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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.10 潜行――尖塔

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03





 かくして私は帰投し、竹芝亮氏との会談内容を持ち帰ったのだが、それで守矢の気持ちが翻るとは思えなかった。


「前に原発を奪ってやったというのに、彼は平和ボケしているんじゃないかな」


 他人事のように言う守矢には、赤い血が流れているのか疑わしいほどの酷薄さが見て取れる。彼の性格、それを特徴づけるものはまさにそれだった――その物腰の柔らかさからは信じられないほど、他者に対する愛情が存在しない。いや、一見物腰柔らかいからこそ、それが際立つのである。


 それは客観的評価の筈である。しかしそこに私がどのような感情を持つかというと――


 ――感情?


 私にはそれは存在しない。よって守矢はそういう存在なのだと認識するしかないし、それが私のマスターでもあるのだ。


 よって今回の仕事(ビズ)は予定通り行われる。しかし犯罪を仕事(ビズ)と表現するのは、今さらながら奇妙な感じもある。文句をつけるつもりもないが。


「まあぼく相手に友好な交渉材料が存在しないのは仕方ないがね」

「〈スピアー〉は最新機器が欲しくはないのですか?」

「欲しいのはまあ、間違いない。そこは認めよう。だがTRIAにほどこしを受けるのは真っ平御免だね」


 彼の3大企業(ビッグ・トラスト)に対する敵対意識はどこから来ているのだろうか。元CSAというのも関わりはあるだろうが、そこにあるのは憎悪ではない。ただ「敵」として認識している(「取引先」、などと嘯いたこともあったが)。


「そういう訳で暗躍を始めよう」


 守矢のあまり上手くない諧謔(ジョーク)を聞きながら、私は一応自分の意見を述べてみた。意味がないことは分かっていてもだ。


「しかしながら、この作戦は失敗すれば致命的です。そして失敗する確率のほうが高い。私の意見としては慎重に――いや、反対します」


 そう言っても守矢は気分を害さなかったようだ。むしろ楽し気ににっと笑った。


「いいね。このぼくに意見できるようにまで成長してきたか。きみの成長速度は想定していた以上だ」


 しかし最終決定権はあくまで自分にある、と彼は続けた。


「問題は速度だ。奴らが万全の状態になる前にことを完遂しなければならない」

「それはその通りです」

「だがこちらも充分準備しなければ難しいだろう」


 そんなことを言っている内に、()()()仲間であるジェフがアジトに入って来た。守矢は警戒していない。彼らふたりの信頼関係というのはよく分からない。


「俺のほうは準備出来ているぞ。AIもツールも作成し終えた」

「いつもどおり仕事が早いね」

「で、俺はどうすればいい? 今回の指揮(コマンド)はお前に任せる」

「そうだね」


 そうして守矢がジェフに出した指示はこのようなものだった――守矢の持論、いかに堅牢な防衛(セキュリティ)装置(システム)を擁したものであっても、それが人間の作った――AIのサポートを含めても――ものであるいじょう「穴」は絶対に生じてしまう。そこでジェフは裏からそのセキュリティホールを探るというものだった。


「任せろ。そういうのは得意だ」

「それが分かっているからこれをお前に任せるのさ」

「お前に信頼されるのは嬉しいよ」


 それで私はどういったことをすればいいのだろうか。


「軌道エレベータのシステムは独自のもので稼働している。AEの作成した、ここだけに使われているOSだ。それを解析して貰う」

「しかし独自と言ってもネットワークには接続しているのでしょう」

「もちろん。ここでベルと〈ソーサラー〉の同時行動に意味が出てくる」


 ふん、とジェフは鼻を鳴らした。


「こいつが表で俺が裏か。それはすこし気に食わんが、まあいいだろう」


 どうも彼には嫌われているようである。完全自律思考型AIというのが彼の気に入らないのだろう。それも思想の問題だからその意志を矯正させることはできないし、また私があえて彼に媚びる必要もない。


 結局の所、私たちは仕事(ビズ)で繋がっているに過ぎないのだから。


 だから、どれだけ内心で気に食わないところがあったとしても、協力することに異議はない。それだけ大きな仕事(ヤマ)なのだろうし、それはジェフにも分かっていることだろう。


「お前が気に食わないのは分かるよ、〈ソーサラー〉。しかし趣味の問題は別として、お前もベルの有用性は認めざるを得ない筈だ」

「AIに丸投げというのがつまらんのだ。芸術性に欠ける」

「仕事を芸術(アート)とするなら、ぼくとしてはあらゆる手を尽くしてスマートに完遂する方が好きだね」

「そこが晋作と俺の相容れないところだな。だが今回はお前の遊戯に付き合ってやろう」


 彼が私を疎んじているように、私のほうもジェフのことはあまり気に入っていない。しかし有能なのは――一度私を負かしたように――認めるところだし、そして仕事となれば心強い味方なのも確か。


 となれば私心は捨ててドライに付き合う――それは私が守矢から受け継いだ資質である。


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