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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.6 余暇――剃刀

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01





 かなり大きな仕事(ビズ)をしたものだから、しばらくは守矢も休むつもりだったようだ。しかしそうなると私のやることがなくなる。


「暇かい? ベル」


 別に彼が私を気遣っているとは思えない。実際そうではないだろう。むしろからかうような感じを受ける。それで私自身がどう認識していたかというと――特に認識する様な所は無い。守矢が休むのなら、私も当然睡眠(スリープ)状態にすると思っていたからだ。でもそうではなかった。


「ベル。ぼくはしばらく休んでいるから、しっかりと遊んでおいで」


「しっかり」と「遊んで」というのが中々に彼の意図を示している。私の行動はすべて学習になることを、彼は知っていた。というより彼が私をそう設計したのだが。


「きみの得た情報はぼくの糧になる」

「〈スピアー〉は私を馬車馬のように使うつもりなのですね」

「あんまり人聞きの良くない言葉を使うなよ――まあ、そういった学習は、ぼく自身からしているのだろうからどうとも言えないが」


 ともあれ、彼は私をもっともっと成長させるつもりだった。世界を知るようにしようとしていた。それは私の回路に仕込まれた望みでもあった。


 しかしそれを「遊び」と呼んでもいいのだろうか?


 ともあれ、私は一時守矢の軛から離れ、またNNSの海に飛び込むことになった。しかしなにを学べばいいのか――


 私はなんとなく、ネオ・トリノに向かった。そこにはNNSせかい最大の図書館(ライブラリ)が存在するからだった。もちろん、ここに直接来なくてもネットワーク上で自由に閲覧できる。しかし私が危惧したのは守矢のサーバから接続(アクセス)すると居場所特定されないかということだった。慎重すぎかもしれないが、それが最善だと判断している。


 ここにはあらゆる古典が収められている。今では場末でひっそりと発表された同人誌まで収集している。紙書籍は過去となったが、ここに直接アクセスすれば紙書籍を読んでいるような感覚を与えられる。


 私はすこし目立ち過ぎたので、別の容姿(アバター)を使っている。20代女性のような黒髪の女。図書館に会う容姿はどれかと思考し、判断したものである。


 守矢は小説のような物語はあまり読まない性質らしく、その情報(インフォメーション)はあまり私の中にはない。だが、奇妙なことだが、そういった守矢に作られた筈の私は貪欲にフィクションを得ようとしていた。何でも学習すべし、という設計がそうしているのかもしれない。


 高度に進化したAIが、造物主たる人間を支配、あるいは殺戮するという創作もたくさん読んだ――SFとしてはよく使われるモチーフではある。しかしそれをAIの私が読むというのは――どういう意味が――


 もちろん、フィクションだけではなく色々な書籍に触れた。私はAIだからそれは純粋にデータとして吸収される。しかし私が本を読むのを守矢は了承しているのだろうか――?


 私は成長を実感して、それから色々な「都市」を回った。それはまだ人間の活動領域が肉体世界(フィジカル)主体であった頃の残滓である。彼らはいまだそれを忘れられず――しかし電脳世界(サイバー)の利便性、恩恵には逆らえなかった。


 AIには関係のない話である。


 最終的に、私はネオ・バビロンに着いた。古代都市を再現したというその街はNNSにあって一層奇妙な雰囲気を湛えている。それはアーカム・エンターテインメントが作った街である。娯楽ということなのだろうか? なんにせよ、今はこの世界でも主要な観光地のひとつとして成立している。


 私はその群衆の中に溶ける。人間たちはこの爛れた黄金時代を謳歌しているように思える。そんな中で犯罪行為に手を染め、反逆を試みる守矢の所業は――どれほどの意味があるのだろうか、と考えてしまう。私自身はハックや戦闘を楽しんでいる。しかし。


 ニュースでは私の話題が定期的にされている。完全自律思考型AIはかつてない存在として注目を集めているようだ。


『――自律思考型AIは企業でも研究されているものです。しかし個人がそれを出し抜いて作成したというのは――』


『――ビッグ・トラストは自律思考型に可能性を見出しつつも、その危険性にも考えているのです。〈スピアー〉が卓越した技術を持っているのは確かだとしても、最終的に彼女が作られたのは、モラルの欠如を懸念します――』


『――完全自律思考型AIベルはもっと研究される存在と考えます。ネットワーク犯罪に使われているのは残念ですが、それゆえにこそ将来の人類の為に――』


 アナリストたちはもっともらしい、しかし無責任な言説を繰り広げている。あまりよい兆候ではない、と私の安全システムは判断している。しかし言論までを敵にすることはできない。かれらが実質的なビッグ・トラストのスポークスマンだったとしても。


 そして私は報道だけではなく、市井の人にも注目を集めていることを知った。犯罪に手も染めない、善良な一般市民でさえも私を話題にしているのを何度も耳にした。そのほとんどは興味本位のものだったが、中にはこんなことを言っている者もいた――


「いつか人間がAIに取って代わられる日がくるのかねぇ」


 それは陳腐なテーマだったが、陳腐であるがゆえに無視の出来ない意見だった。


 私はそれを聞いて、どう感じたのか――どういう訳か、それは論理化できなかった。

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