13話 鬼と悪魔
炎華は森に着地すると同時に走り出す。
炎華の相手として妖玄師匠が送った悪魔のことを索敵で感知している。
「私の相手は多分さっき喋ってた悪魔ですね」
着地する前に見た姿から敵を確信して能力の予測を開始する。
だが炎華は先ほど技を見たためある程度予測はついている。
(さっきの場所が爆発したと言うことは使える技は爆発系かな…でも悪魔だけが使える魔法もあるはず。それも警戒しながら戦う)
炎華の得意な魔法はその名の通り火や炎の魔法である。
鬼の高い身体能力を活かした触れたら焼ける近接戦闘。
炎華の相手の悪魔は着地してすぐに技を準備している。
先ほど放った地面の爆発、その技の範囲を狭め魔力を温存する。だが足を確実に奪う威力。
足を欠損させ、再生で魔力を消耗させる作戦。
地雷のようなものである。
悪魔に向かって走っていた炎華は索敵で地面の魔力を感知している。
(地面の魔力は恐らくさっきの爆発の魔法。悪魔との直線上に設置されている。その道を避けて走れば…)
少し道を変えて走りだす。
この行動は悪魔の想定通りである。
炎華はしっかり考えるべきだった。
悪魔はどうやって魔法を設置したのかを。
悪魔は地面についた手から魔力を伝わらせて魔法を設置している。
伝わる魔力の動き自体は、炎華も索敵で認識していた。
失敗だったのは魔力が伝わる速度を見誤ったこと。
それ以上の速度はないと思い込んでしまった。
あの速度なら攻撃が届く間合いまで詰め切れると思っていた。
炎華の索敵が高速で迫る魔力を正面と背後に感知する。
炎華はその場を離れようとするが、魔力は最初に設置されていた分を利用して囲むように動いていた。
「遅い」
悪魔の呟きは誰も聞いていない。
その呟きの直後に爆発音が鳴り響いた。
悪魔は着地直後から、炎華の索敵範囲外からゆっくり魔力を伝わらせていた。
その後、魔力を正面に高速で伝わらせると同時に索敵範囲外の魔力も高速で動かす。
それにより囲むことに成功する。
だが悪魔は殺せたとは思っていない。
再生で魔力を消耗させれたら成功だと思っている。
悪魔は炎華の魔力総量を自分と同等だと見抜いている。
悪魔の見立てでは自身の爆発の魔法より炎華の再生のほうが魔力消費は大きい。
その見立ては間違いではなかった。
「やっぱ俺より魔力を消費してるな」
悪魔はそう言いながら魔力を地面に巡らしていく。
だがこの魔法は自分が受ける可能性もある魔法のためそこら中に設置するわけにはいかない。
それを考慮しながら行っていたが索敵が迫りくる炎華を感知する。
「どうやって…?いや、そりゃそうか」
悪魔は瞬時にその事実に気付く。
悪魔が張り巡らした魔力は地面にである。
ここは森。木にまでは張り巡らしていない。
木を跳び移る炎華は地面に触れることはない。
悪魔は付近の森を全て燃やす事も考えたが失敗すると考える。
(見られている…俺たち全員を遥かに凌駕する二人に…)
後の生活に影響するようなことは瞬時に対策される、そう考える。
木の数本程度なら許容範囲らしいがどこでやり過ぎになるか分からない。
(そうなるとこの戦いで勝つことは不可能…いや恐らくあの鬼も俺たちを殺す気はない。いい修行相手くらいに思われているだろうな)
悪魔は相手の思惑を見抜きながら乗ることにする。
ここまでやったからには目の前の鬼を倒さないとどうにもならない。
悪魔は木に魔力を伝わらす。
炎華は木を跳び移りながら悪魔に接近していた。
木に伝わる魔力を感知して事前に回避する。
「出せる速度が分かってるなら回避は可能ですね。ただこれ以上の速度を出せるなら…」
先ほどは想定以上の速度に不意を突かれたがその速度はもう想定内のため容易く回避する。
だが回避が間に合わないほど速く魔力を動かせるなら勝ち目はないだろうと考える。
(さっきの爆発で足が無くなりましたからね。最低でもそれぐらいの威力が出せると考えないと…)
炎華はモノよりも魔力量も多く魔力効率も高いため足を再生しても致命的な程は消耗していない。
それでも肉体を一気に再生させるのだ。下手な魔法よりは消耗は大きい。
(これに魔力を隠す技術まで覚えられてたら勝てなかったかも知れませんね)
その時、炎華の後ろの木が爆発する。
爆発した木の魔力は当然のように感知していた。
だから事前に別の木に跳び移っていた。
触れなくても爆発できる、炎華がそう理解すると同時に爆発で砕けた木の破片が飛び散り炎華を襲う。
炎華は防ごうとしてすぐに回避を選択する。
(あの木に魔力を伝わらしたなら可能ということですか)
木に魔力を伝わらしたことによりその木は魔力を帯びていた。
あとはその木が爆発すると同時に魔力を纏わせれば魔力を纏った散弾の完成である。
炎華が回避しなければ木の破片は炎華の魔力を纏った肉体に傷を負わせた可能性があった。
炎華と悪魔の距離はそれほど遠くない。
だが近寄れないのだ。悪魔が次の手を打つまでが速すぎるのである。
(近接戦闘で負けたらどうしよう…)
炎華はその可能性を考える。
炎華は近づこうとしているが、それは近接戦闘でなら勝てる自信があるからだ。
悪魔が近接戦闘で炎華を上回る場合、勝ち目はない。
(明らかに近寄らせたくなさそうですし近接戦闘なら勝てますよね)
そう結論を出し移動しようとするが既に木にも魔力が来ている。
(多分だけど魔力を巡らすだけなら消耗はない。消耗するのは爆発してから。だけど巡らした部分には常に意識を向けてないといけないから集中力が削れる。ならさっき居た場所には…)
炎華は来た道を戻り始める。
炎華の考察は当たっている。
悪魔は魔法の設置場所まで魔力を手から伝えて地面を通し設置している。
いつでも設置できるように魔力をいくつか地面に放出しているが気を抜くと魔力が霧散する。
悪魔の魔力は地面に広がっているわけではない。
紐のような魔力が炎華に向って伝わっているのである。
それが一番速度を出せた。
周囲に円形の魔力を放出することもできたがそれでは威力が低く消耗も大きい。
悪魔が選んだ策は集中させた魔力を炎華に向かって動かすことだった。
炎華が先ほど居た場所の魔法は既に解除されている。
「この道なら…!」
炎華は追ってくる魔力より速く動き設置されてない道に辿り着く。
だが悪魔にとっては問題なかった。
炎華の迫り方が時計回りから反時計回りになったとこで炎華の動きに合わせて魔力を動かせばいい。
炎華が来る予定だった道の魔法を解除して次の場所に設置すればいいだけの話だ。
悪魔の誤算は炎華の速さ。
先ほどの道には魔法を設置していた。
この道にはまだ魔力を伝えている最中。
再設置までの間に地面や木を走り間合いに入ればいい。
それが間に合うほど炎華は悪魔に接近していた。
「こんにちは」
そこは既に炎華の間合いである。
木から跳んだ炎華が金棒を振り悪魔を殴り飛ばす。
悪魔は左腕を盾にするが魔力を纏ってなお腕がへし折れる。
炎華は地面に着地する。
「予想通りでした。自分が巻き込まれる場所には魔法を仕掛けてなかったですね」
悪魔は折れた腕を治しながら言う。
「なんで俺がお前の魔力を少しずつ消耗させる作戦に出たと思う?」
「出力の問題で私を仕留めきれないからですか?」
「ああ。魔力総量は読めるが出力、効率は分からない。だから初撃で確かめた。でもそれ以前に俺は作戦を決めていた」
炎華は最悪のパターンを考えていた。
それは先ほども考えた敗北の道。
悪魔の答えは炎華の想像と一致する。
「消耗したお前になら近接戦闘で勝てるからだ」
間合いを詰めても勝てない、近接戦闘で負けるパターン。
炎華は直感で悪魔の見立ては間違っていないと理解する。
炎華と悪魔の魔力効率、魔力出力が互角だとすると既に消費した魔力が多い炎華が不利である。
この戦闘で炎華が上回る要素は身体能力。
だが戦闘は身体能力だけでは決まらない。
悪魔にはまだ出してない手札もあるのだ。
炎華が不利であった。




