11話 師匠強いな
初めて修行してから三日たった。
俺は行く当てもないのでこの村に住んでいる。
弟子が未熟なままで出ていくことは許されないらしい。
気に入られたのは嬉しいが正直辛い。
ここ三日間の思い出はなんですか?と聞かれたら、叩かれたか怒られたくらいしかありませんと答える。
鬼玄師匠は躊躇なく叩いてくるし妖玄師匠は出来なかったら怒ってくる。
「モノさん。そろそろ行きますよ」
炎華が外から呼んでいる。
ただ、起き上がる気がしない。
行きたくないな。なんで俺は強くなろうとしてるんだよ。
(モノ!早く分身出して!)
アへナもうるさい。
俺はもう叩かれたくない。
(モノ。気持ちは分かるけど早くして)
「じゃあお前だけで行ってこいよ」
(なら分身出して)
寝たまま分身を出してアへナの意識を移す。
移った瞬間アへナは立ち上がり俺の腕を掴んだ。
「アへナ?」
「早く行くよ」
「一人でいけよ」
そう言うとアへナは呆れた目をしながら無言で俺を引っ張った。
引きずられるのは嫌なので流石に歩くことにする。
家から出ると炎華にも呆れた目で見られた。
「情けないですよ」
「お前らはよく行こうと思えるな」
こいつらも師匠に結構叩かれてるはずなのにどうしてまだやる気があるんだ。
そう思ったがこいつらが呆れた目でずっと見てくるので諦めて師匠の家に向かうことにした。
師匠の家に向かう途中で影葉とも合流した。
合流した後、村の外で魔物に襲われたが修行のお陰で、獣はそこまで脅威に感じない。
それでも敵の攻撃は当たってしまう。大きな怪我はしないけど。
「モノも強くなったね。最初は虎相手に喚いてたのに」
「そうだな。俺はこの世界に染まってきた気がする」
俺が再生で治るならかすり傷だろ、とか言い出す未来がありそうで怖い。
でも魔力を纏ってたら痛みも薄いし危機感がなくなってくるんだよな。
そんな事を考えていると師匠の家に着いた。
師匠の家に来ると毎回…
「あでっ!」
頭にくらった。
このように不意打ちを受ける。
初めて来た時に二人が警戒していた理由が分かった。
この人は毎日来るたびに不意打ちを仕掛けてくるのだ。
ちなみに今日の不意打ちは俺だったが昨日までの不意打ちでは俺以外の三人は普通に避けてた。
「じゃあ始めるかのう」
「はい」
俺は木刀を取りに行く。
魔力操作はある程度できるようになっているので数発は防げるはずだ。
木刀を手に取り構える。
準備ができたのを確認した師匠が動き出す。
俺の索敵範囲は数メートルと狭いが師匠が入った瞬間に反応すればギリギリ間に合うはずだ。
師匠が目で追えなくなる。
索敵に集中する。
(入った!)
索敵範囲に侵入した瞬間に俺の肉体は動き出す。
魔力を纏った木刀が師匠の木刀による斬撃を受ける。
受けた瞬間に索敵範囲から師匠が消える。
とほぼ同時に反対側に師匠を感知する。
それにも反応して斬撃を受ける。
だが師匠の連撃により木刀を破壊される。
更に続いた連撃を右腕にくらいモノは軽く吹き飛ぶ。
「まだまだじゃな」
「痛って…!躊躇なく右腕をへし折りやがった…」
「治せるじゃろ?」
「そういう問題じゃなくて…」
大人しく治すことにした。
骨折を治す程度なら魔力を六割程消費する程度で済む。
俺は能力で魔力の総量を案外簡単に増やせるから再生できるけど普通の人は再生を覚えても魔力不足になるんじゃないだろうか。
休憩してる間にアへナが師匠と戦っている。
水を飲みながら観察することにした。
いつも通り師匠が一瞬で間合いに侵入する。
師匠の斬撃をアへナが避ける。
カウンターでアへナが斬撃を繰り出すが師匠はまた消える。
受ける、消える、避ける、消えるを繰り返す。
背後からの斬撃をアへナは回避する。
回避した直後の斬撃でアへナは撃沈する。
観察していて思ったが必死に受けるのが限界な俺と違ってアへナは防御が上手いみたいだ。
情報の能力で索敵が強化されて、その分防御が上手いと言うことだろう。
超常·情報は俺の能力じゃなかったのだろうか。
あと師匠は消えすぎ。
「起きろアへナ」
アへナを引っ張ってきて頭を叩く。
「モノ、痛い」
うつ伏せで寝たままアへナが喋る。
アへナが起き上がらないが気にせず思いついたことを言う。
「アへナと俺の二人がかりで師匠とやってみないか?」
「どうせ勝てないよ」
そうだろうな。俺とアへナで勝てたら苦労はしない。
だけど一撃くらいは当てたい。
「じゃあ分身解除するから協力しろよ?」
「はいはい」
全然起き上がらないアへナを戻して師匠に挑むことにした。
身体能力は俺の方が上なので索敵や予測は全てアへナの方に任せ俺が指示通り戦う、完璧である。
と言うことで木刀を構えて師匠と向き合った。
師匠が消える。
(上から斬撃)
左に避けるとアへナの言う通りに斬撃が来る。
(左)
(上)
(足元)
(後ろ)
言われた通りに全て回避する。
(今いける)
斬撃を繰り出す。
師匠が紙一重で避ける。
アへナの索敵は俺より範囲も広く精度も高い。
それにより師匠の動きを全てアへナは捉えている。
アへナの身体能力では認識できても体が追いつかなかったが俺の身体能力なら避けてカウンターを当てに行ける。
段々と師匠の速度が上がる。
(今の速度は炎華達とやってる時と同等くらいか…!)
そう思った瞬間、俺の索敵から師匠が消えた。
その瞬間、アへナの指示が途切れる。
何も喋らないがアへナの焦燥は伝わってくる。
恐らくアへナの索敵ですら認識できない程の速度で動いたのだろう。
(右!)
すぐに反応するが何も起こらない。
(残像…?!)
索敵に残像とかあるのか?そう思ったら意識が消えた。
(モノ!)
起き上がった。
師匠が心配そうに見てくる。
「すまんのう。いつもより速く動いてしもうた。可能な限り加減して当てたんじゃが…」
顎が痛い。木刀の先が軽く顎に当たったらしい。
とりあえず再生して分身を出してやる。
「ありがとモノ。師匠はすごいね。索敵で感知するより師匠の動きのほうが速かった」
なるほど。残像と言ったのはそういうことか。
索敵範囲に侵入して認識するまでには僅かなタイムラグがある。
更に認識して俺に伝えるまでもタイムラグがある。
そのタイムラグの間に師匠は移動したのだ。
いや、化け物かよ。
「索敵が上達すれば認識できるから頑張るんじゃ」
努力でどうにかなるものなのか?
そもそも認識できても反応できないな。
師匠に一撃も当てられなかったが手加減がなくなってきたので少し嬉しかった。
その時、妖玄師匠が帰ってきた。
「何かおかしいねぇ」
「どうしたんですか?」
「悪魔の魔力を感じるよ」
悪魔の魔力など俺には感じない。
妖玄師匠の索敵範囲は俺やアへナより広いのだろう。
「炎華ちゃんくらいの強さの悪魔が村に向かってるねぇ」
「それってかなり強いんじゃないか?」
師匠二人のせいで分かりにくいが炎華と影葉も強いのである。
俺じゃ炎華と影葉に勝てないし。
心配なので全員で村に行くことにした。
俺が行っても役に立てる気はしないけど。
考えてみると妖玄師匠の索敵範囲は凄く広いのである。
ここから村までは結構離れていたはずだ。
「そろそろあなた達の索敵でも捉えられますよ」
俺の索敵では無理だがアへナ達は感知したようだ。
隣であれが悪魔なんだね、とか言ってる。
索敵を使えるようになって分かったが確かに鬼と人間では魔力の感じが違った。
見たら外国人だなと分かるように魔力を感知したらあれは違う種族だなと何となく分かる。
アへナの外国人の例えはその通りだった。
「あちらも気づきましたねぇ」
「誰だ!」
大きな声が森に響く。
索敵で感知したのでちょっと距離がある状態で誰だ!となっているのだ。
もうちょっと距離を詰めないと森の中で大声で会話しなければならない。
お互いが距離を詰め出会った。
悪魔が四人いる。
「お前ら何者だ?」
「私達はこの森で暮らしてます。あなた達こそ何者ですか?」
「分かるだろ?悪魔だよ」
お互い警戒している。
悪魔側はこの森で暮らしていることに疑問を覚えていた。
この森は大量の魔物がいるのに加え来た方向すら分からなくなる森なのだ。
そう簡単に暮らせる訳がない、それが悪魔側の考えだった。
それは鬼側も分かっている。
そんな森に来た悪魔達を警戒するのも当然だった。
重い空気の中先に口を開いたのは炎華だった。
「あなた達は何をしにこの森へ来たんですか?まさか帝国からの刺客ですか?」
「帝国?いや、帝国は関係ない」
モノは特に何も理解してなかった。
炎華が帝国の刺客と言い出した時には帝国でやらかしたのかな?と思っていたのである。
悪魔が交渉をする。
「頼みがある。俺達悪魔をここで暮らさせてくれないか?」
「何人ですか?」
「百人程」
炎華は少し考え答える。
「無理ですね。資源が足りません。鬼族だけでも約百人います。それで精一杯です」
「そうか。ならお前らを殺せば俺の連れは助かる訳だ」
え?何言ってんだこいつ?モノはそう思ったが敵が魔法を発動したことにより意識を切り替える。
対応できるように纏った魔力の出力を上げる。
(何も起こらない…?)
その瞬間、地面の下に膨大な魔力を感知する。
「婆さん」
「分かってますよ」
師匠達の会話が聞こえた気がした。
次の瞬間には俺とアへナは空中に飛ばされていた。
空中にいることを認識した直後、恐らく先ほどいた場所が爆発する。
前を見ると炎華と影葉も空中にいた。
師匠に助けられた事を理解すると同時に確信する。
師匠は敵をこちらに送る気だと。
とりあえずアへナを戻し着地の準備を始める。
「師匠は勝てると思ってるのか…?」
予想通り敵が目の前に出現した。
さっき魔法を撃ったやつじゃない。
喋らなかった三人の内の一人の女の悪魔だ。
俺と女は森に落ちる。
森への落下を合図に戦闘が開始した。




