12話 連続するピンチ
アへナを戻したのは正解だった。
この悪魔は俺よりも強い。アへナの足手まといになるくらいなら戻して戦うほうがいい。
森に着地した俺は姿勢を整える。
(モノ、後ろ)
後ろに向かって木刀を振る。
悪魔の女の首に木刀が当たる。
(手応えがない…?)
(多分能力で防いでるね。纏ってる魔力は同じくらいだし)
悪魔の拳を防ぐ。
触れたか分からない程の軽い打撃だった。
違和感を覚えながらも反撃しようと木刀を振りかぶった瞬間、遥か上空に吹き飛ばされた。
「今度はなんだよ!」
(吹き飛ばすだけの効果を持った打撃、厄介だね)
「対処法は?」
(攻撃を受けるなとしか)
「まぁそうだよな」
空中でどう着地しようか考えていると地上に土煙が見えた。
悪魔が跳躍してモノの高度に辿り着く。
空中では回避しきれずにかかと落としを受けてしまう。
今度も軽い。
(これはヤバい!あの勢いで地面に叩きつけられたら死ぬ)
予想通り地面に向かって勢いよく落ちていく。
地面に辿り着くまでの僅かな時間でモノは最大出力で魔力を纏う。
それしかできることは無かった。
モノは悪魔の能力でとてつもない速度で地面に向かって吹き飛ばされている。
それにより体を動かすことすらままならなかった。
地面に墜落する。全力で魔力を纏っても致命傷だった。
骨は砕け内臓も破裂している。
それでもまだ命があるのは魔力を纏っているからだろう。
(モノ!はやく再生を!)
アへナが必死にモノに呼びかける。
だがモノの魔力量ではこのダメージは治しきれない。
その上、再生に集中して魔力を纏うのをやめた瞬間、モノの命は終わりを迎える。
それを分かっているからこそ何もできない。
死ぬまでの時間を引き延ばすのが限界なのである。
「仕方ありませんねぇ」
妖玄師匠が歩いてきた。
モノは喋ることはできない。
妖玄師匠が軽く触れた瞬間、モノの傷が治る。
モノは知らなかったが他者の治癒はかなり高度な技術であった。
「俺じゃあいつに勝てないんだけど…」
モノは傷が治った瞬間に文句を言う。
モノが受けた傷は全て回復していた。
妖玄師匠は笑顔で言う。
「勝ってくださいねぇ」
そう言って妖玄師匠はモノの目の前から消えた。
落ちてくる悪魔を見ながらモノは言った。
「全員相手にしても師匠だけで勝てるよな」
(だろうね。いい修行くらいに思ってるんでしょ)
悪魔の落下速度が減速していく。
「木刀は折れてるか…」
落下の衝撃で砕けた木刀を見ると近くに新しい木刀が落ちていた。
(さっき師匠が置いていったみたいね)
新しい木刀を拾いながらもアへナが悪魔を索敵で認識し続ける。
悪魔の着地の瞬間を狙いモノは動き出す。
着地の瞬間、木刀を振るが悪魔は攻撃が当たる寸前で跳ねる。
予備動作なしで跳んだためモノは対応できず攻撃を外す。
モノの背後に悪魔は着地して殴りかかる。
モノは反転して悪魔の腕を木刀で叩きながら拳を避ける。
アへナの予測は人間相手には使えない。
アへナは敵の動きを伝えているだけである。
対応できているのはモノの修行の成果だろう。
だがモノが修行した期間は数日。
その程度で相手を上回ることはできない。
悪魔が続けて攻撃を仕掛ける。
モノが捌く。
アへナとモノは同じ肉体に居るため意思を伝える際のタイムラグがない。
アへナが認識した敵の動きはモノに完璧に伝えられている。
アへナは戦闘中に不確かな情報を伝えない。
アへナはミスをしなかった。
ミスをしたのはモノのほうだ。
避けなければいけなかった連続攻撃を避けきれなかった。
避けきれないと悟った瞬間に防いでしまった。
その打撃はこれまでの吹き飛ばす打撃ではない。
それは全衝撃を接触部位に留める会心の一撃である。
受けた左腕が弾ける。
(モノ!避けて!)
左腕を奪っても戦闘は終わらない。
確実に勝つために悪魔は今の打撃を続けて繰り出す。
腕を欠損した直後に反応できるほどモノは戦闘に慣れていない。
アへナの声に遅れて反応した。
それは通常の打撃なら無意味だった。
通常ならそのまま体に当たっていた。
ただの偶然だった。
右手に握った木刀が悪魔の打撃に僅かにかする。
それは全衝撃を接触部位に留める打撃である。
打撃が木刀と接触してしまった。
それによりモノの命は助かる。
木刀が砕ける。
木刀が砕けたことでできた一瞬の隙をつきモノは間合いを取る。
「危ね…」
(ほんとに危ないよモノ。今の木刀が無かったら死んでたよ)
アへナの言う通り木刀に当たらなければモノは負けていた。
即死はなかったかも知れないが動けなくなる程の傷は負っていただろう。
既にモノは理解している、自分ではこの悪魔に勝てないと。
「左腕治したら?右腕一本じゃ無理でしょ?」
「治したら動けなくなるんだよ」
悪魔が話しかけてきたことに驚きつつ返答する。
その返答は嘘だった。
モノは弾け飛んだ左腕を治す分の魔力は足りるだろうと考えている。
だが止血程度にしか治さなかった。
モノは既に勝ちを諦めている。
モノはいざとなったら師匠が助けてくれると思っている。
師匠の方まで逃げるか時間を稼ぐか、そのために特に必要のない左腕を治すのは魔力が勿体なかった。
(俺の魔力出力ではあいつの防御を突破できない。あいつの攻撃を受けたら死ぬ。師匠のとこまで逃げれば助けてくれそうだけど、そこまで行けるかどうか…)
(ほんとに師匠は助けてくれるかな)
(ほんとに死ぬってなったら助けてくれるだろ)
(それもそっか)
アへナはモノの考えてる事を聞き逃げる事に賛成している。
アへナにとっては勝利などよりも初めて出会った人間、相棒であるモノの命のほうが大切なのだ。
アへナもモノが勝つとは思っていないのである。
(でもおかしいよモノ。私たちが勝てないって分かるのに師匠が分からない筈がないもん)
(師匠たちも逃げ切れたら勝ちとか考えてるんじゃないか?それが間違いでも逃げる事に変わりはないけどな)
(だね。戦闘じゃ絶対勝てないし)
この会話の間、悪魔は準備を進めていた。
魔力を溜め大技の準備を完了する。
それにアへナも気づいている。
だが技の特性を見抜き都合が良いので放置していた。
(モノ、地面に魔力が流れてるからあいつは地面を崩す気だよ。技の発動は魔力の流れで読めるからその技を目隠しに逃げよう)
(了解)
その場に居る二人とアへナは集中していた。
不意に地面が弾ける。
アへナの誤算は地面がどうなるかを読み切れなかったことだった。
地面が弾けたことにより高速で飛んでくる土や石が両者を襲う。
だが魔力を高い出力で纏っているため多少の痛みで済む。
悪魔は地面が弾けろくに動けないモノを仕留めることだった。
悪魔の能力なら足場がなくても空中を少しの間跳べる。
悪魔の誤算は敵の逃走が選択肢になかったこと。
モノは技の発動の直前に動き出している。
速度は互角。
発動を読み切り先に動き出したモノは既に崩れてない地面に足をつけて走っている。
モノの背後から土や石が飛来するがたいした問題ではない。
悪魔が空中を動こうが両者の速度に大きな差がないため逃げ切れる。
この戦いはモノとアへナの作戦勝ちであった。
この森で戦っているのはモノだけではない。
炎華と影葉はどうなったのだろうか。
悪魔は四人、鬼は師匠を抜くと三人。
師匠は今回、戦闘に参加していない。
つまりどちらかが二人を相手していることになるのだった。




