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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.5 対人――傭兵

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29/80

01





 完全自律思考型AIは果たして人間と同等の交渉(ネゴシエイト)が出来るだろうか?


 ジェフはそこまで深く考えた提案ではなかったのだろうが、それは少々難しい問題のように診断される。


「私に可能でしょうか?」


 ここまでで分かっているのは、〈ソーサラー〉は必ずしも自律思考型を好ましく思っていないということだった。だからこそそんな気楽な提案もできる。それは同時に、彼にとってソフトウェアは基本的に使い捨てのものだという思考も見られる。


「お前は自分で考えることができるんだろう?」

「私の『思考』と人間の『思考』が同質のものであるか、まだ実証はされておりません」

「じゃあいい実験の機会じゃないか。そうだろう、晋作」


 ジェフの物言いは断言するようなものだった。そして守矢もそこそこ乗り気になっている。私としては――怖れとかいうものはないが――「予測不可能」という診断もあって――AIとしてはよくないことなのかもしれないが、結論を出すことができない。


「AIと人間が対等の立場に立つ――確かに面白い。だが少々早すぎる気もするな」


 ここに守矢の慎重な部分が見え隠れする。


「だが、お前も簡単に個人情報を特定させる場には立ちたくないだろう。そうじゃないか。否定はさせんぞ。『彼女』をお前が作った理由のひとつには――自分の『(デコイ)』にするものもあった筈だ」

「それはそうだけどね」


 守矢はあっさりと認めた。私に反応はない。


「だが向こうがそれを飲むかだな」


 外交というのは2者が立ち会って初めて成立するもの。一個人として認められていないAIを果たしてかれらが交渉人として承認するのか? という問題はあり――そしてそれはこちらが制御できるものではない。


「現状はこっちが有利だ。物騒なことを起こしたくなければ、奴らは乗らざるを得ん」

「そう簡単に行くもんかね」


 しかし守矢は疑義を挟みつつも、どこか面白がっているようだった。


「じゃあ、最終判断はベルにしてもらおうか」

「え」


 という声が漏れたのが、私自身理解不能だった――常に最善の演算を行うべきAIにあるまじき反応。しかしそれを言うなら、AIに自己判断を求める守矢もすこしおかしいところがあった。


 推奨、非推奨を含め、AIは「提案」はできる。しかし「決断」という機能は、これまでのAIには決して存在しないものだった。私はこの時気付いていなかったのだが――守矢やジェフが気付いていたのか、それはさらにあやしいものだったが――この時、世界に対して大きな変化をもたらすことが行われていたのだった。


「私、は……」


 それは私に搭載されている高速演算処理システム、論理思考回路でもなお、簡単に回答を出せないものだった。だがしかし――しかし――私は――「可能」、なのだ。


 だからこそ私を構成する0101が揺らぎ、「面白い」と判断しているのではないか。


「いいでしょう。やらせてください」


 守矢の脳波からは明らかな「(ポジティヴ)」の反応が見られた。ジェフの反応はもうすこし複雑で、明快な解読はできなかった。


「よく言ってくれた」


 守矢は言った。その提案を最初にした筈のジェフは仏頂面をしている。やはり感情は検知できない。彼はもっと別のことを試したかったのだと推測される。しかしその「別のこと」がなにかは、彼の心の裡に仕舞われている。


「しかし交渉の前段階、そのおぜん立てはぼくたちがするべきだろう。そうは思わないか、なあ、〈ソーサラー〉」

「それは、まあ」


 守矢とジェフは決して馴れ合っていない。お互い別に立つ存在だとしている。「友情」とはそういうものなのだろうか。と思った。そしてそれはノイズとして処理(デリート)するべきなのかどうか、私の自己管理(クリンナップ)システムは判断できなかった。なにかおかしいことが起こっている――もうすこし慎重であれば、それに気付いた筈だった。


 だがこの時の私は、自己解決できないならば保留にしておくべきだと判断した。


「〈スピアー〉の名前でコンタクトを取る。なに、かれらとは『初めて』じゃない。無下にはされない筈さ」


 そうだといいがな、とジェフは言った。ともあれ、首魁の〈スピアー〉、その全権大使として私が派遣されるという構図は完成した。


「まあ、ここいらではちょうどいい実験なのかもしれないね。完全自律思考型、というものがどのようなポテンシャルを秘めているのか、測るには絶好の機会だ」


 守矢は基本的に楽観主義の男だった。彼はともすれば私を――自分が作った筈の私を――持て余してしまうことを考えながら、同時にそれを面白がってもいた。


「ネットワーク上では私たちの原発奪取についてはなんのニュースも流れていません。噂話ですらも」

「当然だ。これは奴等の沽券に関わる問題だ。慎重に情報を秘匿しているんだろう」


 つまり、これはどこまでも「裏」で行われていることなのだった。ハッカーとしての名声を上げたいなら、あるいはもっと深刻に、テロリストとしての心意気があるのなら、ここで犯行声明を出してもよかった筈だ。しかしここでは守矢もジェフも「職業人(クラフツマン)」のままでいることを望んだ。


 守矢による事前交渉の結果、会談場所はネオ・ダブリンに決まった。TRIAの本拠は二ホンだが、すこし離れたところでの会談を望んだということだった。そして驚くべきことに、TRIA側は「興味深くこの交渉を歓迎する」と言ったのである。


 私は私自身が思っている以上に注目を集めていることに、まだ気付いていなかった。

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