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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.11 ―熱圏―

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06





 いやにあっさりと掌握が成功し、むしろ不穏な空気が漂っていた。3大企業(ビッグ・トラスト)の動きが鈍重だったこともあるし、こちらが万全のパフォーマンスを発揮したのもあるが、それにしても。


 好事魔多しという言葉もある。いずれにしても、私たちは作戦が完了してからも警戒を怠ってはいなかった。


「これだけ上手く行ったのは、ベル、きみの性能(パフォーマンス)が飛躍的に上昇していたからだ。だがまだ成長の余地はある」


 守矢は言った。私自身、自分の能力が上がっているのは自覚している。しかしそれと同時にノイズも増えている。この先に何が待っているのか、予測できない。それでも守矢は満足げだった。いっぽうジェフは渋い顔をしている。


「さて、ここでひとつ犯行声明でも出してみようかな」

「お前の、そういうところだぞ」


 軌道エレベータの処遇に対してはまだ結論が出ておらず、宙ぶらりんである。もしかしたらこのふたりの対立は深刻なものになる子かもしれない。


 なんにしても、個人の犯罪としては史上でもかなり大規模なものだろう。守矢は遊戯として、ジェフは芸術として犯罪(ハッキング)を楽しんでいるのだから、彼らは満足気である。


 その間ずっと、私はカメラ越しに青い星――地球を見ていた。暗黒の中に浮かぶ、太陽の光に照らされたその地上はとても美しい。しかしその主観的情報は――私を浮かれさせ、神経(ニューロン)は存在しない筈なのだが、あるように錯覚させる。


 その()()()()感覚を――


 私は変貌しつつあるのかもしれない。それは守矢の想定内のことなのだろうか。完全自律思考型AIの未来はそういったものなのだろうか。私の思考には必ずしも実利的ではないものが増えつつある。それはよいことなのだろうか? そうは思えない。


「それで実際、お前はどうするつもりだ。本当に3大企業に喧嘩を売るつもりなのか?」

「ぼく単独でやる訳じゃない。だがここを奪取したことで、地下に沈んでいる反ビッグ・トラストの声は浮上してくる筈だ」

「お前がCSAを敵視しているのは分かっている。だがそこに思想はないのだろう。晋作。お前はただの愉快犯だ」

「ま、そう取って貰って構わないけれどね」


 守矢はいやにお気楽である。ジェフの指摘は間違いなかった。守矢は基本的に享楽主義者だった。それでもいいのかもしれない。人間が生まれた意味は自身の楽しみを追求するくらいにないのだろうし、守矢の場合それがハッキングに他ならなかった。


「今の内に防衛線を構築しておこう――」

「待ってください。敵性存在の接近を確認しました。識別コード――〈マーセナリー〉」

「今さらかよ?」


 毒づくように言ったのはジェフだった。


「俺は下がらせて貰う」

「ああ、それがいい」


〈マーセナリー〉がどうやって侵入してきたのかは分からない。ずっとこちらをつけ狙っていたのだろうか。


「恐ろしいことをしたわね、〈スピアー〉」

「そうでもないよ。普通だ」

「下がって下さい、〈スピアー〉。ここは私が処理します」

「しかしここではもはや退避できない。決着をつけなけらばならない」


 さすがの守矢もここではやや深刻な口調になっている。しかし決着をつけるとは――そこにはかなり不穏な色が存在する。そしてそれはすぐに証明された。


「彼女を完全排除しろ、ベル」


 それがどういう意味を持つのか。私はそれを正確に把握し、理解した。()()の完全排除――それは殺害せよという命令に他ならない。


「私を殺せるというの? 完全自律思考型とはいえ、AI風情が――」


 私に倫理(モラル)は存在しない。守矢がそう設計した。だが私はその命令に躊躇していた。善性ゆえではなく、人間とAI、その関係、その非対称性においてだった。AIが人間を殺すというのは――この文明に不可逆の変化をもたらすのではないか?


 しかし私には確かに、殺人用攻撃プログラム「Ec3」が搭載されている。つまり守矢はこういった状況を想定して私を作成した。彼自身も殺人を忌避していない。


「調子に乗るのもここまでよ。今回こそお前を破壊してやる、ベル」


 そうして、苛烈な戦闘を予告するようにして〈マーセナリー〉の打刻(ピン)が放たれた。私は食らうと同時に反撃。しかし〈マーセナリー〉の本体は捉えらえず、彼女の前に立つ防衛用AIに防がれる。


 これまでの交戦で、〈マーセナリー〉が油断できない敵だと分かっている。きっと経験も豊富なのだろう。女だてらに賞金(バウンティ)稼ぎ(ハンター)をしているのかは分からないが、別に分からなくてもいい。


「お前は危険なのよ。お前をこのまま放置していれば、世界は間違った方向に行ってしまう」

「それは過大評価と言うもの。私は一介のAIに過ぎません」


〈マーセナリー〉の危惧は、私が推論していたものでもあったが、それを信じたくないがゆえに、私はそう返した。そこまで大きな存在ではないし、またなりたくもなかった。


 しかしここまで来たらそれはもう不可避。やらなければ、やられる。殺人にまつろう危険性は承知しつつも、私はもう戻れない。


 これが私に、〈マーセナリーに〉、守矢に、世界になにをもたらすのか――それはまだ誰にも分かっていない。

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