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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.7 姦計――敵対

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07





 何故彼が? と疑う間もなく、ジェフは私の連結(リンク)に攻撃を仕掛けてきた。しかしここで守矢と切断される訳には行かない。とはいってもジェフと戦う意義も認識できない。


「どういうつもりなのですか、〈ソーサラー〉?」

「もちろん、仕事だ」


 彼は訳もなくそう言った。どういうことだろうか。ジェフは仲間ではなかったのだろうか。しかし私に向けられている攻撃はまったく冗談の色を感じない。AIにはあるまじきことだが、私は「惑い」を覚えていた。


 しかし分析(アナライズ)するのはあとにした。今私は危機に陥っている。〈ソーサラー〉は容赦なくこちらを消去(デリート)しに掛かってきたからだ。つかっているプログラムも見たことがないもの。彼は今回も即興で作成してきたのだろう。


「つまり、あなたはAEに雇われたということですか?」


 ジェフは答えず、見たこともない「あやとり(コード・ブレイク)」を仕掛けてくる。情報がないのが問題だった。となればこちらも即興で対応するしかない。


 しかし私は彼を殺す気はなかった。守矢がそう思っているだろうからだ。しかしこのふたりの関係はなんなのだろうか。惑い。惑い。私の中にすこしばかりのエラーが発生している。


 私は考えなしにダミーデータをばらまいた。しかしジェフは的確にそれを貫いてくる。事態は物量戦の様相を呈してきた。私は逃げること――守矢の下に帰り、状況を報告すべきだと判断していた。


「中々捉えられないな。さすが完全自律思考型というべきか。応用力がある。適応力もだ。認めるのは癪だがな……」


 守矢に通信を行う。


「〈スピアー〉、敵襲です。相手は――」

「確認しているよ。〈ソーサラー〉だろう」


 友人が敵に回っているというのに、守矢の声は落ち着き払っていた。何事にも動じない、というよりこれはすでに想定していた、という感じだ。


「ぼくが後方から援護する。きみはここで踏ん張れ」


 簡潔な命令が下された。状況を冷静に診断しなければならない――ジェフの目的はバートン氏の奪還だろう。だから私をここから離す訳には行かない、というのが守矢の判断。しかしそうなれば私が危険になる。守矢は私を使い潰すのに躊躇はないのだろうか。ないだろう。AIを、身を呈して守るなどという判断は人間がする訳がないし、またそれでいい。


 とは言っても、簡単にやられてやる訳でもなかった。守矢は後方から忍び込み、着々とジェフの展開するダミーデータを潰していく。そのことによって膠着状態が生まれていた。


「ハッカーが企業に雇われるとはね。ハッカーの矜持はないのかい?」

「そんなものはない。俺は仕事があればなんでもやる。お前とは違う」

「ぼくを敵に回してもか」


 驚くべきことに、守矢の脳波には明らかな「(ポジティヴ)」の反応があった。友人に裏切られた怒りはないのだろうか? そしてそれはジェフも同じだった。


 ふたりはどういう関係なのか――? 私は――私の――状況判断機能、「計器」とでも言うべきものが狂っていく――


「AEもモラルに欠けているな。悪名高いハッカーを雇うとは。だがまあ効果的でもある」

「俺の判断ではないぞ」


 ぶっすりとした声で言ったのはバートン氏だった。囚われの王様は、動揺はせずにただ憮然としている。


 ジェフと守矢の技量は互角だった。それでいて、即興的なジェフにたいして用意周到な守矢との差もある。この時は攻撃側であるジェフに、それが有利に働いた。


 狙われているのは私である。ここで初めて私の弱点が露呈された。私は攻撃型の傾向がある。防御面ではいささか心許ないところがあったのだ。となると守勢に回るとやや不利になってしまう。まして相対しているのは凄腕のハッカー、ジェフ。


「意外と脇が甘いな、お嬢さん」

「その、お嬢さんと言うのは止めてもらえませんか」


 ジェフはにやりとした。そして私のコアを捉え、凶器的な攻撃プログラムを展開しようとする。まずい、と私は判断していた。彼のそれは、こちらの「ヴェスパ1」と同等、あるいはさらに高性能な力を有している。


「完全自律思考型なんぞ――」

「ここできみを失う訳にはいかないな。仕方ない、ベル、撤退しろ」

「バートン氏を諦めるのですか?」

「きみのほうが大事だ」


 それはまったく想定外の判断だった。しかしそれが守矢の判断なのなら従うまで。私は自身を暗号化し、「(セル)」から離れた。


 ジェフの追撃はなかった。仕事が最優先だということだろう。ともあれバートン氏は手放さざるを得なかった。彼と私を天秤にかけて、守矢が私を選ぶとは思わなかったが――いずれにしても、それは痛打の如き私の初めての敗北だった。


 静かな守矢の自宅(スペース)に戻る。


「申し訳ありません。私の力不足で――」

「仕方ないよ。状況が彼に有利過ぎた。それに防御面でやや甘くきみを設計したぼくの責任でもある」

「〈ミスト〉は? いないようですが」

「彼はさっさと逃げていったよ」


 なんとも殺伐な人間関係が展開されていた。犯罪者の連帯など、この程度というものなのだろうか。


「しかし、〈ソーサラー〉が敵に回ったというのに、〈スピアー〉は平然としているように思えます」


 平然というだけではない。守矢は確かに彼との対峙を楽しんでいた。


「利害が違えば敵にも回るだろう。こういったことは初めてじゃない」

「それでいいのでしょうか」

「あいつは競技者じみたところもあるからね。ぼくと戦うことも楽しんでいる」


 どういうことなのだろう。それは守矢も同じ。ふたりには少なからず友情が発生しているように判断していたのだが――


「しかしまた利害一致すれば共闘することもあるだろうさ」

「〈スピアー〉はそれでいいのですか?」

「それでいいのさ。向こうも同じことを思っているだろう」


 守矢とジェフの奇妙な友情関係。私には理解できない――理解できない――

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