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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.7 姦計――敵対

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03





 守矢は得意気で、アスムッセン氏は当惑していて、そして私は無反応だった。


「本気で言っているのか?」

「なに。AIに作戦立案させるなんてさしておかしいことでもないだろう」

「しかし、守矢。お前が」


 守矢はどこか天邪鬼なところがある。この時も、幾らかは突拍子もないことを言ってアスムッセン氏を困らせたいという意図があったに違いない。だがいっぽうでは冗談は言っても嘘は吐かない男でもある。


 つまり、守矢は本気で私に作戦立案させようとしている。


「前々から考えていたことでもあったんだ。ベルを作った時から、ずっとね――」

「そうなのでしょうか」

「そうなのですよ」


 守矢はどんどん面白がっていく。私の口調を真似すらする。


「そんなことだから、ジェフに『楽をする気か』と言われるんだ」

「それはごもっとも。しかし人間が道具(ソフトウェア)を作るのは、出来るだけ楽をしたいからだろう?」

「しかし、自律思考型AIに、それを考えさせるというのは、人間の思考放棄ではないか」

「それは今回、ベルがはっきりさせるだろう」


 私を差し置いて話は進む。私はAIだから作成者、つまり守矢の方針に反対しない。そうしろと言えばそうする。問題は私が彼を満足させるだけの作戦を立てられるかだった。私にそこまでの能力があるだろうか? 彼は私の演算能力が向上していると言っていたが……


「私が〈スピア―〉を満足させるだけの芸術性を発揮できるとは思いませんが」

「別にそれでもいい」

「失敗しても?」

「その時はその時だ。とにかく、ぼくはきみがどういった答えを見せるのかが知りたい」


 つまり、彼は私を試しているということだった。検査(ベンチマーク)と言ってもいい。


「それとも、なにか。きみ自身にもなにか思うところがあるのかい?」

「思うところなど、AIの私には……」

「そう言うのなら、きみの仕事を果たしなさい」


 守矢がそう言うのなら、私としては務めを果たすのみ。そしてその為の自律思考でもある。その上で「感じる」のは――私はそれを面白いと「思って」いる。


「――AEは攻撃型(アサルト)AIは多く保有していて、またそれは高性能です。しかしいっぽうで防御面では危ういところがあります」


 それが私の蓄積してきた情報だった。


 AEはその成り立ちゆえに自由な社風がある。ともすればCSA、そのCEO、エイドリアン・ジョンソン=リー氏が完全管理社会を実現しようとしているのを阻止しているのが彼、キース・バートンだと言ってもいい。しかしそういった政治状況はこの際問題ではない。


 バートン氏の脇が甘い。今重要なのはその一点である。


「とは言っても完全に無防備という訳ではありません。CSAと言えども、内情はともかく表面的には彼を守らなければならないので、防衛AIも委託されて配置しています」

「それが甘くなる時点(ポイント)が、〈ミスト〉の持ってきた情報(ネタ)という訳だ。で、どうするね」


 私には色んな提案(プラン)があった。直接的なものはあまり承認できない、という判断が為されたのは、きっとそれも守矢の影響である。


 私は何故か、その時花街で会ったあの娼婦(セックス・ワーカー)AI、アマンダのことを思い出していた。何故か、というのは論理的思考にそぐわない。その理由は明白。私がこの時出した計画案にまつろうものだったからである。


「それは……確かに芸術的ではないね」


 守矢はきっと気に入らないだろうと分かった上で、私はその作戦を話した。実際、彼はややつまらなそうな顔をした。しかし否定をする気もなかったようだ。なにしろ、私に作戦を立案しろと命令したのは他ならぬ彼なのだから。


「まあいいだろう。ここではきみが主役を張ればいい」


 ともあれ、そのようにしてキース・バートン氏拉致計画は進んでいった。



      ◇



「サラスヴァティ4」リリース発表会当日。NNS世界全体に発信されるその会場の中に私と守矢はいた。


「今回は前作『サラスヴァティ3』より、さらに卓越したエンジンを備え、しかもより明快なプログラミング補助(サポート)機能を強化し、ユーザーのみならずデベロッパー各社にもより満足頂けるプラットフォームに……」


 守矢は退屈そうにバートン氏の演説を聞いていた。私はこの先の作戦について思考中枢を動かしている。


 冷たい私たちとは対照的に、会場は大層盛り上がっていた。それでいい。それでこそこちらの作戦成功率が上がる。バートン氏が得意になればなるほど、隙は生まれるというもの。


「しかしビッグ・トラストの最高経営責任者というのはどいつも精力的だね。衰え知らずというか。バートン氏も、竹芝亮氏も、エイドリアンも――」


 ここで私は、守矢がジョンソン=リー氏をファーストネームで読んだことに気が付いた。守矢はその内実を隠す気もないようだった。


「いや、彼はぼくがCSAにいた時の直属の上司だったのさ。それから考えれば大した出世、スピード出世だ。それだけの出来物だったのは認めるけれどね」


 私はその情報を、自分のライブラリに追加するだけで満足し、それ以上は追求しなかった。


「それより今は彼だ。今彼は無防備な状態にある。分かっているね――いや、きみが考えた作戦なのだから、きみ主導でこなしてもらわなきゃ困る」

「もちろんです、〈スピアー〉


 そして私は、壇上に立つ――という視覚情報を全世界に送っている――バートン氏に向けて。決して視えず、そして防衛AIの目をかいくぐるほどの繊細なスパイウェアを送り込んだのだった。

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