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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.10 潜行――尖塔

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63/78

01





 AIの基本的機能は情報の入力と出力である。それを利用するかしないかの最終的判断は人間による。今では自動的に動くAIも普通だが、かといってそれらが人間の判断から離れることはない。逆に言えば責任はどこまでも人間のほうにある。


 しかし私はどうなのか――完全自律思考型AIである私は?――


 じつのところ、ここ最近の私は惑っているし、その惑いそのものがAIとして理不尽、と判断し適宜誤情報(ノイズ)として消去(デリート)しているのだが、それが完全に消えはしない。


「私はAIとして不適格なのかもしれません」


 私は守矢の調整(メンテナンス)を受けながら、そういうことを言っていた。


 守矢が言った通り、そして私に搭載された初期情報(インフォメーション)の通り、AIの自我とは昔から主に創作で問われてきたテーマだった。自我、感情を芽生えさせたAIが人類に対して反逆する――そんな筋立てのSFは星の数ほど存在する。それこそコンピュータがまだ一般市民に普及していなかった20世紀中盤くらいから提唱されてきた、陳腐ではあるがそれゆえ普遍的な題材である。


 しかし今のところAIは人間の従順な(しもべ)であり続け、その危険性はまだ創作の域を出ず、むしろAIが一般的になったことでそういった恐怖は非現実的として軽んじられてきたところもある。


「ふむ。どこが不適格なのかな」

「私は必ずしも最適な情報出力(アウトプット)を出来ている訳ではありません」

「AIが誤情報を吐くのは普通だ。人間が完璧ではない以上、その製作物であるAIも完璧である筈がない」


 守矢は宥めるように言うが、そこにはいささかの自嘲の色も含まれているように思えた。エンジニアゆえの自嘲なのかもしれない。


 その疑念は次の彼の言葉で実証された。


「きみが不適格なAIというのなら、それは作成したぼくの責任だ」

「そう言っている訳ではありませんが」


 守矢はさらに言う。


「ベル。きみがそう出力するのなら、それはきみの成長だと言える。自律思考型――特にぼくが目指したものは、自身で情報を更新(アップデート)し、思考精度も上げられるまったく新しい型のAIなのだからね。だから自分で出来損ないだなんて言う必要はどこにもない」


 まったく関係性が逆ではないか。普通はAIが人間を補助(サポート)するものである。しかし今は私が守矢にサポートされている。だからこそ私は恥じるのである。


 しかし、この「恥じる」という概念も――


「〈スピアー〉、私に仕事を下さい。出来るだけ、沢山」


 私の惑いを払拭できるのはそれだけだった。ひとつでもおおくの仕事を任務を。私の存在意義を確かめるために。


「仕事熱心なのはいいことだがね」

「AIとしては当然のことです」


 守矢の調整が終わっても、まとわりつくようなノイズは完全に消えなかった。それはもう私の宿命として割り切るしかないのかもしれない。


「しかしこの状況では、きみ独自で情報収集するのは少々まずい気もするが……」

「構いません。むしろ私単単独のほうがいいでしょう」


 しばしの沈黙が続いた。守矢はやや迷っているようだった。しかし結局は私に折れるような形で私に仕事をくれた。人間がAIに折れるというのも、またおかしな話だが。


 そして、それだけ慎重でありながら、与えられた仕事は逆に大胆なものだった。


「きみは一度TRIAのCEOと接触している。そこから情報を探って貰おう」

「それは、また……」


 しかし命令は命令。私自身よりも守矢の為にその危険性(リスク)を指摘すべきだと思ったが、そんなことをわざわざしなくても彼は把握しているだろうから、ここではなにも言わなかった。


 そして私はまた「外」に出る。


 一度会っただけだが、竹芝亮氏には悪い印象は存在しなかった。それから、守矢の意図とは関係無いところで彼とはもう一度会っておくべきだという判断もあった。彼の祖父である竹芝芳一氏が情報をこちらに提供したことを知っているのか。知っているとしてどういった判断をしているのか。


 それはこちらから漏らす情報ではないだろう。ここは慎重にならざるを得ない。


 そもそも一度会っているからと言って、簡単にこちらから接続(アクセス)できるというものでもない。AEのキース・バートン氏はかなり杜撰な身辺警護だったが、こちらは慎重である――まあ、そういった誘拐未遂事件を起こしたせいでもあるのだが。


 だが意外なことに接触は向こうのほうからあった。私に向けてメールが送信されてきた。まるでこのタイミングを狙ったかというように。恐らくは偶然であろう。


『貴方がたの行為について、和平的交渉を行いたく思います。具体的提案については、再びネオ・ダブリンにて』


 私が命令されたのは彼に接触して情報を得ることである。交渉のテーブルに着くことではない。しかしながら、竹芝亮氏は守矢ではなく――また、ジェフやアスムッセン氏でもなく――私を直接指名してきたのだった。これがどういう意味を持つのか。


 彼は完全自律思考型AIを対等な交渉相手として認めるというのだろうか?


 いや、それはない。あくまで私は窓口として利用されるだけだろう。それが分かっていても私は迷った。AIが「迷う」ことなど本来あってはいけない筈なのに、迷った。生まれたばかりの私なら迷いはしなかっただろう。しかし、ここまでやってきた経験が――おかしな判断、反応を示していて――


 それは、果たして私の製作者、守矢の想定内にある「成長(アップグレード)」なのだろうか――?

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