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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.5 対人――傭兵

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02





 こちらがそういう方向で行く、からと言って向こうがそれを了承するかはまた別の問題だった。しかし意外にもTRIAの上層部はこちらの用意したテーブルにつくつもりのようだった。守矢はそれを意外とも思っていなかったようだが、ジェフは――発案者にもかかわらず――やや訝しんでいた。


「意外と簡単に乗ってくるもんだな」

「お前がそう言うかね」


 世の中の事象、すべてを面白がっているような守矢はそう言った。ジェフを揶揄っているようなものだった。感情を常に隠しているような守矢と違って、まだ彼は正直だった。その訝しみはあからさまだった。


 ともあれ、私は交渉の矢面に立つことになった。それが前代未聞のことであるのは私にも分かっていた――私は人間ではない、AIだ。守矢の名代とはいっても、人間の利益を交渉する権利があるようには思えなかった。


「まあ、本当に何かあったらぼくがバックアップする。きみはお気楽に考えていていいよ」


 ジェフと守矢の立場はいつの間にかすり替わっていた。言い出しっぺのジェフは懐疑的な立場をしていて、守矢は乗り気である。ジェフは冗談のつもりで言ったのだろうか――それはあるのかもしれない。彼はソフトウェアの巧みな使い手だが、それゆえにソフトウェアを全面的に信用していない。そこには常に穴があると考えている。


 ネオ・ダブリンはアイルランドの首都である。そしてアイルランドはTRIAの施設が多く集中している所で、世界に5基ある軌道エレベータのひとつもここに建設された。その歴史的背景については色々あるのだが、ここで詳しく述べることはしない。


 言えるのは、そこはタケシバの主要支配領域だということだ。守矢がそこを指定したのも、いくらかの政治的意図があると見ていいだろう。挑発しているのだ。


「むこうはどうやって出てくるかな」


 会談とは言っても、組織と組織が会うような形式ばったものではない。1対1だと聞いていた――会談というよりは路地裏での密会のようでもある。そもそもこちらも向こうも大っぴらにはしたくない話だからだ。


「こちらはマネーを搾り取りたい。向こうは表沙汰にはしたくない。そういうことだからね」


 現物を握っているのはこちらなのだから、交渉は有利に進められるだろう、と守矢は楽観的に言った。だがその上で、さらに安全を確保する為にAIの私を使う。彼も、そしてジェフもサイバー犯罪者の生存本能に忠実だった。


 だがひとつのことは念頭に置いておかないと行けない――今回のことで彼らのプライドは傷付いているという面だ。そこは「ひっそり」と触らなければならない。つまりは勝ち誇ってはいけないということである。


 とすれば、私はむしろ適任なのかもしれない。


 問題は向こうが誰を出してくるかということだった。色々なことが考えられた――だが一度その交渉場所、TRIAのロビーサーバに入った時、それはとても意外なものだった。どうやら守矢すらもそれは想像していなかったようだ。


 そこに表れたのは誰あろう、TRIAの現CEO、竹芝(タケシバ)亮《アキラ》であった。彼のアバターはネットワークに出回っているタケシバのCMと変わらず、優しそうな顔付きをして、背はそんなに高く設計されていない。アジア人的な顔――意外なことかもしれないが、アジア人は西欧人に憧れはしつつも、その容姿はおおむねモンゴロイドとして設定してある。それは守矢も変わらない。


 TRIAのトップが直々に出てきたのも意外だったが、犯罪被害を蒙っているのにもかかわらず彼の態度は柔らかで、かつ堂々としていた。


「初めまして、怪盗ベル。私がTRIAのCEO、竹芝です。あなたに会えることを光栄に思っています」

「光栄? それはいささかおかしいことのように思えますが」

「史上初の完全自律思考型AIと直接出会えることにね」


 その堂々とした態度の本質はすぐに分かった。守矢が言った通り、彼はこの事件をさして痛痒に感じていないということなのであった。表向きは彼一人のように見えるが、裏では私を分析するAI、そして分析官が配置されているのは明らかだった。それは想定されたことでもあった。


 ゆえに私も簡単に手札を見せる訳にはいかない。


「私は歴史の転換点に立っているのかもしれませんからね」


 もちろん、竹芝亮の言葉をそのまま受け取る訳にはいかない。


「人間とAIとの対等な交渉――ああ、いや。制作者の方が裏にいるのは分かっていますが」


 驚くべきことに、彼は私をAIだからと言って見下したりはしなかった。それがポーズであることはわかっていても、洗練された仕草でこなせるのは只者ではないと言える。


 私のデータベースに記録されているところによれば、竹芝亮はいたって温厚な人物となっている。ビッグ・トラストは決して一枚岩とは言えないのだが(とくに規律を重んじるCSAと社風として自由主義的なAEは常に緊張状態にある)、それをまとめているのが彼だと言える。経営者というよりは政治家的――それも調整型の政治家だ。そしてそれは、極めて善意の心で行われているのである。彼は平穏を望む。


 そんな、世界の最重要人物のひとりである彼が現れたのは何故だろうか。そんなに規模の大きい交渉ではない。所詮は犯罪者による「ゆすり」でしかないのだから。


 私という存在が、それほどまでに大きいものなのか?

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