 恋愛シミュレーションゲーム

「今日は大和の家に行くから」


 春休みの最終日に千冬からメッセージ届いた。なんとか課題も終わり予定も特にないため「了解」と返事をする。

 三十分ほど待つと千冬が家に到着した。春らしいワンピースを着た千冬は左手に紙袋を持っている。俺の部屋に入ると千冬は紙袋からゲーム機を取り出した。


「何事も事前にシミュレーションしておくことが大事だと思うの」

「シミュレーション?」

「そう。だから恋活のシミュレーションをするの。これで恋活力をアップだよ」


 そんなことを言いながら慣れた手つきで千冬はゲーム機をテレビと接続する。テレビの電源がついた。


「幸せ! 婚約破棄から始まるハッピーライフ!」


 爽やかなイケメンボイスとともにタイトルコールが部屋に響いた。テレビの画面には一人の女性と複数の男性が表示されている。男たちの髪色は赤青黄色と様々でこれらの男が攻略対象なのだろう。


「いま一番売れている乙女ゲーらしいよ」


 千冬が言った。

 乙女ゲー。それは女性向けの恋愛ゲームだ。プレイヤーは主人公の講堂を選択し、物語の進行に応じて誰かと結ばれたり結ばれなかったりするというもの。


 手元のスマホで乙女ゲーのタイトルを検索する。ウェブ上の情報によると、どうやら中世ヨーロッパ風の異世界を舞台に恋愛劇が繰り広げられるらしい。俺たちの現実は近現代で日本だから全然違うけど本当に参考になるのだろうか。


「あああ、貴様との婚約は破棄させてもらう!」


 テレビの中から声が聞こえた。俺がウェブサイトを見ている間にどうやら千冬はゲームを開始したらしい。それにしてもキャラクターの登録名が「あああ」って適当だな。

 画面に映るのはいかにも悪そうな顔をした黒髪の男だ。王冠を被り高級そうなマントを羽織っているから多分どこかの国の王子様といったところなのだろう。


「あああ……どうして……」


 悲しげな顔をした女性が表示される。茶髪で素朴な感じの女の子だ。タイトル画面にも表示されていたし、この人が主人公なのだろう。それにしても名前を「あああ」にしたせいで嘆きの声なのか自分の名前を呼んでいるのかが分かりにくい。


「ねえ大和」


 コントローラーを握った千冬が話しかけてくる。もしかしてこの世界観だと参考にならないと気づいたのだろうか。


「どうした?」

「婚約破棄ってことは付き合っていたのよね? すでに私たちより勝ち組じゃない? 私たちなんて恋人いない歴イコール年齢なのに」


 全然違った。


「まあこんな彼氏はノーカンだろ」


 悪役設定だからか画面に映る男は全然イケメンじゃないし。きっとこれからタイトルに出てきた本命たちが続々と登場するのだろう。


「えー。私は結構好みなのだけど」

「まじかよ」


 千冬の好みは予想外だ。こんな人がタイプなのか。将来悪い男に騙されそうでちょっと心配。

 千冬はコントローラーのボタンをポチポチと押して物語を進めていく。

 婚約破棄を言い渡された主人公は屋敷を追い出されたようだ。


「あーお腹すいたな……」

 画面の中で女性が呟いた。こんな時は――。

「森で食べ物を採取しよう」

「町へ行ってみよう」


 選択肢が表示される。どちらを選ぶかで今後のストーリーが変わってくるようだ。


「どっちにする?」


 町の方が出会いはありそうな気はするが。


「今はキャンプ女子とか流行ってるし森一択でしょ!」


 千冬は即答。ゲームの中は中世ヨーロッパ風異世界だから現実の流行は関係ないと思うのだけど。そんな俺が思ったことを言うより早く、千冬によってコントローラーのボタンは押された。


「おいしそうなキノコ……」


 画面の中、森の中で主人公はキノコを見つめている。キノコは紫色でいかにも毒キノコっぽいデザインだ。


「食べてみようかな」

「毒っぽいしやめておこうかな」


 再び選択肢が表示される。


「さすがにいきなりキノコ食べるのはワイルドすぎるよね?」


 千冬に聞かれた。


「まあな。ちょっとくらい警戒心があった方が守りたくなる感があるかも」

「だよね」


 食べない方を選択。画面の中で主人公がキノコを見つめている。


「毒っぽいしやめておこうかな」

「でも毒だとしたら……食べたら死ねるのかな」

「幸せだったあの頃には戻れないのだし」


 主人公はぼそぼそと独り言を呟く。

 悲しげな音楽が流れた。それから紅茶を飲んだり、庭を散歩したり、絵画を嗜んだりと王子と主人公の思い出が走馬灯のように表示されている。

 なんか一気にシリアスな雰囲気になったな。


「もうマジ無理。これを食べて死のう……」


 主人公がキノコを食べる。結局食べるのかよ。


「ああっ、この味……舌がしびれる……意識が遠のく」


 画面が真っ暗になった。


「もしかしてこれゲームオーバーとかじゃないよな……」


「恋活の道がこんなに厳しいなんてね。そりゃ日本の生涯未婚率も上がるわけだわ」


 千冬はうんうんと頷いているけど、ゲームの世界は中世ヨーロッパ風の異世界だから、日本の生涯未婚率は多分あんまり関係ないと思う。

 何回か千冬がコントローラーのボタンを押していたら画面がゆっくりと明るくなった。どうやらまだゲームオーバーではないらしい。

 画面の中では、装飾品一つないシンプルなベッドの上に横たわる主人公が表示された。


「ここは……」

「目が覚めたみたいだね」


 これまたシンプルな椅子に座る青髪でマッシュスタイルの男が現れた。男の服装もシンプルだし、庶民の暮らしというやつで、目の前の男が攻略対象の一人なのだろうか。この男はタイトル画面にも表示されていたような気がするし。

 ついにイケメン登場ということでここからゲームが本番といったところなんだろうか。

少しでも面白いと思ってもらえたら感想ブクマ評価等貰えると嬉しいです!

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