02
しかしどこから探っていったらいいものか――
TRIAはCSAほど強固ではないものの、共同で防衛線を張っている。前の原発奪取は上手く行ったが、今回は訳が違う。言うなればかれらの心臓をつかみにいくようなものだからだ。個人で手を出していいものなのかどうか、私の状況判断は否定的寄りになっている。しかしそれが守矢の判断なら拒否はできない。
企業の中枢に直接入るのは不可能だと思っていい。とすれば社員の誰かを捕まえて情報を得るということになるだろうが。しかしそれも難しいだろう。中々難しい案件を抱えてしまった。それでも私は可能性を探知し続けた。
「〈スピアー〉も大分気が大きくなっているな」
この情報収集――というよりはもうはっきりと「諜報」だと言っていいだろうが、それにはアスムッセン氏のサポートも付いていた。もちろん善意ではなく、守矢からの報酬を期待しているからだった。
「ベルくん、きみという武器を彼はかなり評価しているようだ」
「そうでしょうか」
「そうだ。彼は本来かなり慎重な男だよ。それがここまで大胆になれるのは、きみを使えばそれほどの犯罪を仕掛けられるという自信を持ったからに違いあるまい」
しかし前回のバートン氏誘拐は失敗しているが――しかしそれはジェフが敵に回ったからというのもある。今回は味方。なんとも殺伐とした関係性だが、彼らはそれでいいのだろうか。いいのだろう。やはり私には理解できない領域。
「しかしどこから当たりをつけていいものやら。〈ミスト〉、あなたには当てがありますか?」
「軌道エレベータの裏口となると、かなり難しいな」
私たちは方々を当たってみたが、目ぼしい情報は得られなかった。それだけ難しい仕事なのは最初から分かっていたこと。簡単には諦めない。
「元社員から情報を得るというのはどうでしょうか」
「彼らが辞めても企業に忠誠心が残っているかどうかだな」
しかしそもそも元社員に訊く、といってもその人物を特定するのも難しい。
「その線は良いと思う。ここからは手分けして探そうか」
アスムッセン氏はこういった商売をしながら、中々の紳士であった。というより、そんな危うい商売をするからには粗暴な性格ではやっていけないのだろう。それは守矢にも言える――彼が紳士かというと、また違うような気もするが――そして不承不承ながら、ジェフ・コンドロンにもそれは認めねばなるまい。
悪辣な紳士連。それが彼らである。
「しかし、きみはまるで私たちの中に混じったアイドルのようだね」
アスムッセン氏にそういったおどけた部分があるとは知らなかった。私はどう反応すべきか迷った――しかし迷いがあること自体が、AIとしての私の機能がなにか変化していることの現れではないだろうか。
「アイドル、とは。奇妙な言葉を使います」
私に言えるのはそれだけだった。なんとも反応しようのない話だったのだ。
「いいじゃないか、アイドル。AEと組んでそれで売り出すのも悪くないのかもしれない」
「冗談を」
「もちろん、冗談だ」
そんな無駄話を交わしたあと、私たちは離れた。
しかし退職した社員を探すとなると中々難しい。TRIAはほかのふたつと比べて離職率が低いのである。となると定年退職した者を狙うべきなのだろうが――
進捗ははかばかしくなかった。五里霧中、とでも言えばいいのだろうか。どこから手を付けていいのやら分からない。いや、ある程度はリストアップできたのである。しかしそこからが進まない。こちらの素性を明かすとまずいのでおっかなびっくりでの接触になるのだが、そうすると彼らはもちろん有益な情報はくれない。ハッキングするにしても、彼らの手元にはもう本社の情報はない。
「ここにきて手詰まり……?」
しかしそれはAIとしての沽券にかかわる。僅かな情報でもそこから洗い出し、軌道エレベータの裏口をつかめないかどうか精査するのだが――
「もうすこし別のアプローチが必要な気が……」
しかし大々的に調査すると無論敵にマークされる。隠密での諜報が求められている。ここに来て、仕事の為の事前情報を得る難しさを私は知ることになった。仕事が大きいというのもあるが。
アスムッセン氏はどうしているのだろう。手品のように裏情報を手に入れ、提供する彼。その手管を知りたくなってきた。もちろん私のAIとしての成長の為である。
しかしそのアスムッセン氏を以てしても今回の情報収集は難しいようだった。
「分かっていたことだったが、ここは身持ちが固いね」
一旦集合して対策会議を開いた。持ち寄った情報を精査し合ったが、軌道エレベータにつながるようなものはなにもなかった。当然ではある。
「この世界の根幹を成すものを奪おうって言うんだ。そう簡単には行かないさ」
「しかし諦める訳にも行きません」
そういった実りの少ない調査が数日続いた。裏情報サイトにも匿名で情報提供を求めたが、そちらも上手く行くはずがない。しかしひとつの希望もあった。それはこちらが動いていることを知った誰かが、アプローチを掛けてくれないか、ということ。動かないよりは動く方がいい。もちろん敵本体に察知されたらいけないが。
そしてその効果は一週間後にやって来た。
アスムッセン氏ではなく、守矢宛てでもなく、直接私に暗号メールが届いたのである。
差出人はハンドル・ネーム〈ヤングマン〉となっていた。聞いたことのない名前だ。
『タケシバの情報に関して有益な情報を提供できる用意があります。是非あなた方と取引がしたいものです。興味があれば返信をお願い致します』
このメールをどう判断すればいいものか――私の独断で会っていいものか――
しかしやはり、ここは守矢の下に持ち帰るべきだと判断した。それが正しかったのか間違っていたのかは――まだ判別が付いていない。




