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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.11 ―熱圏―

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03





「ここを越えればもう後には退けない。色んな意味でな。覚悟はいいか?〈スピアー〉」

「もちろんだ。そっちはどうなんだい?〈ソーサラー〉」


 ついに開始時刻(ゼロ・アワー)。ジェフが言った通り、この前代未聞の犯罪はルビコンの川を渡るようなものだ。すべてが変わってしまう。成功するにしても、失敗するにしても。それは私たちにとってもそうだし、社会にとってもそうである。


「ベル。きみはなにか言いたいことはあるかい?」

「いえ。特には」


 そんな状況で落ち着いていられる彼らは恐るべきサイバー犯罪者だった。


 さて、基本的な作戦は前に言った通りだが、そう簡単にもいかない。システム解析をしたところ、それは7層構造になっている。それをすべて突破して中枢に侵入することができる。それだけ複雑な処理を必要としているのだろうし、同時に多重構造は防御面も考慮されている筈だ。


「では始めよう」


 状況開始。まずは守矢謹製のウィルスソフトが起動する。ウィルスはすぐに第1階層に蔓延し、システムを麻痺させに掛かる。私の出番はそのあと。その間にシステムを掌握する。その為のプログラムも、解析したOSに合わせて開発された。


 第1階層の掌握はすぐに行われた。敵の動きは緩慢であるように見える。竹芝亮氏が言った通り、こちらが仕掛けに来るのは向こうも分かっている筈だ。しかし巨大企業ゆえの鈍重さが邪魔しているように推論する。


「このまますんなりいけば万々歳なんだけどなあ」

「そうは行かないだろう」


 ジェフは後方に待機して、セキュリティホールのほうにまで私たちを誘導(ナビ)する。とにかく私たちに求められているのは、ひたすらに速度である。


「第1段階完了(コンプリート)。次段階に進んでください、〈スピアー〉」


 それゆえウィルスソフトも展開速度を最重要に設計されている。破壊的ではなく、制圧的なプログラム。


「兵は拙速を尊ぶとは、いい言葉だね」


 別に戦争をしているのではないが、守矢はそんなことを言った。


 だがそれとは別に、いつまで経っても敵の迎撃がこないことに私は退屈し始めた。おかしな話だ。退屈などと。そんな思考が私に育っているのもそうだが、戦闘を望んでいる自分の好戦的な態度に不可解さを覚えるのだった。


 ところが、敵の迎撃はじつに不愉快なやり方で始まった。


 第2階層の攻略の途中、それは起こった。私がいる守矢のサーバに、級に大量の通信(トラフィック)データが注ぎ込まれた。方向は複数あった。そうすると、私の処理速度に重大な支障をきたす。さすがの守矢も苦々しい顔をしていた。


「DDoS攻撃(アタック)か。古典的だな。だがそれゆえに効果的だ」

「そう、悠長に構えている場合ではありません。このままだと私が潰されてしまいます」


 巨大企業なりのやり方、と言うべきなのだろうか。物量に任せた攻撃だった。データに圧迫される不快さに私はあえいでいた。予想していなかった――というのは、敵がこちらのサーバへの(ルート)をつかんでいるとは思わなかったからである。


「なりふり構わないですね」

(マネー)も沢山かかるだろうにね」


 守矢は不愉快そうだが落ち着いてもいた。


 かなりの方向から、かつ大量にやって来ている為、サーバが破壊されないためにはこちらがシャットダウンする必要があるのだが、そうすると私が活動できない。ではどうするべきか。


「ベル。きみは一時離れなさい。クラウドサーバに移動するんだ」

「はい。しかし――」


 そうすれば敵もこちらの射程範囲外になるだろう。しかし守矢のサーバから離れるとなると、私のハードウェア的性能(パフォーマンス)も落ちてしまう。そこまで睨んでの作戦なのかどうなのか。


「それから、こちらも攻撃を仕掛ける。財産を潰されたくはないからね。作り直すのも一苦労だ」


 私はすでにどこからトラフィックがやって来ているか逆探知していた。そして逆流させるようにクラックウィルスを流しこむ。


 しかしどちらにしてもいたちごっこ、時間稼ぎにしかならない。敵も――TRIA主導なのかCSA主導なのかは分からないが――こんな攻撃で私が仕留められるとは思っていないだろう。つまりこの攻撃の本意はこちらの足止め。


 ということは、ここから本格的に敵がやって来る。ガードAIか、それとも人間のエージェントか――もしここに、あの〈レザー・エッジ〉がやって来たとしたら――私の中に熱量が高まる――


「きみは〈レザー・エッジ〉に恋しているのかな?」

「何を言っているか理解できません」

「言ってみただけさ」


 恋とか、そんな訳の分からない話はともかく、私は彼との再戦を望むいっぽうで、充分なパフォーマンスを発揮できない現状でそうするのは勿体ないし危ういと思考していた。パフォーマンスの問題だけではない。クラウドサーバに浮遊しているということは、それだけ守られていない、脆弱性が高まっていることを意味する。


 そんな危うさを感知したのは初めてだった。それで、私は守矢に守られてきた――彼の用意した揺り籠で遊んでいたに過ぎないのを気付いたのだった。それが今終わった。


 だがそれは同時に、私のさらなる飛躍をもたらすものなのでは――?

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