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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.2 遊泳――収集

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02





 チャン・セキュリティ・エージェンシーについては既に述べた。詳しく説明すると。まだネットワークがニューラルではなかったころ。「チャン・ソフトウェア」としてセキュリティソフトを販売していたのを母体とする。


 そこで莫大な利益を上げたが、ネットワークが進化するにつれてデータセキュリティの問題は深刻化した。それは国家では対応できず、まずは国家からの外注という形でセキュリティ・システムを構築し始めた。だがそれはネットワークの警察権を事実上掌握するものであり、いずれニューラル・ネットワークが成立すると、チャン・ソフトウェアの警察権は絶大な権力になり、同時に「国家(ネイション)」をただの夜警国家に矮小化した。


 今では権力とは彼等のことを指し、今の企業名に変更した。事業はセキュリティソフト販売、ガードAI、ポリスAIの販売など。CSAの作るソフトウェアはかれらの所有するデータセンターにすべて高次連結(ハイパーリンク)している。そうやって彼等は情報を集めるが、それは個人情報を握っているも同然のことである。


「|ニューラル・ネットワーク・システム《NNS》の個人データが破壊されれば、それは人間として死も同然だ。肉体世界に横たわる屍にほかならなくなる。だからCSAの貢献は計り知れない」


 ミロスラフはCSAあればこそ、いまのサイバー世界が成立したのだという。そこは私のデータベースにも反しない定義の為、特に反論しない。但し、守矢は私には穏当に「主要取引先」と表現したが、もっと実際には敵対的であることを知っている。


「ついさっきも銀行強盗があったらしいじゃないか」

「裏口からのハックを『強盗』と表現するのは適当でしょうか」

「ほかに適当な言葉もないんだからしょうがない」


 ミロスラフ氏は極めて穏当なNNS世界の一市民であり、そこに安住している。彼は平均的である。CSAの強権的な支配を受け入れ、秩序を乱さない限りにおいては平穏で豊かな市民生活を保障されている。


 私は――もちろん――その「銀行強盗」の犯人が私だとは言わなかった。


「怖いねぇ。私もクレジットはほかの銀行に預けてあるが、奪われる覚悟をいつでもしていないといけない――CSAの警備がもっと万全になればいいのだが」


 そんな話をしながら、ネオ・トウキョウの街中を歩く。ネットワーク都市は変幻自在である。かつての肉体世界の都市と違うのは、公共交通機関が存在しないことだ。望めば瞬時にどこにでもいけるのだから――ネオ・ロンドンにも、ネオ・バグダッドにも――そんなものは必要ない。列車のような物体(オブジェクト)は用意されているが、それは景観以上のものではない。


 東京(トウキョウ)は日本の都市だが、ミロスラフ氏は血統的には日本人ではないようだ。だが国民国家と言う概念が消え去った今でも人間は自分の血筋(ルーツ)を殊の外気にするらしい。


「俺はもともとはポーランド人なんだよ。しかしネオ・ワルシャワにはマネーは全然流れて来ない。東欧人は基本的にお気楽なんだな。なにがなんでも稼いでのし上がってやろうという気風がない」

「マネーを稼ぐ事だけが人間の価値を決めるものではありません」

「俺はそうではないって事さ。現代、カネの匂いはもっぱらアジアにある」


 ミロスラフ氏が稼いだマネーをなんに使うのか、それは分からなかったし、訊くべきことではないとも判断した。私の解析では、私が彼と再度出会う可能性は0.00000024%となっている。ノイズですらない。しかしそれ故、この一期一会は重大であり、彼から学ぶことはすくなくないと判断する。


「健全にマネーを稼ぐというのは――」

「Webドルを持つ者は正義だ。カネ以外に俺達人間を価値判断する基準が、この世界に、ほかにあるっていうのかい」


 彼の言葉(テクスト)は調子を上げる。怒っているというよりは単純に興奮しているように判断される。


「俺は仲間を集めている。インディー・ゲームサークルの主催者さ。今はまだ無名だが、アーカムにライセンス承認されて、正規市場に乗せれば絶対に売れる。アイディアは間違いないんだ。しかし人手が足りない――AIエンジニアも――」

「はぁ」

「そうだ、きみを作ったエンジニアを紹介してくれないか。ベルのようなAIを作れるのなら、きっと腕利きのエンジニアだろうし」

「残念ながら、その提案は承認できません」


 そうだろうね、と特に落胆もせずミロスラフはお気楽に言った。


「しかし優れたエンジニアはおおむねアジア人――すくなくともアジアの血を引いているやつらばかりだ。CSAの社長も――」


 そんなことを言ったから、という訳でもないだろうが、ちょうど噴水のある広場に出たところで、その広場の中心にあるホログラムモニターから3次元の人物像が映され(モニター)、同時にビルディングの窓にも同じものが映され(マッピング)た。


 長身痩躯の男。それもアバターなのだが、そこには静かな威圧感を与えるように設計されている。というのは私の解析ではない。守矢が予め私に打ち込んだデータベースからの判断だ。


 エイドリアン・ジョンソン=リー。チャン・セキュリティ・エージェンシーの現最高経営責任者(CEO)。警察の元締め。名前のとおり彼はアングロサクソン系アメリカ人と中国人の血を受け継いでいる――しかし人類の95パーセントが人工授精で生まれるこの時代にそれがどれほどの意味があるのだろうか?


 ともあれつまり、彼こそが事実上のネットワークの最高権力者であり―ーということは私たちの最大の敵となる。

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