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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.4 友人――共闘

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07





 祝杯を上げたいところだね、とドラッグはまったくやらない守矢が言った。どうにも皮肉気なところのある彼である。


「しかしこれからどうしよう」

「あとのことは考えていなかったのですか?」

「いや、これは〈ソーサラー〉の持ち込んだ案件だからね。こいつを使ってどうするのかはあまりぼく自身は考えていなかった」


 そんな認識の中、平然と危地に自分を放り投げる守矢――無謀な所と慎重な所が同居している彼のことをいまいち私は理解しきれない。


 ともあれ、私たちはすでに敵の警戒ラインからは離れ、安全圏にいる。とはいっても完全にオフラインにするまで気は抜けず、暗号化は解いていない。ジェフとはまだ通信しておらず、合流は出来ていなかった。物理的な距離はまったく問題ではない――誰もが望めば瞬時に連絡(リンク)出来るこの世界では。


「それはむしろ心の距離なのさ」


 と、煙に巻くようなようなことを宣う守矢。しかし確かにそうなのかもしれない。ここでは「心」(……?)がひとを遠ざけもするし、近づけもする。NNSのあやふやなところ――それはなにも前世紀後半に「インターネット」が成立した時から変わっていない。変わったのは「それ(デジタル)」に対するひとの依存度だろう。


 その末に私という存在もある。完全自律思考型AIという――


打刻(ピン)は受けていないかい」

「今のところ、そのような兆候はありません」


 ひととひとが実質ゼロ距離にあるこの世界――しかしスペースというのは確かに存在していて――障壁は確かにある――


「深く考える必要はないよ。ここはそういうところだ」


 それはなにも守矢独自の見解という訳ではなく、主な生活がすでに電脳世界(サイバー)にあることを自然に受け入れている人類にとっては自然な思考だった。そして私は完全にサイバーの世界の存在である。


 データを守矢の個人サーバに移し、ジェフの入室を承認してオフラインにし、そこで初めて守矢とジェフは言葉を交わした。


「でもまあ、これでも世界の電力の0.01%程度しか奪っていないわけだけれどね」

「俺たちが奪ったのはそういうものじゃない。奴らにある安全の幻想だ。これは俺たちの初めてのインフラへの直接攻撃だからな」


 ジェフも比較的冷静な男ではあるが、まだ守矢よりは分かり易い。かすかな興奮の脳波を感知(キャッチ)できる。それだけ大きな仕事をやりおおせた、という自信に充ち溢れている。私に搭載されている判断基準で、それは「男らしい」ということになる。


「しかし、こんなものをどうやって換金するつもりなんだ。闇商人(バイヤー)もこんないわくつきのものは取引できないだろう」

「奴らそのものと取引するんだ」


 話は次第に剣呑なものとなっていく。ジェフの提案は原子力発電所を(しち)として身代金をTRIAから搾り取るというものだった。守矢はあまり乗り気ではなかった。私は特に解析(アナライズ)することもせず、ただふたりのやりとりを見守っていた。


「原発一基なんか、かれらにとっては痛くも痒くもないだろう。お前の言った通り、威信という問題では別だけどね――しかしそういう意味で言うなら、むしろ交渉には乗らず、ぼくらを消しにかかる可能性のほうが大きい」

「奴らには『市民への生活保障を担保する』という建前がある。これをそのままには出来んさ」

「しかし、ジェフ」


 守矢は珍しく彼を本名で呼んだ。それは「揺らぎ」なのかもしれなかった。


「その矢面には誰が立つんだい? 悪いがそういった交渉はぼくは苦手で、やりたくはない」

「お前のほうが得意そうだけどな」

「本音を言えば、そんな場に自分を晒したくない――お前が言い出した事だろう? なら自分でやりたまえよ」


 そう言うと思っていた、とジェフはいやに得意気だった。なにか腹案があるのだろうか。私が推論できないでいる中、彼は意外なことを言い出した。


「完全自律思考型AI――じつに都合の良い存在が、晋作、お前の手の内にあるじゃないか」

「彼女を交渉の場に立たせる、って?」

「AIのバックアップくらい用意しているんだろ? ならばこいつを失ってもとくにお前の痛手にはならない筈だ」

「彼女を使い捨ての駒にするのは――あまり好みじゃないな」


「好みじゃない」というのは守矢一流の表現だった。だが彼はそれだけではないものを、この提案から受け取っていた。それは守矢自身からではなく、ジェフの口から表出した。


「ベルを、『彼女』を、もっと成長させたいんだろう。お前の最終目標がどこにあるのかは分からんが、こういった経験をさせるとAIも色々と『学習(ラーニング)』するところがあるんじゃないのか?」

「お前はぼくを乗せる手管だけは上手いな」


 それまであまり乗り気ではなかった守矢の脳波が微かに興奮の信号(サイン)を見せ始めた。


「それなりに長い付き合いだからな。お前のソフトウェアに対する愛情はよく分かっているつもりだ」

「いいだろう。そうしようじゃないか――いや、最初からそれがお前の狙いだったんじゃないのか?」


 ジェフは答えなかった。


 私は拒否しない。そういう回路が存在しない。だが、あえて言うならば――私はそれを、すこし「面白い」と判断していたのだった。

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