6話 殴る相手は確認しよう
痛い…何が起きた…?
(モノ、大丈夫?)
大丈夫な訳ねぇだろ。耳取れた時より痛いぞ。
俺は吹き飛ばされて木に寄りかかっているみたいだ。
左側から殴られたから左腕が動かない。
(多分それ骨が砕けてるね)
だから動かないのか。
頭も痛い。
右手で後頭部を触ると血がべっとりついた。
死ぬのか、俺は。
(大袈裟に何言ってるの?別に致命傷じゃないよ?)
耳が取れるのをかすり傷とか言ってた奴が何言ってんだ。
脇腹の出血でできた血溜まりをもう忘れたか?
(モノは大袈裟だね。今回は魔力を纏ってたんだから見た目ほどダメージはないと思うよ)
見た目ほどダメージはないって痛いんだけど。
見た目通りの痛みだよ。
頭から出血して左腕が変なことになってる見た目通りだよ。
(それより敵が近くにいるんだから速く動かないと)
そうだった、敵に殴られたんだから速く動かないと…
立ち上がるが視界がふらふらしてる。
(敵が追撃してこないのが救いだね。されてたら死んでたよ)
再生の魔法を最優先で覚えなければ…
でもその前にここを切り抜けないと…
(モノ。敵が近づいてきてるよ)
俺もうボロボロだよ。
でも魔力って凄いな纏ってると動きが補助されてる感じだ。
ホントだ、人影が見えてきた。
え?俺を殴ったのは人なの?
「えっと…ごめんなさい」
目の前に来た女の子に謝られた。
謝って済む問題じゃないけどな。
人を半殺しにしておいて。
まずその手の金棒を置けよ。
いや、人の話はちゃんと聞こう。
人の話を聞かないから独裁者になった訳だし。
凄い弁解が来るかも知れない。
「殴ったのは君なの?」
「はい…村の近くの魔物を狩ってたら。索敵に引っ掛かったので倒しに…」
ちゃんと目視でも確認してくれよ。
索敵が使えないからその感覚がよく分からないけどな。
(嘘だね。生物ごとに魔力の感じは違うから人間だって気付いた筈)
優秀なアへナがそう指摘した。
なのでそのセリフをそのまま言ってやった。
「こんな所に人間がいる筈ないと思いまして…それに居たとしてもここに来れる程なら一撃では死なないと…」
死ななければ殴ってもいいのかよ。
これはアへナの常識が無いんじゃなくて異世界の常識がおかしい説が出てきたな。
「いや、いきなり殴るのは駄目だろ。せめて確認しないと」
「死んでないですしセーフじゃないですか。でもそうですね、これからはそうします」
こいつ丁寧な言葉で凄い暴論を言ってくるんだけど。
「殴ってしまったお詫びに村に案内しますよ。こんな所にいるくらいですから迷子とかでしょう?」
殴らずに村に案内してくれよ、そう思ったがちょっと気になることがあった。
こんな所って言われたけどここはどこなんだ?
(ここは世界の真ん中らへんにある森だね。普通は誰も近づかないよ。樹海みたいなイメージね)
恐ろしい森みたいな感じで言われたけど樹海って別に怖い森って意味じゃないからな。
ていうか何でこの人はその森にある村に住んでるの?
え、怖い。
さっきまでグロいだけだったのに普通にホラーになってきたぞ。
(何ビビってるの?ようやく人に会えたんだから喜びなよ)
無理だろ。村に着いたら俺が食べられるんじゃないの?
(確かにこの女の種族は鬼みたいだしね)
よし、逃げるか。
(なんで?)
鬼の村に行けるわけないだろ!
マジで食べられるって!
(何か勘違いしてるみたいだけど鬼は人を食べないと思うよ。基本は人間と同じだから)
じゃあ何が違うんだよ!
(種族が分けられてる理由はその種族しか使えない魔法とかがあるからね。鬼は人間より身体能力が高いね)
分かりやすく言うなら外国人だから鬼とかはそう思えばいいと言われた。
正直、紛らわしいからやめて欲しいと思った。
それはそれとして恐怖が消えた訳では無い。
「どうしました?」
鬼に質問された。
「いや、ちょっと知り合いと会話を」
「え?どこに知り合いが?あぁイマジナリー的な…」
勘違いされてるよ。
こいつは実在するから…するよな?
(してるよ。魔法で出した分身に意識を移せば活動もできるよ)
分身ができないから無理だ。
「イマジナリー的なのじゃないから。能力として人がいるから」
「聞けば聞くほどイマジナリー…」
「違うからな。こいつは能力だから」
凄い目で見られる。
なんだよ、能力が人だったらおかしいのかよ。
「普通は能力が人とかあり得ませんよ。それは本当に能力なんですか?」
あり得ないって言われた。
あり得ないのか…じゃあお前誰だよ。
(そんなこと言われても分かんないんだけど)
だよな。時々面倒なだけで助かってるから何でも良いんだけど。
「だからそれはイマジナリー的なやつですよ」
「だから違うって!分身が使えれば証明できるから!」
凄い目で見られた。
そんな目で見られても困るんだけど。
「なら私の友達に分身が得意な人がいるので教えてもらってください。絶対にイマジナリー的なのですから」
この子はどこまで俺を寂しい人にしたいんだよ。
ていうか俺は分身よりも再生を覚えたいんだけど。
村に着いたら俺の体は治療されるの?
左腕がずっと痛い。
「着きましたよ」
わぁ村だ。
民家とかじゃなくて、藁の家とかだ。
治療して欲しかったけどここでは怖いな。
あれ?なんか大人が来たぞ?親御さんかな?
「姫様、その男は?」
おい姫ってなんだよ。ここは村だよな。
仮に姫だとしていきなり殴り飛ばすのが姫なのか?
「この森で迷っていた人です。イマジナリー的な知り合いがいるので優しくしてあげてください」
「それは気の毒に…」
紹介の時点で優しくねぇよ。この人にまで凄い目で見られてるから。
おいおっさん、その気の毒には迷子に対してかイマジナリーに対してかどっちだよ。
(モノ?口に出さないと伝わらないよ?)
だって鬼でしょ?普通に怖いから。こんな所にある村の時点で、普通に怖いから。
いや、話してみれば案外いけるかも…
勇気を出して、
「こんにちは」
アへナが挨拶だけ?とか言ってくるが挨拶は重要だから。
「こんにちは。その怪我はどうしたんですか?」
「この子にその金棒で思いっ切り殴られまして」
「そうなんですか。では私はこれで」
いやいや、何でどっか行くんだよ。
怪我の事を聞いといて私はこれでってじゃあ何で聞いたんだよ。
心配すらしてないよな、おっさん。
おっさんはどこかに行ってしまった。
(この森で生きてる人達はこの程度かすり傷なんでしょ)
アへナがまた言ってるが本当にありそうだ。
「この村はいくつか家が余ってるので住んでいいですよ。案内しますね」
「ありがとう…」
姫とやらが案内してくれる。
お礼は言ったけどいきなり住んでいいって逆に怖いよ。
確かに虎とかいる森で寝たくないけどさ。
(モノは鬼に偏見を持ちすぎ。お言葉に甘えなよ)
本音を話せる相手がアへナって凄く頼りない。
(え?)
それより姫ってなんだろう。
「姫って言われてたよな」
「そうですよ。私は鬼の中では一番偉いですよ」
「一番って王とかいるんじゃないのか?」
そうすると悲しそうな顔で言った。
「王だった親は死にました」
「ごめん」
「大丈夫です」
アへナが失言したね、って言ってくるけどうるさいから黙ってほしい。
「みんな優しいんですよ。もう姫に価値は無いはずなのにまだ姫様って敬ってくれて」
何かがあったのだろうけど他人の俺が聞くのもな…
それから喋ることなく歩いたら家に着いた。
「ありがとう。あのままじゃ森の中で寝ることになってたからさ」
「いえ、殴ったお詫びですから」
「そうだな。左腕まだ痛いよ」
この腕は本当に治るのか?
骨が砕けてるってちゃんと治る気しないんだけど。
「それはもう謝りましたよ」
そうだけどさ、めちゃくちゃ痛いから。
鬼の姫は私も家に帰りますと言い去っていった。
俺の異世界での出会いはまともな人間は居ないのか。
(モノがおかしいからね)
常識が分かんねぇよ!と心の底から思った。
左腕が痛いので再生を覚えたい。
(なら図書館に来たら?)
「そうする」
また図書館に引っ張られた。
ていうか引っ張る以外に図書館に行く方法はないのか?




