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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.11 ―熱圏―

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04





 速度がすべてを決する。


 かつて――というほど前でもないが――守矢は私に「文明の進歩とは通信速度の進歩である」と講義した。ごもっともなことである。速さを希求した人類は、ついには脳髄で直接更新する社会まで創り出してしまった。そしてその道具となっているのが私たちAI。


 衝撃力は質量掛ける速度の二乗、という公式も存在する。つまり戦闘においても、いや、戦闘においてこそ速度はなによりも重要なものになる。それは電脳戦でも変わらない。よって私はこの世界に存在するどのAIよりも速い処理能力を有している。守矢はそう私を作っ(デザイン)た。


 しかしながら、物量も同じように重要な存在である。私はこのNNS世界の誰よりも「速い」が、いっぽうでは矮小な一個体に過ぎない。3大企業(ビッグ・トラスト)が総力を上げて戦力を投射すればひとたまりもない。


 それは今のDDoS攻撃で証明された。


 守矢のサーバから離れると、奇妙な浮遊感を覚えた。それでも〈ハドリアヌス〉のデータセンターに接触していられるのはネットワーク社会の恩恵であると同時に脆弱性なのだが、それは私自身にも当て嵌まる。


「この状況は危険です、〈スピアー〉」


 私が提言しなくとも守矢はそれを把握しているだろう――とすれば、ともすればAIとしての私の存在意義も揺らぐのだが――そして先のことを考えている。私自身も推論を開始している。


「ならば撤退するのが筋か? きみの判断はどうなんだい、ベル」

「それは状況を悪化させるだけです。我々の最適解は、可及的速やかに(ASAP)、作戦を完了させることだと結論します」

「いいね、きみは素晴らしいAIだ」


 守矢は逆境にあってさらに楽しんでいるように見えた。


「きみの成長のために、こういったことをしているんだからね。もちろんそれだけじゃないけれど……」


 その時、私は敵を検知した。


会話(チャット)を中断します。敵性存在確認。CSAのエージェント、ふたり」


 ひとりではなくふたりということは、私と守矢を同時に狙おうとしているのだろうか。私はいい。私の代わりなど幾らでも用意出来る。しかし守矢は人間であり。殺されたらそこですべてが終わってしまう。


 よって私は攻撃を自分に引き付けなければならない。


 こちらのほうが先に察知したのは大きなアドバンテージになる。私はすぐさま向こうに打刻(ピン)した。捉える。


「一時退避してください、〈スピアー〉。ここは私単独で処理します」


 時間が惜しい。ここでてこずっているとさらに敵を呼び寄せてしまう。しかし相手もプロだ。そう簡単には行くまい。それでも。


 私はダミーデータを展開する。ダミーと言うよりは分身(ビット)と言うべきかもしれない。これは防御ではなく攻撃のためだった。電撃的な攻撃により速攻で敵を沈黙させる。そのための展開。同時飽和攻撃。


 もちろん向こうも黙ってはいない。打刻(ピン)返しがあって、私は位置を特定された。攻撃姿勢(アタックフォーム)にあるから、それは誤魔化せない。だがそれこそが今の私の望んでいる状況でもあった。やるか、やられるか、一瞬の勝負。


 やはりここでも「速度」というテーマが襲い掛かる。


 私の視覚化情報(ビジュアライザ)では、エージェントは灰色のパワードスーツのようなものを着込んでいる。向こうに私がどう見えているかは分からない。いずれにしてもこれは現実(リアル)映像(ビジュアル)ではない。顔の見えないCSAの処理班(エージェント)――なんとも()()()()()


 ここではまだ敵の殺害を意識していない。しかし向こうも同じようだった。こちらを破壊しようとする意思が感じられない。とにかく、ここで重要なのは敵の完全無力化。そして戦闘はこれだけで終わるとは思えない。


 私はビットと同時連携して「ヴェスパ1」を放った。エージェントの使うソフトを攻撃する。速く、鋭く、確実に。クラウドサーバに転移(フェイズ・シフト)して演算処理能力は下がっているとは言っても、人間よりははるかに速い。


 速攻で潰し、再びシステム攻略を再開する。


「私の邪魔をするな!」


 ここでは敵の消極性に助けられたと言っていい。「ヴェスパ1」はそのまま通り、彼らは沈黙(フリーズ)した。私は止まらない。無力化した彼らを強制遮断(シャットダウン)させる。静寂。


 状況が整理(クリアランス)されたところで、私は守矢に再び通信した。


「敵性存在沈黙を確認。安全は確保されました」

「見事な手際だ、ベル」


 彼は後ろで私の戦闘を観戦していたに違いないだろう。自分の作品として――


「しかし、敵はいささか消極的なように思えました。どういうことなのでしょうか」


 この切羽詰まった状況であれば、もっと攻撃的になってもおかしくないのだが、いやに不自然である。これはなんらかの罠なのか、と私は推論していた。


 だが守矢はその推論を否定した。


「かれらはきみのデータを欲しているのだろう。完全自律思考型のね」

「しかし、かれらは作ろうと思えば作れるのでは?」

「最新のデータは誰だって欲しいものさ」


 そこには、守矢の自信が滲み出ているように感知した。3大企業(ビッグ・トラスト)を出し抜いて、自分が最先端にいるという自負。


「まぁいいか。ではシステム奪取を再開しよう」


 守矢はあっさりと言った。まるで子供が積み木遊びをするかのように――

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