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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.10 潜行――尖塔

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02





 竹芝亮氏は信頼のおける人物だと前回の接触で判断している。TRIAの責任者とは言え、腹に一物持つ者ではないと信用できる。だがそれゆえにこそ彼の提案するであろう和平案には慎重になるべきだ。それが私の判断(ジャッジ)


 一応守矢に私単独で接触していいか、と確認したが、


「いいよ」


 とそっけなくもありがたいご託宣が下された。


 ネオ・ダブリンは比較的素朴な街である。だが訪問する人々は意外に多い。ここには観光名所、TRIA製軌道エレベータ3号〈ハドリアヌス〉が存在するからである。NNS上のデータ視覚情報(ビジュアライザ)でもそれは再現されているが、ここでは肉体世界(フィジカル)に実在するそれを見物できるサービスも提供されている。


 私もそれを見ることができるのだろうか――とすこしだけ興味を持ったが、ここはその要求を却下した。そういうことをするために来た訳ではないからだ。


 私は指定の会見場所に到着した。かつて英国がアイルランドを支配していた時に使用していたという陸軍駐屯基地――を模した建物がそこだった。前回はもうすこし穏当なところだった筈だが、今回は向こうもそれなりに威嚇しているらしい。


「再びお会いできて光栄です。完全自律思考型AIベル」

「こちらこそ、光栄であります」


 会見は一見穏健に始まった。我々は握手までしたのである。しかしそのテーブルの下ではお互いにナイフを隠し持っているのも間違いはない。それもまた了解の内にある。


「できれば私たちも穏便にことを収めたいのです。そこのところ、お間違いなきよう」


 その言葉からすれば、情報を漏らしたのが竹芝芳一氏だと向こうも把握している、と判断してよさそうだった。そうでなければ、ただの犯罪者(テロリスト)に対して下手に出る必要はないからだ。


 だとしてもそれはやや弱腰であるように感知される。組織のトップとしてそれはどうなのか、とも思ったがそれは私の関知するところではない。むしろ好都合と判断しなければならない。守矢ならそう言うだろう。


「しかし、私たちを金銭(マネー)で懐柔できるとは思っていないのでしょう?」

「それはもちろんです」

「では、あなた方はなにを提供していただけるのです?」

「最新型の、我々が開発したサーバとスタンドアロンユニットを用意させていただきます。これはいかに〈スピアー〉氏がどれほど卓越したエンジニアであっても手に入れられないものです。もちろんマネーでも」


 TRIAらしい交渉材料だと思われた。問題は守矢がそれで納得するかどうかだった。しかしここでもうひとつ勘案しなければならないのは、竹芝亮氏が最大限の誠意を持って接していることである。


 竹芝亮氏の性格は温厚だという評判だ。今のところそれを裏切るところは見せていない。TRIA最高経営責任者としての態度はまた別になるのだろうが、個人としては穏便に済ませたいという気持ちが透けて見える。


 それを御しやすいと見るかどうかは――難しいところだ。


「その案は持ち帰らさせて貰います」

「ありがとうございます。しかし勘違いしないで欲しい。我々はあなた方に屈服しようとしている訳ではないのです。この和平案が締結しないのであれば、わが社――いや、3大企業(ビッグ・トラスト)の威信にかけてあなた方を徹底的に潰す。私は単に平和を望んでいる――それだけです」


 温和ではあるが譲れないところはある――そこはやはり巨大企業のトップに立つ者の矜持と言えるものだろう。あからさまに攻撃的ではないが、緊張が走ったのは確かである。


「その旨も〈スピアー〉に伝えておきましょう」

「そうしていただけるとありがたい」


 私は、彼自身この交渉が上手く行くとは思っていないと判断した。万に一つでも通ればいいか、という程度のもの。彼は、というよりは誰もが知っていることだが、〈スピアー〉の性格を把握している筈。私もここでは明言を避けたが、守矢がこの提案を飲む訳がないと確信していた。弾き出した確率は99.67456%。私のほうでも万一だと判断している。


「この話はここまででいいでしょう。そしてここからはTRIA最高経営責任者としてではなく、竹芝亮個人としての話として欲しいのですが――」

「祖父殿の話ですか?」

「はい、そのとおりです。芳一があなた方に接触したのは当然知っています」


 アバターの変化に過ぎないのだが、彼はやや沈痛な面持ちであるように見えた。彼がどこまで知っているのかどうか、それはすぐに分かる。


「祖父が祖母(サクラ)を非常に愛していたのは間違いありません。しかし私にしてみれば、その影を忘れられず、AIとして再現するというのは、死者に囚われているように思えてならないのです」

「恐れながら、そのようなケースは祖父殿以外にも多く見られる案件です」

「それは分かっていますが、しかし……」


 私の判断基準からすれば、それは思想性の違いでしかなく、思想というものは誰かが誰かに強制できるものではない。それが肉親であっても。


「ともあれ、祖父の要求に対しては拒否して貰いたいのです。サクラを自律思考化するのは――とても危険なことのように思えてならないのです」

「それも〈スピアー〉には通しておきましょう」

「返事は如何様に?」

「それは――」


 私はあえて踏み込んだ言い方をした。それはこうだ。


「それは今後の私たちの行動で判断して貰いましょう」


 そうして会談は不穏のまま終わったのだった。

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