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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.6 余暇――剃刀

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07





 今は冷却(クールダウン)することが求められた。〈レザー・エッジ〉との邂逅からしばらく、一時的に上げただけの筈の演算速度が通常時に戻ってくれない。まだ警戒しているような感覚がある。敵に対して敏感になっている。


「こんなのじゃあ、いけないわ」


 私は常に適切な反応をし、適切な能力配分をすべきだった。戦闘領域から離れた今、過剰な演算能力は必要ない。にもかかわらず――


 最善手としては、すぐにでも守矢のところに戻る。そして彼の調整(メンテナンス)を受ける。これが私に起こっているエラーなのなら。しかし私はその最善手を選択しなかった。戻るべきではない――という推論も同時に存在していた。


「揺らぎ」、が、未だに残っている。戦闘を行った後はいつもそうだった。特に人間と相対した時はそうだった。かれらの「言葉(スクリプト)」が、殊の外私を揺らがせる。なにかそこに重大な意味があるように思考するのだが、その正体が未だにつかめない。


 もうすこし世界を見て回ろうと思考した。もうすこし冷却してから、守矢の下に戻ろう。しかし何故そう判断したのか――


 自律思考とはなにか?


 そんなことばかり考えていた。認めざるを得ないのは、私にすくなからず変容が起こっていることだった。それが通常の、既存のAIにはあり得ない反応なのは、確かなのだろう。しかしそれがどういう意味を持つのか、私には理解できない。私自身が理解していないのだから、ほかの者にはもっとだろう。造物主たる守矢ですらも。いや、彼は「分かって」いるのだろうか――?


 そこに答えを出すべきではない。そう警告している。しかし同時に、私はその先、危険なその先を理解したくて――いや。


 この広大な世界。人間が作り出した閉じた内的宇宙に於いて私はひどく矮小な存在。ニュースを騒がせているとはいっても一般に広く認知されている訳ではないし(そしてそうあるべき)、一個のAIにどれほどの意味があるとも判断されない。


 私はいつの間にかネオ・ロンドンに戻っていた。その電脳世界に再現された都市の中で人間達は語らい、歌い、食べ、飲む――そう、彼らは電脳世界に移住してすら、食欲を手放さなかった。


 彼らがNNS世界に移住――あるいは逃避――した大きな要因はそこにある。本能にまつろうことですら、かれらはコンピュータから脳神経(ニューロン)に刺激を受けることで充足する技術を手に入れた。おいしい食べ物も、そこで得られる。性欲に関してはさっき見た通り。唯一睡眠欲だけが肉体世界に残っている。しかし人間達は、夢の中ですら電脳世界に接続(ジャック・イン)するような技術を開発しようとしている。


 NNSこそが人間の新たなるフロンティア、エデンなのだろうか?


 ではそこで人間に使役されるAIは?


 完全自律思考型AIたる、私は――?


「……危険な所に向かっているわ、ベル」


 私はそんなことを独り言ちていた。誰にも聴こえない、独り言はデータの海に儚く消えていく。AIの実存について思考したところで特に意味は無い。


 この時私は通信を開放状態(オープン)にしていた。閉じているとあまりよくないと思われたためだ。しかし私に通信する者など限られている。


 ところがそれはあったのだった――しかも守矢ではなく。


 届いたのはひとつのショート・メッセージ。相手は〈ミスト〉――あの情報屋、ラルフ・アスムッセン氏だった。


『今から会えませんか?』


 彼が私になんの用事があるかどうか分からなかったが、とくに拒絶(ブロック)する意味も感じられなかったので、私は彼に会うことにした。


 会見場所は特に秘匿されたスペースだった。場末のバーのような所。カウンターではマスターみたいな男がグラスを磨いているが、それはAIのアバターですらなく、只の映像演出だった。


「こんにちは、〈ミスト〉」

「こんにちは」


 落ち着いた雰囲気は前に会った時とあまり変わらない。私がAIであることもあまり気にしていないようだった。しかし人間と同列のように扱われるのは、むしろ不自然な感覚がある。


「〈レザー・エッジ〉との戦闘ログを見せて貰ったよ」

「ああ。あなたは情報屋ですものね。私を追っていた訳ですか」

「まあ、そういうことになる」


 アスムッセン氏は悪びれもせずそう言った。情報収集の業を誇っているようですらあった。


「しかし惜しいことをした。きみに逡巡がなければ、彼を仕留めることは出来た筈だ」

「私に、逡巡?」

「ああ、私にはそう見えた」

「それは――私はぎりぎりのところで戦闘していました。岡目八目というものではないのですか」

「オカメハチモク? 古風な言葉を使うんだね。どういう意味――ああ、そういうことか」


 アスムッセン氏は言葉を検索し、得心したようだった。


「客観的な戦闘分析、と言って欲しいね。きみは――」

「自己保存プログラムが作動しただけです。確かに――私が仕留められる危険をそこで踏み込めば、〈レザー・エッジ〉は殺せた。しかしそれは紙一重のところです」


 私は私で冷静な戦闘分析を行っているつもりだった。アスムッセン氏はそれには答えず、別のことを言った。


「前に比べて饒舌になったね」

「そうでしょうか。私は演算したことを出力(アウトプット)しているだけですが」

「そうだろうか」


 あなたは私に何を求めているのか――と訊くと、彼は冷静に言った。


「私の仕事は、そういうものだ。私はマネーのために、ありとあらゆることを知っておかねばならない。そして完全自律思考型AIベル。今のきみはひときわ重要な情報だ。だがまあ、私は必要な者に必要な情報を売るだけだ。特に警戒はして欲しくないな」

「ということは、今から売る情報があるという意味ですか? 〈スピアー〉に……」

「やや危険なものだったからね。だからまずは彼の相棒であるきみを試させてもらった。これなら大丈夫だろう」


 そして彼が持ち込んできた仕事(ヤマ)というのは――

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