表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.2 遊泳――収集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/78

01





 かれらが作ったもうひとつの現実――は、今や主要な現実として存在している。脳にニューラルデバイスを埋め込まれた人間は常時ネットワークに接続していて、オフラインになることはほとんどない。肉体世界での活動は最低限――食事、排泄、睡眠の時くらいである。最低限の生命維持活動。


 人間が求めたのは肉体労働からの解放だった。そしてそれはほぼ達成されたように思われる。いや、そんな世界でもまだ労働者は数少ないながらも存在する。生産活動はほぼロボットが行い、それはAIが保守点検しているが、最終的な管理は人間が行う。彼等は希少な労働者階級と見做されているが、前世紀までとはちがって蔑まれることはない。


 かれらは高給取りだからだ。


 と言う前提があって、私たちはネットワークに構築された世界で自由を謳歌している――ように見える――しかしその実態は――


 視覚化された街は煌びやかである。それがすべてデータで構成されたもの。ここネオ・トウキョウはかつて肉体世界で東京と呼ばれた街を再現化し、さらに進化させている。。人間達は皆若い――というのは仮想的なもので――実際にはかれらはそれぞれ自分を理想化したアバターを被っている。なんとも皮肉な現実だが、このことによってルッキズムと言う概念はなくなった。だれもが美男美女になれるからだった。


「のんきなものね――」


 その中にはAIも混ざっているはずだった。人工知能。人類がこの内的宇宙を拡張するに当たって、AIは大きな役割を果たした。肉体労働どころか頭脳労働までAIに任せる時代。では人間はなにをしているのだろうか。


 ――遊び呆けたいだけなのか――いや――


 私は練り歩いているだけでも情報(インフォメーション)を収集している。この世界がどういうものなのか、人間とはどういうものなのか、AIとは、ということを知識(データベース)から肌感覚として認識していく。


「やあ、お嬢ちゃん。ひとりかい?」


 そんな中で、私は不意に声を掛けられた。この世界では珍しく壮年の男の外見だったが、かれがそれに相応した人間だとは限らない。本当の性別すら分からない。とはいえ男が女を演じるケースは今や普通ですらあるが、その逆はあまりない為、まず彼は普通に男性とみていいだろう。


 そして中身がどうあれ、人々はそのアバターを自他ともに、そのままの現実として受け止めている。それがこの世界が生まれた時からの慣習。それはそうだろう。今やサイバーが主の世界であり、肉体世界はそれに従属しているに過ぎないのだから。


「ひとりなら、どうだ。俺としばらく遊ばないかい?」

「それは、私を『ナンパ』しているということなのでしょうか」


 私がそう言うと、男はすこしだけ曇った顔を見せたが、すぐに気を取り直したようだった。


「なんだ、AIか。でもまあかわいいならAIでもいいか」

「私がAIで、なにか不具合でも?」

「そりゃあ、きみ……」


 かれは「恋愛」を望んでいるのが分かった。わたしと交信(コミュニケート)する以前からその意図をもっていたとすれば、彼は私の外見(アバター)を気に入ったとなる。赤髪の少女になっている私を。


「しかしAIがマスターなしで動いているのはどういうことだ。そういう指示がなされているのか?」


 彼は私の正体が分からない。誰だって分からないだろう。私は類例を見ない存在なのだから。


 幸いにも男は深く考えるような性質ではなかった。しかしすこし困ったことになる、まあ、色恋はいいにしても、私には脳髄性交(ニューラル・セックス)の機能は搭載されていないからだ。


 彼の幻想は早めに潰しておくべきだ、と私の回路は判断した。


「私は今、個人で動いておりますが、残念ながらあなたのご要望に答える機能は実装しておりません」

「機能って、きみ……」


 しかし、彼は残念がるでもなく、むしろ面白いものを見るように私に目線を向けた。私は面白いのだろうか?


「最近のAIはそんな先走りするくらい高性能なのか? ――まあいい。それは過剰反応と言うものだよ。確かに俺がきみに惚れたのは認めよう。しかしセックスしたいとまでは思っていない。それは間に合っている」


 それから彼は私に言った。


「俺の名はミロスラフ。きみに覚えてもらえるだけでもいいよ」

「ということは、私に求めているのは――」

「まあ暇なんだよ。きみのようなお嬢さん、しかもAIというのは興味深い、ちょっとした暇つぶしに付き合ってくれるだけでも幸いだ」


 それから彼――ミロスラフは私に名前を求めた。単純に名乗るべきか、それは判断の難しいところだった。私の正体はなるべく割れないようにするほうがいい。しかしながら、「ベル」という名前はさして珍しいものでもない。


 なので私は素直に名乗った。


「かわいい名前だね。きみのマスターはさぞかし――ああ、いや、これ以上詮索するのはよそう。結局の所俺も同じ穴の狢なのだから」

「それは少女趣味ということでしょうか?」

「やはりきみはAIのようだ。人間ならそんな率直な問いはあまりしない」


 私は安全確認(セーフティ・サーチ)を開始。彼が安全であるか、信頼するに足るかの情報を収集し始める。ミロスラフ、というのもハンドル・ネームで本名は別にある事が推測される。


 その本体情報まで辿り着く(ルート)は辿れなかった。攻撃用プログラムを駆使すれば、無理矢理そこを開けることもできるだろうが、ここではそんな真似をする訳には行かない。つまり私はミロスラフ氏をごく一般の市民だと判断していた。


「暇なおじさんの暇つぶしだ、無理に付き合ってもらおうとは思わないよ」


 私は彼をほぼ無害な存在と解析(アナライズ)した。とすれば、この自由時間に付き合わせる相手としてはごく適当と判断される。


 しかし、彼に対する、その――


「いいでしょう。お付き合いいたします」

「きみは本当の少女のようだ――この誰も本当の正体を隠している世界で。とてもいい。ああ、俺のことは気軽にミロと呼んでくれ」


 彼との接触はこれっきりになるだろう。しかしそれも情報収集、更新(アップデート)の貴重な時間である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ