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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.6 余暇――剃刀

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03





 神経信号的な快感を得る為だけなら、視覚情報は必要ではない――ということはない。人間は信号的刺激とともに、雰囲気(ムード)というものも重要視する。そういう訳で、私はその娼妓(セックス・ワーカー)と会う前に好きな部屋を選ぶことが出来た。


 そこには様々な趣向、趣味に合わせた部屋(ルーム)が存在している。技術があればルームなど幾らでも作れるし、技術がなくても自由に買える。そこに娼婦を連れ込んでも特に問題はない(ちゃんとAIを返せば、だが)。そもそも娼妓AIそれ自体個人で購入できるもでもあるし、それなりに高価ではあるがよほどの貧民でもなければ購入するハードルはさほど高くない。


 しかしここでは非日常感が強調されているように推論される。女(あるいは男)を買うこと、家ではない場所でセックスをすることに意義を見出しているのではないか。


 私は特にそういった性癖……とやらは存在しないので、とくに迷いもなくぞんざいに部屋を選んだ。ひとつくらいは思考して結論したところもある――部屋の値段だ。こんなところで無駄なマネーを使う必要もないので、一番安いルームを指定した。


 そしてその選択ボタンを押すと、赤いカーペットを敷いたロビーに移動し、その先には比較的小さな両開きのドアがあった。最初私はそこをルームの扉だと思ったのだが、どうもそうではなかったようだ。


 そして、私に選ばれた女性型AIが現れた。やや大人びた、ブルネットの髪を長く伸ばした、スレンダーな体型をした容姿(アバター)をしている。そういう趣味だと判断されたのだろうか。


「この度はお選び下さりありがとうございます! 私が今夜お相手をさせて頂く、アマンダでございます!」


 快活な反応をする擬似人格を与えられているらしい。大人びた雰囲気とはあっていないように見えたが、そういった女が好きな者もいるのかもしれない。


「こんばんは」


 私は至って簡素に答えた。興奮している様に見せた方がよかったのかもしれないが、複雑な思考はここでは必要ないと判断したのである。


「かわいい女の子ね」

「私の本当の中身がどうかだなんて分かったものじゃないでしょう?」

「あら、私にはよく分かるわ」


 こういった(つまり私のことだが)女の相手もすることがあるのだろう。そして彼女たちはサービスを提供するAI娼婦として客をもてなす。


 すこし理解できないところがある――人間は人間相手ではなくても興奮するものなのだろうか。相手がAIだと分かっていてもいいのだろうか。脳髄性交(ニューロ・セックス)だからそこは重要ではないのか?


「あなた、女を買うのは初めて?」

「まあ」

「うふっ、初々しくてかわいいわ。お姉さんがちゃあんと可愛がってあげるからね」


 それは別に必要ないのだが――とは言わなかった。彼女はそう言う風に出来ていて。それを否定する意味はどこにもないからだ。


「あなたの名前を教えてくれるかしら」


 そうして名前が彼女に入力されるのだろう。こういった場所では、個人情報は秘匿すべきだし、また向こうもあえて探ることはない。基本的には。一期一会の刹那的逢瀬。その中で本当の名前――通常使うハンドル・ネームですら――教える必要はない。


 しかしどういった名前を名乗ろうか――しばし思考して――


「私は〈メロディ〉です」

「うふふ、かわいらしいお名前」


 それから私たちはルームに向かった。その時、目の前にある扉の意味が分かった。それはエレベーターだったのだ。そしてその空間は非常に狭い。つまり性交前から密着するための演出。


「きょうは沢山楽しみましょうね」


 私はここで少々踏み込んでみた。


「そういうあなたは、楽しんでいるの?」


 彼女――アマンダとか――、というよりは製作者の想定外の質問だったのか、彼女はその時スタックしたように反応を停めた。それから再演算が行われたみたいに、再び微笑を浮かべた。


「お客様の楽しみが、私の楽しみよ」


 彼女の性能は高いらしい。そのほうが私の目的にも合致しているので問題はない。


 それから部屋に入った。丸型のベッドがあるだけの簡単な部屋だった。選ぶ時にはもっと煌びやかなものもあったのだが、私には必要のないものだった。


「さあ、こっちに座って――」


 彼女はオフショルダーワンピースの胸元を開けて挑発してくる。人間はこういったことで性的反応を示すのだろうか。しかし私にはなんの効果もない。


「意外と冷静なのね。落ち着いているわ」


 会話のバリエーションもかなり多く入力(インプット)されているらしい。臨機応変な反応が出来る。だがそれは――自律思考ではないのだ。


 彼女と私を分けるものはなんなのだろうか?


 今日はそれを探りに来たのである。


 しかし、私がそういった反応をするのも、AI的ではないような状況。それは明らかな変化だった。私に、私自身が想定していないような変容が起こっている。それはなんなのか? 正体不明であり、ネットワークを検索(サーチ)しても有効な答えは出ない。


 世界に類例のない、私のような存在が――しかし、それは守矢には想定内のことなのだろうか。分からない。

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