表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.5 対人――傭兵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/78

06





 なにか行動を起こすときには、必ず代替計画(セカンドプラン)を用意しておかねばならない。その戦略策定における基本的姿勢は私にもプログラムされている。


 では今回におけるセカンドプランとはどういうものか。


 私は基本的には逃走するように思考していた。だがそれが叶わない時、どうすればいいのか推論していたのだ。そしてその結果、〈マーセナリー〉を殺すことを厭わない、と判断したのである。可能かどうかは――まだ演算結果が出ていない。


 そう意識して、私はプログラムを用意する。対人攻撃用プログラム――と言えば穏当かもしれないが、要するに脳神経(ニューロン)に強負荷を与えてそのまま焼き切り、脳死させるための危険極まりない、言うなれば「凶器」である。


 その名前は「エレクトロキューション3」という。電気刑、とは守矢らしくもない直截的過ぎるネーミングだが、それはいいだろう(長いので以下「Ec3」と呼称する)。


 無論だが、〈マーセナリー〉もそう簡単にプログラムを打ち込む隙は与えてくれない。こちらがダミーデータを展開しているのと同様、むこうもデコイはふんだんに使っている。頻繁に打刻(ピン)しているが、中々本体をつかませてくれない。その隙があるとすれば向こうの打刻の時なのだが、そうしても中々つかめない。


「簡単には見せてくれないわね」

「そうでしょう。女は肌を中々晒さないものよ」


 まったく、魅力的じゃないか――と守矢なら言っただろう。彼の思考を模倣(エミュレート)するとそんな答えが出て来た。正確性は92.643%と出ている。多分間違いないだろうが、守矢のような男はその残り7%の隙間を平然と抜けてくるような気もする。


 私自身は魅力的とは判断しなかった。敵は敵。それ以上の存在ではない。


 なんにしても、本体を取る前にまず馬から射る必要がある。彼女が使っているメインAIを破壊する。私は常にその隙を探っていた。「ヴェスパ1」の起動はいつでもできるようにしてある。しかしこちらと同等の攻撃プログラムを用意していると推測して戦闘しなければならない。


 実体のないデータ対データの戦闘である――だが視覚的にイメージ出来るように、そこには視覚情報(イメージ)が展開されている。状況を演算して見せているだけの、(フォルス)の視覚なのであり、そしてAIである私には必ずしもいるものではないのだが、分かり易くはある。


 そこでは、〈マーセナリー〉は長身スレンダー女性の形をしている。守矢が幾らかの接敵(エンゲージメント)から作り出したものだろう。幻影でもある。〈マーセナリー〉の中身は人種も分からない。自動翻訳される前の言語は日本語を使っているようだが、それだけでは判断できない。女かどうかですらも、本当は100%の保証はされていない。


 犯罪者が個人情報を秘匿するのと同様に、賞金稼ぎもそうしている。怨みを買いやすい生業という点で、この両者はあまり変わらない。


 そしてダミーデータが白黒のモザイクのように展開され、彼女は巧みに正体を隠している。私は打刻(ピン)を高速自動化させる。少々危険だったが、そろそろ決着をつけたいと思っていた。メインAIの索敵を最優先している。


「中々速い、そして精確!」


〈マーセナリー〉の声はどこか楽しげであった。彼女は戦闘を楽しんでいるのだろうか。まあ、嫌々やるような人間ならそもそも賞金稼ぎにはなっていないだろうが。


 押しているのは私のほうだった――すくなくとも向こうは積極的な攻撃に出られていない。このままデータを送り続け、潰すのも悪くはない。DDoS攻撃でも悪くはないのかもしれない。そうすれば逃げる隙も見つけられるかもしれない――


「だがまだ慣れてはいないわ。素直すぎる」


 だがその時、〈マーセナリー〉の穏やかだが冷たい声が、私の背後に響いた。


「クレム!」


 私は急いで彼女を起動させた。後ろを守る為だ。クレムはすぐさまチャフを展開する。だがどうやって私の隙を突いたのか分からない。ともかく状況はそのようなもの。


 私は後れを取った。電脳戦では一瞬の隙が命取りになることを私はここで学習することになる〈マーセナリー〉はそのまま鋭利なプログラムを起動させ、クレムの中枢にヒットさせた。彼女は喪失した。


 しかし時間は取れた。私も私で、相手のAIを捉えている。「ヴェスパ1」発動。それはダミーデータを潜り抜け、そのまま命中する。これでお互いに主要な僕を失ったことになる。


 今なら捉えられる――攻撃態勢に移った〈マーセナリー〉は防御態勢を解いている。今なら――「Ec3」を打ち込むことができるのではないか?


 だが、どういう訳か、AIにはあるまじき恥ずべきことだが、私は即断ができなかった。そうしている内に〈マーセナリー〉は自身を暗号化し、こちらの「手」が届かない場所にまで遠ざかってしまう。


「逃げるの?」

「AIと違って人間は命が惜しいのよ」


 AIにも自己保存プログラムはある――と言おうとして、止めた。そんなことは言われなくても彼女は知っているだろうし、つまりこれはそういう話ではないのだ。


 となればこちらも暗号化するしかない。そうすると戦闘は終了する。どうやら彼女は私を仕留めるのを諦めたみたいだ。こちらもだ。痛み分けといったところ――しかし〈マーセナリー〉はまだ本気を出していなかったようにも推測できる。


「今日は諦めてあげる。でもお前を――お前達を追うのを止めた訳ではない。今度は〈スピアー〉も連れてきなさい。その時、その場所がお前達の墓場になるのよ」

「そうはならないわ」


 それだけ言って、〈マーセナリー〉はいなくなった。TRIAに雇われているのだからもっとしつこくてもよかった筈なのだが、彼女は自分の命を優先した。私が彼女の殺害までを視野に入れていた、そのことに気付いていた。


 私はすべてが終わって――自分が緊張していたことに気付いた。


 緊張?


 そのようなものは、AIには無縁――守矢もそういっていた――しかし、この感覚は。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ