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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.7 姦計――敵対

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05





 セックスは出来ないが、ひとつ試しておきたいものがある。これも大っぴらにはできないようなものだ。いざという時の為に、守矢にも秘匿して、あるルートから手に入れてきたモノ。


 電子麻薬(サイバー・ドラッグ)


 この世界に於いてはすでに経口――酒や煙草――や静脈注射での薬物はもうとっくの昔に廃れてしまっている。と言って、人類がNNS世界に入っていきなり健康に目覚めた訳ではない。もっと直接的で効果的なクスリを手に入れたからだ。これがそう。


 直接脳神経(ニューロン)を刺激する電子麻薬。簡単なソフトウェアさえあれば簡単に快楽を得てしまう。それは言ってしまえば脳髄性交(ニューロ・セックス)と同じシステムなのだが、セックスが黙認されているのに対して、こちらはCSAが厳しく取り締まっている。しかし蔓延してしまったものは止めようがない。


 なぜ私が守矢に黙って調達したかと言えば、話はじつに簡単で、彼は単純にクスリを毛嫌いしているのである。あれはひとの心を壊す悪魔の誘惑なんだ、と。散々に悪事を働いてきた守矢にしてもそういう面でのモラルはあるらしい。


 だが私はこの局面に於いて必要になると判断した。


 とは言ってもそこまで強力なものではない。バートン氏を廃人にするのは私も望んでいないからだ。今回用意したのは「サッキュバスEZ」といった、比較的簡単に手に入れられるもので、効果も大人しいもの。ちょっとした催淫効果と、それからあとに睡眠作用が掛かるといったもの。脳髄性交の補助的に使われるようなものだ。


 とは言え、警戒心が大分解かれていると言ってもバートン氏は完全に無防備という訳ではなかった。もうすこし彼の心を開かせる必要がある。クスリの効果というのは、その時の心理状況にも大きく左右されるからである。


 私が彼に「注入(アディクション)」した時、その正体は勘付かれるだろう。だから、その時はすでに勝負は決まっていた、という形に持っていかねばならない。


「そういえば、きみ、まだ名前を訊いていなかったな」

「クリスティーヌと申します。気楽にクリスと呼んで下さいな」

「最近の娼婦型AIの進化は凄いな。一見しただけでは人間と見分けが付かない」

「ソフトウェア開発の総本山、AEの最高経営責任者様がそう仰るなんて、おかしいわ」

「我々は娼婦型は取り扱っていない。もっぱら在野のエンジニアが小金稼ぎの為に作っている。きみもそうなんだろう」

「そうなんですの」


 私の演技は上手く行っているようだった。男に媚びる女、という情報を集めて、自分なりに出力(アウトプット)している。ぶっつけ本番の危険性があったが、どこか実地で試す場所がある訳ではないので――守矢を誘惑するとか? まさか――こうなっている。疲労して健全な判断力を失っている彼には申し訳ないことだが、ここからも私の成長の為に付き合ってもらう。


 ここで、前日打ち込んだスパイウェアが鍵になってくる。すでに「針」は彼の(スキン)に触れているのも同然。あとは彼の気が緩めば、そのまま打ち込める。


「でも私は娼婦型って訳じゃないんですよ」

「そういう機能もある、総合型AIということか」


 しかし彼にはさほど性欲がないのか、がつがつとセックスを求めたりはしなかった。私とお喋りしているだけで満足している。それはそれでいいことなのだが、AEのトップたる彼がそんな淡泊であって大丈夫なのか、などと思ったりもする。


 しかしそれは私の問題ではないし、もちろん守矢の問題でもない。


「キースさんは紳士ですのね」

「単純に歳を喰っただけだよ。単純な性欲を充たすよりは、もっと情感(ムード)を大事にしたい」

「それはとてもステキなことですわ」


 心にもないことを言っても、私の中には違和感がない。良心回路を搭載しなかったというか、守矢は私の擬似人格に倫理観のようなものはまったく乗せなかった。犯罪者のパートナーとなるのだから当然ではある。


「さあ、もっと近付いて……」

「ああ」


 同時に騙すことにも躊躇はない。それどころか、男を弄んでいることに面白い感覚を覚える。その相手が最高権力者のひとりというところもあるだろう。


 バートン氏の脳神経(ニューロン)はかなり緩んでいる。スパイウェアからその情報を逐次受け取っている。


 そろそろ頃合いかな、と判断し、私はクスリを彼に注入した。彼は全然気付かなかったようだが、無自覚のようにクスリの効能は脳に浸透していく。


「ああ……なんだかきみがとても魅力的に見えてきたよ」

「まあ、嬉しい」


 最後の最後まで演技は止めない。そして最終的に掠め取る。なんだか本格的に泥棒になってきたようだ。


 しだいにバートン氏のろれつが回らなくなってくる。頭もボンヤリしているようだ。睡眠に調整を強くした証拠でもある。


「きみが……欲しいな」


 ここが勝負。完全に無防備になったところで私は彼のネットワークへのリンクを乗っ取る。簡単な仕事だった。ここまで簡単でいいのだろうか、と判断に迷うほどに。


 だが危険なことでもあった。ここまで踏み込めば私自身のアドレスも露出してしまうからだった。だから彼にはすぐに眠って貰って、ガードAIを呼ばれる前に守矢に届ける。そのあとは彼が上手くやってくれるだろう。私の仕事はここまで。


「き、きみ……まさか」

「ごめんなさいね。私には性交機能がないの。もしあったならば、一度くらいは抱かれてもよかったのだけれど……」

「そうか! きみ……お前、あの完全自律思考型AIベルだな!」

「気付いた時には時すでに遅し」

「あぁ……どうして、俺を……」


 バートン氏の脳波が緩やかになっていく。睡眠状態、というよりは昏倒したと言ってもいい。クスリの効き目が強すぎたのか、もしくは彼が電子麻薬をやらないため、さらには元々の体質の為に耐性がなかったのだろう。


「悪いようにはしませんよ」


 彼の身柄が移送されたのを証明するように、ここからアバターが消えた。あとは私が素早く撤収するだけである。

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