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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.5 対人――傭兵

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04





 律儀にも、と言うべきなのか、ちゃんと動力キーの権限を委譲、というか元ある場所に戻すとTRIAは私が守矢に一時保有を許されていた信用情報(クレジット)に入金があった。即時入金である。しかしこれで終わらせないつもりなのもかれらだ。


 これから簡単に帰還できるとは思えない――というよりは、簡単に帰還してはいけない。敵がこちらを追跡するつもりなら、私が気付いていなかったらそのまま守矢の住処(アドレス)は特定されていただろう。


 だから私は守矢とは通信しなかった。追跡されていることすらも伝えない。


 それはどういう意味か? つまりここで私は追っ手と対峙しなければならない。守矢の支援(バックアップ)なしにである。


 そして――竹芝亮は「保安官(シェリフ)」と言っていたか――今回の相手はAIではない。人間だ。人間相手はこれが初めてになる。


 と、判断できたのには理由がある――個人で犯罪者を追っている「賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)」はそれこそ犯罪者がいる分、同数と言っていいほどに存在する。鏡のように正反対な存在――同質でありながら真逆の存在。


 そして盗聴の中で聞いた名前――〈マーセナリー〉はかなり有名な賞金稼ぎなのだった。それだけの者を雇えるのは、さすがの超巨大企業と言うべきだろう。


〈マーセナリー〉の正体については、腕利きであるということ以外はほとんど不明。女性ではないか、とは言われている。対象の殺害は極力行わず、逮捕で済ませる人道主義者としては有名である。しかし彼女(と、ここはもう断定しておくが)はビッグ・トラストに引き渡された犯罪者がどういう運命をたどるか、知らない訳ではないだろう。


 賞金稼ぎはほぼ自営業だが、彼女は雇われの仕事が多い。今回も不測の事態に備えて、TRIAに雇われていたのだろう。それゆえ彼女は〈傭兵(マーセナリー)〉と名乗っているのだ。


 ここには別の側面もある。TRIAは独自に雇っている賞金稼ぎを使って私を――始末――しようとしているのか?――そういうことだ。CSAの協力は仰がないということ。自分の不始末は自分で着ける。じつに真面目な社風を体現しているように思える。


「簡単に屈したりはしないぞ、って訳ね」


 私は不意にそんな「反応」を見せていた。そしてますます「面白い」と判断している自分も観測した。どういうことか――


 私はわざと複雑な軌跡(トラフィック)を描いて移動する。簡単にはつかませない。それと同時にプログラムの準備も進める。簡単に逃げ切れるとは思っていない。しかし――しかし。私はここで人間を「殺す」ことも考えねばならないのだろうか? こちらが置かれた状況次第ではそれも視野に入れておかねばならない。


 殺人を倫理的にタブーとしている訳ではない。守矢は私の思考回路を作るに当たって、そういった規制は設けなかった。私は犯罪者の片棒をかつぐ存在として生み出されたのだから、その倫理観は守矢本人の倫理観とほぼ同一になっている。私が危険だと判断していたのは、そこまで攻撃的になることへの、純粋な戦術的リスクだった。


 とは言っても、なにもわざわざこちらから仕掛けてやる理由はない。このまま逃げおおせるのならそれはそれでよろしいことだ。だがそれが難しいのも分かっていた。


 そして強烈な、鋭い針で刺すような打刻(ピン)が襲った。こちらは慎重に偽装し、暗号化もしているのだが、〈マーセナリー〉はそれを正確に看破したのである。


「見つけたわよ、この犯罪者め」


 そして余裕を見せる為なのか、それとも威嚇の為なのか、音声による通信まで行ってきたのである。その声色から判断すれば――加工された音声でないとすれば、だが――たしかに女性のように思える。賞金稼ぎという生業で性別を偽装する意味はほとんどないから、それは間違いないだろう。


 再び打刻。今のところは私が一方的に打たれている。彼女はこちらの位置情報を慎重精確に捉えようとしている。とはいえ私も為すがままにされている訳ではなかった。ピンを打ち返すことはしなかったが、逆探知して敵の位置を伺う。


「犯罪者だからと言って、それがなんなの?」

「ぬけぬけと言うものね、この世の中を乱す悪党が」


 つまり〈マーセナリー〉はただマネーの為だけではなく、その正義感によって賞金稼ぎをやっている――そう宣言した。と言っていいだろう。


 過剰な通信は必要ない。敵はかなり好戦的な配置。こちらの暗号を「あやとり(コード・ブレイク)」する動きを早くも見せている。恐るべきことに、AIは補助利用に留まり、ほぼ人力で行おうとしていた。


 私はダミーデータを展開し、身を隠すようにする。恐れている訳ではない――だが相手の力量を診断できないまま、本格的な戦闘に入るのは危険である。


「小賢しい真似を。しかしその展開力は褒めてあげてもいいわよ」


〈マーセナリー〉は攻撃はAIに任せ、次々とこちらのダミーを駆逐してくる。私も負けずに展開し続ける。そしてブレイクまでの時間を引き延ばしていた。


 そして判断する――名前を売っているだけあって、〈マーセナリー〉はかなりのやり手である。AIとの戦闘とはまるで違った様相を呈している――人間と戦うということは、そういうこと。私は演算能力を引き上げなければならないだろう。今月の守矢の電力消費量は大きくなるが、仕方あるまい。


 私は迎え撃つ。

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