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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.10 潜行――尖塔

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05





 ガードAIとの戦闘はどこまでも不毛である。面白くもないし、実益もない。成長という面でも量産型をどれだけ駆逐しても大して蓄積しない。しかし避けられるものでもない。これが私の仕事なのだと納得するしかない。


 ――と、億劫になっている時点でかつての自分とは明確な変容があると気付かされてしまう。以前ならそんな思考も生まれず、ただ機械的に処理していただろう。だが今は?


「鬱陶しい」


 もちろん、同時に別の作業(タスク)をこなさなければならないのもそう思う一因ではある。しかし、私はこうも思ってしまう――そんなノイズが生まれてしまう私はAIとして不適格ではないのか、と。


 能力に対する問題はない。この状況でもOS解析進行(プロセス)は順調に進んでいる。すこしずつ掌握しつつあるし、そうなればもう怖いものはない。胸を張って仕事を守矢に報告できるだろう。それでもなお――このむず痒さは払拭されない。


 ガードAIは潰しても潰しても次がやって来る。それ自体は歓迎すべきことである。敵はまだ自動防衛システムしか稼働していない。TRIA、そしてCSAが連携して潰しに掛かってきたら少々まずいことになる。その前に処理をすべて終わらせなければならない。守矢がスピードを重視している所以である。


 システムコードを記録し続ける。そしてこの独自OS(APOLON(アポロン)ver.22という名前(イニシャル)が判明した)に対しての最適化コードを作成する。これがベースになって本格的な侵攻プログラムが守矢とジェフによって作られる筈だった。


 ネットワークに接続していると、常に脆弱性と付き合わねばならない。しかしこれだけ巨大で重要なシステムは独立(スタンドアロン)で管理できるものではないのだった。この軌道エレベータ維持管理運用に関しては、それだけの人数が関わらざるを得ない。そして侵入者たる私への対処が遅れているのも、その巨象ゆえの鈍重さなのだった。


「そこに付け入る隙がある」


 というのが守矢の弁。かれはダビデとゴリアテになぞらえて、その勝機を語るのだった。


 APOLONver.22はやや古臭い構造を持つOSだった。それは悪いことではない。枯れた技術というものだ。速度や先進性よりも安定性を重視した設計。軌道エレベータ運用専門に開発されたものなのだから当然ではある。


 それを1から解析するというのは中々骨の折れる作業だった。だが私には出来る。私は現世界で最先端のAIなのだから、それくらいは出来ないといけない。


 しかしそれは孤独な作業でもあった。それに耐えられたのは私が人間ではないからだった。AIでないとこの作業は不可能である。


「マスター、第三波、来ます」

「あなたなら対処できるわ。クレム、あなたの有用性を証明しなさい」

命令了解(アクセプト)。迎撃を続行します」


 クレムはじつに守矢らしい設計のAIだった。この世代でも処理速度はかなりのものだ。ゆえに連続して襲来するガードAIを冷静沈着に処理(デリート)し続ける。だがその真骨頂はその耐久性にこそある。


「あなたは鉄の女ね、クレム」

「ありがとうございます、マスター」


 私にはあいまい(ファジー)機能があるから、何が何でも100パーセントの結果を求めないでいられる。状況を柔軟に整理して、完璧でなくとも、機を見て撤退すべきだと思考できているのだ。そしてその時は既にやって来ている。


 敵が本格的に動き出す前に。私は既に足跡(ログ)消去の位相(フェイズ)に入っていた。ことが終わればすたこらさっさ。じつに泥棒(ハッカー)らしい。


 私はクレムを撤収させて、そのまま撤収する。しかしそのまま守矢の(アジト)に戻るのは安全保障上よくない。ログは消しているとは言っても真っ直ぐそのままだとアドレスをつかまれる危険性は大きくなる。よって迂回をする。この辺りの慎重さも守矢から受け継いだもの。結局の所、AIにはその製作者の性格、あるいは個性が滲み出るものなのだ。


 これは最初から決められていたことでもあった。帰投する前に、まずはジェフと合流する。帰投は彼の安全を確認してから、さらに情報を共有してからの話になる。


 私はその予定されているランデブー地点に向かった。

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