表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.1 起動――仕事

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/78

05





 ――警報(アラート)


 それはかれらと私、両方とも鳴らしていた。世界が赤くなる。しかし赤である必要はAIにはない。それはあくまで人間にとっての警戒色だから。よって私はなにも思わないが、慣例として戦闘状態に入ると視界は赤くなることを学習(ラーニング)する。


「警告! 警告! 速ヤカニ抗戦ヲヤメ、投降セヨ! 繰リ返ス――」


 どうやらポリスAIはこちらを人間のハッカーと誤認しているらしい。それはどうでもいい。私の任務はここから守矢の下に帰投すること。そしてログを消去し、私のみならず守矢にまで情報を紐付けさせないこと。


 よってここは逃亡出来ない。ポリスAIはここで完全に排除(デリート)する。データの痕跡を残さない。


 分析開始。その演算はすぐに終わる。敵は攻撃型AI。ある程度は予想されたものでもあった。


 威嚇する為なのか、そのアバターは青い制服と警察棒で彩られている。帽子の真ん中には金色の六角形に無骨な字体(フォント)で描かれたCSAのエンブレムが施されている。一見すると若い男にも見えるが、これは人間ではない。


 もちろん、それは私のような自律思考型ではない。予め管理者に打ち込まれたコードに則って機動する警官に過ぎない。


 威嚇射撃のような打刻(ピン)。私のデータが微かに揺れる。それはネットワーク上のどこに標的が存在するのか索敵する為のもの。現在のネットワークに於いては、表面上はアバターによって交流しているようにも思えるが、本体はそこにはない。データサーバに取り付いて攻撃しなければならず、もちろん防御側はそれに対抗して欺瞞プログラムを展開する。


 電脳戦はしばしば潜水艦戦に喩えられる。ピンという用語もそう。ここは0101で構成された、暗闇の深海。


 しかしポリスAIは打刻したあと、行動を停止する。


「エラー検出! エラー検出! 標的ヲ分類不可能!」


 ポリスAIは、相手が人間であるかAIであるか探ろうとしたのだろう。電脳戦はAI対AIも普通に想定されている。サイバー犯罪者(つまり守矢のような、そして私も)も当然AIを活用しているからだ。


 しかし類例のない存在。私。完全自律思考型AIは?


「ERROR! ERROR! ERROR! ――ID23469312Daに提案、標的は正体不明。直接操作での処理を推奨します――」


 ポリスはエラーコードを吐き出し続けたあと、そう言った解答を生成したが、管理者が実際に対応できる場所にいるかは分からない。


 逃げることは簡単のように思われる。しかし打刻された事実は残る。それを手掛かりにしてログは追跡されるだろう。つまりデータがこのAIに残っている内に排除しなければならない。リンクを寸断する。それから消去(クリンナップ)


 まさに犯罪そのものだが、これはそういうものである。


 と、私がポリスの動作を攻撃しないで確認していたのにはいくつか理由がある。ひとつはこれが私の初めての電脳戦であること。ふたつは敵がエラーを吐いている間はプロテクトが掛かっていて迂闊には手を出せないこと。そしてみっつは経験値を積むために分析を欠かさないようにする為だった。


 管理者の新規入力がないのか、ポリスAIはエラーを吐くのを停止し、攻撃態勢に入る。それは一見自律思考のようにも見えるが、実際には擬似的なものでしかない。通常のAIは使用者が予め打ち込んだコード以上の行動は出来ない。その中で自由行動できるようには見えるが、自分で考えている訳ではない。


 では、自律思考とはなにか。


「――付いて来てごらん、この木偶の坊」


 彼(、と敢えて表現するが)の攻撃プログラムが起動し始める。それは視覚化され、アバターは拳銃のようなものを構えた。今度は威嚇の為のピンではない。こちらのデータに侵入し、内側から破壊するコードが完成している。AIが食らえばデータの藻屑となり、人間が食らえば――


排除(デリート)! 排除(デリート!) 排除(デリート!)


 彼は若干の誤作動を起こしている――想定にない状況(シチュエーション)――私――それに対応できず、ただ()()()に攻撃を仕掛けているだけ。そしてその攻撃もお粗末なもので、プログラムは1世代前の古臭いもの。もちろん私は簡単にプロテクトを展開し、それを弾く。そしてその中に反撃も仕込む。打刻(ピン)


「お生憎様。そんなもので私は誘惑できないわ。女を誘うならもっといい口説き文句を考えて来ることね」


 どうにも守矢の趣味なのか、私の思考――はともかくとして――言葉は――諧謔的に出来ているようだ。まあそれはいい。


 ポリスはデータ暴走を起こしている。無意味な攻撃を繰り返すだけで、プロテクトは完全に解除されている。そこに私が打刻した。


 (ルート)解析完了。攻撃移行開始。


 私は彼にちょっとしたウィルスを流し込む。それは彼の中で次第に増殖し始め、大きな(バグ)となり、彼の葉や根っこを食い散らかす。一切のデータを残さない。


排除(デリート)排除(デリート)排除(デリート)――……」


 しかし実際にデリートするのは私である。こいつをネットワークから痕跡をすべて消し去る。


「さようなら、あわれな操り人形」


 丸裸になったデータを私自身に取り込み、それをデリート。後には何も残らない。そしてさいごにやることはひとつ。ログを消去する。私がここにいた証拠も残らない。正体不明の盗賊が銀行を荒し――逃走中。私を捉えられないのなら、守矢には絶対に届かない。


「これが戦闘なのね」


 私は学び続ける――この世界を――その先にはなにが――?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ