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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.11 ―熱圏―

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07





 私はすでに軌道エレベータのシステムを握っている。つまりそのハードウェアをそのまま使用できるということである。そんな状況で負ける気はまったくない。


 しかし向こうの手の内も完全に見えてはいない。〈マーセナリー〉は未だ私に対して本気を出していなかった。今も妙に余裕のある姿勢を見せている。まだ場に出していない手札が残っていると見て間違いない。


 よって私も彼女も慎重になる。腹の探り合い、とでも言えばいいのだろうか。打刻(ピン)は打ちあっているが、どちらも本体は捉えられず、防御姿勢は崩れない。焦れた睨み合いが続いた――実際に目を合わせていた訳ではないが。


「そう簡単には行かせてくれそうにないわね」


〈マーセナリー〉の声色には静かな興奮が混じっているように感知された。すくなくとも参ってはいないようだ。そういった性質(たち)の女。


 だがいっぽうで手堅くもあり、こちらが打刻(ピン)で探っても本体を捉えさせてもらえない。AIの配置は絶妙だった。防御重視の展開。ひとりで戦っているとそうなるのだろう。それを私は、今から――


 手間取っている訳には行かない。手こずっていたら新手の敵がやってくるかもしれない。だが勝負を早く付けたいのは向こうも同じ筈だろう。手柄は独り占めしたいだろうから。となるとどちらが先に仕掛けるか、という話になる。


 私はもうすこし大胆になるべきかもしれなかった――人の命を()るとなれば。


 データ展開開始。攻撃的な配置にする。仕掛けるという意図よりも、相手を釣るという意図のほうが強い。


「かかってきなさい、〈マーセナリー〉。あなたのすべてを抉り出し――そして超えて見せる」

「向上心の強いAIね。中々面白いじゃない」


 彼女は皮肉で言っているのだろう。だが後ろで見ている守矢からは「ポジティヴ」の気配が感じられる。これもまた楽しんでいるのだろう。


「行きなさい、〈フローベール〉、〈バルザック〉!」


〈マーセナリー〉も痺れを切らしたのか、AIに命令(コマンド)して攻撃を仕掛けてくる。私が展開しているダミーデータは次々と潰されていった。しかし再展開力は私が上回っている。そう簡単にはやらせない。


 私はなお慎重である。ここは解析(アナライズ)の時間と定めていた。ただ退けるのではなく、逃げるのでもなく、仕留める。殺す。ならばそれだけの覚悟と準備がないといけない。でなければ奪られるのはこちらだ。


 そして〈マーセナリー〉は間違いなく強敵。


「お前を潰して、〈スピアー〉を今度こそCSAに突き出してやる」


 彼女には守矢の殺害の意識はないようだった。それが最低限のモラルなのだろうが。だがそれは偽善でしかない。自分自身では殺さないかもしれない。しかし捕まったサイバー犯罪者をCSAがどう扱うか、知らない訳ではあるまい。自分の手を汚さないというのは――じつに醜い――


「引導を渡してやるわ、愚かな賞金稼ぎ」


 軌道エレベータのシステムを自由に扱えることによって、私の演算処理能力は飛躍的に向上している。「頭がスッキリする」というのはこういうものを言うのだろうか。処理が軽く速い。しかしそれに付いてくる〈マーセナリー〉も大したもの。


「ハッ! AIのお前に、そんなことができるかしら?」

「私を舐めないでいることね」


 私は解析を続けつつ、彼女の脆弱性ポイントを探り、裏から情報を取ろうとしている。直接的な殺害となれば、もっと中枢(コア)の個人情報が必要になる。彼女がどこからこのネットワークに接続(アクセス)しているか、その核心的なところを探る。


 その為に、私は偽装の為に防勢に回っているように見せている。それでありながら「ヴェスパ1」をちらつかせ、いつでも攻勢転回できるような姿勢を見せる。〈マーセナリー〉は用心深かった。簡単には釣られない。時間という点で、この状況では彼女が有利なのを理解している。


「仕留めてやる、哀れなハッカーの傀儡!」


 ここで〈マーセナリー〉は彼女の切り札――だろう――を展開した。多発同時起動型攻撃プログラム。かなりの処理能力が必要なはずだ。だが彼女の使役するAIはそれに耐え、私のダミーデータを一気に破壊した。私は一瞬丸裸になる。


 まずい!


 ――以前までの私なら、それで完全に捉えられていただろう。実際紙一重だった。しかしここで私が即座に再防御展開を先んじてできたのは、危機管理システムの起動ではなく、もっと根源的な、()()とよべるものであった。


 しかし、そんなものが芽生えていたのは――何故――


「このッ!」


 攻撃が上手く行かなかった〈マーセナリー〉の叫びが響く。彼女にとってもこれは賭け(ギャンブル)だった筈だ。これだけ大規模で鋭い展開をすれば、自分の防御(ディフェンス)は疎かになる。実際、攻撃が不首尾に終わったと悟るや、彼女はすぐに自分のAIを引っ込めた。破壊されるのを怖れたのだろう。戦術的には手堅い。彼女は生存を優先する非常に正しい選択肢を取る。


 だが――


 彼女は気付いていなかった。私は最初からここでの表向きの戦闘はすべて欺瞞工作であり、その裏でずっと彼女の個人情報取得を狙っていた。迂闊であると評さざるを得ない。AIの私に、そこまでの応用力、思考力がないと甘く見ていたのだろうか? それは分からないが、彼女にとっては致命傷になるものを、私はすでに取得していた。


 ハンドル・ネーム〈マーセナリー〉。住処(アドレス)フクオカ、JP。


 本名、伊東(イトウ)美紗(ミサ)


 捉えた。

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