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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.4 友人――共闘

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04





 すこし、冷たい感覚が感知される。この感覚は守矢も、そしてジェフも共有しているのだろうか。AIと人間の感覚は違うのだろうか。それも知るべきことだろう。


 その原子力発電所は、肉体世界における南米・ブラジルに存在している。その中の一基に過ぎない。TRIAにしてみれば、エネルギー的にも経営的にも大した存在ではないと思っているだろう。だが威信という意味ではどうか。


 守矢たちは奪おうとしているのはそれである。


「こういう、大きな仕事の時は血が冷えてくるね」


「血」というものは私には流れていないが、私と気持ちは共有しているのだろうか。もしかしたら只の比喩なのかもしれないが。


暖気室(サーモスペース)で守られている肉体(フィジカル)で、そんなことを感じるのか?」

「肉体的なものを忘れたら、人間ではなくなるよ」


 それは私と彼の差に対する認識のようにも思えた。ジェフも守矢も意識していなかっただろうが、私はそう感知した。


「俺は、仕事の時は肉体は忘れているな」

電脳世界(サイバー)にのめり込み過ぎるのはよくない」

「なにを言う。俺もお前も中毒者(アディクト)だろう。それを否定はできない」


 私と守矢は今接触(リンク)しているが、彼の脳波はいささかの「(ポジティヴ)」を発している。何故だろうか。


「まぁいい。俺がまず仕掛ける。お前は静かに忍び込め」


 私たちはまだ慎重に複雑な暗号化をしている。しかしデータ接近は向こうにも気付かれている筈だ。しかし攻撃はまだこない。


「今回は人間のエージェントとの戦闘はあり得るでしょうか」

「多分出て来ないな。計画は察知されていない」


 その後は分からないが、と含みを持たせながら守矢が言った。


 私は私自身に対人戦闘プログラムが仕込まれているのを知っている。その時が来るのだろうか。私が殺人に手を染める日が。まあ、だとしても能動的に殺すのではなく防衛の為だろうが。


 さて、AIを「消す(キル)」のと人間を「殺す(キル)」との間にどれほどの差があるのだろうか。その辺りの判断基準は私には搭載されていないようだ。


 敵の動きはまだない。迂闊に攻める事の愚を分かっているようだ。それはこちらも同じ。元々音のないスペースだが、静寂があたりを包んでいるような感覚を受ける。物理的なものではなく雰囲気的なもの。


「今回は〈ソーサラー〉がまず擾乱攻撃を行う。その後からぼくたちだ。という訳で奴が仕掛ける(ラン)までこちらはずっと待つしかない」


 私のデータベースには、ジェフ・コンドロンは慎重繊細な男と登録されている。つまりそれがそのまま守矢の彼に対する評価である。しかし慎重というところでは守矢も大して変わらない。ハッカーとはそもそもそういう人種だ。自分の身を隠すことが第一としている。だがその上で盗み取るのは難しい。


 私は直接ジェフと接触できる位置(フェイズ)にいないが、その動向は観察(モニター)している。


「彼の手管は参考になる」


 という訳で、守矢はジェフの動きを私に学習させようとしているのだった。


 ともあれ、彼の動きを待って、私たちは情報暗号化の中で息をひそめている。しかし原子力発電所の「(プロテクトウォール)」は既に見えている。どれだけのプログラムが仕掛けられているのだろうか。その防衛仕様(スペック)は秘匿されている。


 その「壁」には0225と銘記されている。つまりここはTRIAが保有する発電所。その225基目ということ。建設された中では比較的新しい部類に入る。軌道エレベータ完成後も彼らは新規に原子力発電所を建造し続けている。


「そろそろ行くぞ。そちらの準備は良いか、〈スピアー〉」

「もちろん。しくじるなよ、〈ソーサラー〉」


 ふたりの共同作戦はこれが初めてではない。そしてその時は大抵がこの役割分担になる。能力のもんだいではなく個性の問題だ、と守矢は言う。


「〈ソーサラー〉は戦闘を得意にしているし、また好んでもいる」

「そうなのですか。では〈スピアー〉は『あやとり(コード・ブレイク)』のほうが好みというのですか」

「そういうことになるね。さて、きみも幾らか仕事をこなしてきた訳だが、どちらが好みかな?」


 おどけたように守矢は言った。私はすぐに反応した。


「私はAIです。嗜好は存在しません。得意かどうかなら答えられますが」

「まあそうだろうね」


 守矢は私の中にそういったものが芽生えるのを望んでいるのだろうか。


 そうこうしている内にジェフが暗号化を解いた。攻撃状態に移行する。彼の使役するAIによる打刻(ピン)。それは何度も行われた。それでこちらにも標的への(ルート)が見えるようになる。


「正体不明のデータによる攻撃を感知! 迎撃態勢に移行!」


 ガードAIプログラムが幾つも作動し、それは一気に〈ソーサラー〉のほうに向かっていく。もちろん彼もダミーデータや使い捨て用AIをばらまいて、本体の場所を簡単には察知させないようにしている。


「こちらは仕掛け(ラン)ないのですか」

「すぐに動いては攪乱の意味がない。もうすこし息をひそめておく必要がある」


 守矢は繊細にタイミングを見計らっているようだった。どこまでも冷静である。彼もジェフも心拍数は一定している。熟練のハッカーとなれば、その程度の精神統一など、大きな仕事(ビズ)の前でも朝飯前なのだろう。


「まあ、こちらはゆっくりこそこそやろうじゃないか」

「『こそこそ』は推奨しますが、『ゆっくり』は承認しかねます。速度が重要だと言ったのは〈スピアー〉、あなたです」

「もちろん動き始めたら一気にやる。そして奪えばとっととずらかる。盗っ人の基本にして究極だ」


 私はその、天才ハッカーふたりの手管を学習していく。

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