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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.5 対人――傭兵

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07





 ノイズが漂っているような気がする――


 私が気にしていたのは、〈マーセナリー〉が私に追跡用スパイウェアを仕込んでいないかということだった。しかし自身を走査(スキャン)してもそれは見つからなかったので、私はそのまま守矢のサーバに戻った。


 しかしその時守矢は睡眠(スリープ)状態だった。竹芝亮との会見は見ていただろうが、その後は休んでいたらしい。〈マーセナリー〉との戦闘データは彼にとっても貴重なものになるであろうが、それを自身で拾おうとは思わなかったらしい。まぁ、安全をなによりも優先する彼らしい態度ではある。


 私は暗号(パスワード)を打ち込んで、それから鍵を掛ける。視覚化されたサーバ内は雑多な印象を受ける。荒らされた書庫、といった感じ。情報は理路整然として保存しているはずの守矢にしては、やや意外な自画像である。


 私は守矢を起こすかどうか迷った。論理的に判断するならば起こすべきである。しかしながら――私には――彼を安全にしておくべきだという思考も存在する。彼自身がオンラインになるまで待つのも、起こすのも大して変わりはしない。


 しかし私の造物主(マスター)は、私の判断の上を行く。簡単に言えば、私の入室を察知してすぐにオンラインに復帰する機能を拵えていたのだった。彼はすぐにスリープ状態から復帰した。どうやら本当に寝ていた訳ではないようである。


「仮眠していたんだよ」


 しれっと彼は言った。


「おはようございます、〈スピアー〉」

「……それは皮肉かい? そんな生成プログラムは乗せていないつもりだったんだがな」

「失礼ながら、私の擬似人格には〈スピアー〉の性格が作成途上で影響されているように推測されます」

「生みの親、という訳か」


 守矢はすっきりした思考を保っていた。その上で諧謔風の台詞はすぐに出てくる。


「しかし、ぼくが想定していたよりすこし時間は遅かったようだね。途中で追っ手に捉えれられたのかい?」

「不本意ながら。しかし〈マーセナリー〉との戦闘データは持ち帰りました。のちほど精査をお願いします」

「ああ、あの女か。しつこいんだよなあ。あいつ。今回はTRIAに雇われていたのか」


 くつくつと笑う守矢の声が聴こえる。ここでは彼は無防備である。あからさまにそれを支援すように、彼はアバターの衣装に縞々のパジャマとナイトキャップまで被るという(イメージ)を見せている。


「しかしそうなると、ぼく自身が出なかったのは正しかった――〈ソーサラー〉の意見が賢かったということになるね」

「300万WEBドルは持ち帰りました」

「いいね。慎ましく生きようと思えば一生を賄える金だ」


 それ以上のマネーを彼は保有している筈だったが、それには触れなかった。


「しかし、〈マーセナリー〉、〈マーセナリー〉か。彼女の愛はいささか重いものがあるね。それを背負わせたのは済まなく思っているよ、ベル」

「〈スピアー〉は、〈マーセナリー〉が女性だと断定するのですか」

「あのねちっこさは女にしか出せない」

「恐れながら進言します。それはいささか性差別主義ではないかと」

「完全平等主義者がなんと言おうが、男と女には差があるし、相容れないところはあるものさ。NNSの世界においてもね」


 では男でも女でもない私は――という問いが生成され、私はそれを危険分子として消去(デリート)した。


「……どうもこの戦闘でバグが多数生成されたようです。〈スピアー〉、調整(メンテナンス)をお願いします」

「いいでしょう、お嬢様。丁重に御扱いしますよ。しかし――それは、本当にバグと切り捨てていいものなのかい」

「質問の意味が分かりません〈スピアー〉。私は自己保存プログラムに則ってそう言っています」

「この『バグ』がこれ以上増えれば、きみは壊れる。そう判断しているのか」

「それは推論できません、しかし……」


 あの時生まれた「揺らぎ」がまだ私の中に残っている。もしかしたらずっと消えないのかもしれない。この感覚をどう表現すればいいのか私は検索(サーチ)――そう、検索――した。


 一番適切だと思ったのは。


「……『違和感』があるのです」


 守矢は快も不快もなく、ただ深く「ふぅむ」と頷くだけだった。彼の感情が読みづらいのは前にも述べたが、この時はいっそう読みづらかった。無気味にすら思えた。だが、その無気味さは――私への投影ではないのか――?


「それは健康的なことなのかもしれないね。自分で自分を気遣えるソフトは素晴らしい。こちらの仕事の手間が省けるからね」

「しかし、私の除去(クリンナップ)機能では取り除けないものがあるのも確かです。私は〈スピアー〉の為に常に最高の性能(パフォーマンス)を保つ必要があります。その為には――」


 人間にしか触われない領域がある。今私はそれを検知した。その検知を守矢は気付いていなかった。本来ならば意識するまでもない、ソフトウェアを管理するならば当然のことだからだ。しかしこの、私、完全自律思考型AIの私が自認すると、そこにはどういう意味が――


「そうだね。ぼくのために一杯仕事してきてくれたからね。たっぷり労わってあげよう」


 デジタルで管理されている情報(データ)は簡単に整理される。生成も、除去も。しかし、その――データ――私自身にも言える――データは、本当に除去されたら完全に

この宇宙から消え去り、無になるものなのか――?

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