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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.3 侵入――対峙

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07





 話はまだ続く。私が知りたかったのは、その、かなりの危険を冒してまで手に入れた個人情報をどうするかということだった。


「もちろん然るべきところに売り払う――そのあとは、まあ」


 守矢の、含みのある言葉。


「その情報を購入した者は、かれらを殺害するのでしょうか?」

「『まあ』と言った」


 守矢は面白がっている。


「CSAを快く思っていない連中はそれなりにいるからね」

「しかしかれらは秩序を守っているのではないのでしょうか」


 望んで犯罪者になったような守矢――そして私――のような輩ならともかく、平穏無事に生きている市民はその秩序の恩恵を受けているはずだ。この世界を乱したいと思っている人間が、ほかにもいるというのだろうか?


「〈スピアー〉は……そしてその者たちは現体制の転覆を望んでいるのでしょうか」


 それは途方もない計画であるように推論する。ビッグ・トラストは個人が立ち向かうには巨大すぎる存在。そしてこの世界は広大。理論上は無限に拡がりうる世界だ。データ圧縮技術はなおも進化している。肉体世界(フィジカル)に存在するコンピューターも性能は加速度的に上がっている。


 問題は地球の面積は有限だということだが、セントラル・コンピュータを衛星軌道上に建設するという計画(プロジェクト)もある。TRIAが主導となって進めているものである。


 その建設工事ももちろんAIが制御するロボットによって行われる。人間の労働者はごくわずか。


 それだけの相手。


「ダムに小さい穴を開ければ、そこから決壊する――巨大であればこそ、崩壊する時はあっという間だ」


 私はその話を疑わしく聞いていた。そんなことは相手も分かっているはずだ。だからかれらも必死になって穴は修復する。


 そしてその後の世界をどうするのか、守矢はどう考えているのだろうか。


「まあすぐにそうなる、という話でもない」

「いまよりよき世界というものが、私には想定できません」


 よくも悪くも今の世界は安定している。秩序は保たれていて、それを崩されるのを望んでいる者はそんなに多くない。


 だが守矢はこんなことを言った。


「知っているかい、いや、ぼくの知っていることは、もちろんきみも『知っている』はずだが、まあここはあえて再講義してあげよう」

「なんでしょうか」

「この世界には、昔あったという『学校』という機関が存在しない。なぜかは分かるよね? 人類ほぼすべてが人工授精し、試験管の中で育てられ、睡眠学習するのだから。そしてその成果によって世の中での立場はほぼ決まる。3大企業は仮初の自由を提供しているように見えて――この世界はかれらによって管理されている」

「はい」

「確かに品行方正に生きていれば無難に生きていけるだけの安全は保障されているんだろう。しかしそれは、人類が古来より希求してきた『自由』からはほど遠い世界だ」


 私はここであのミロスラフ氏のことを思い出していた。ゲーム開発によってのし上がろうとしていた彼――彼にも――自由はないのだろうか?


「恐れながら、〈スピアー〉の目指しているものは『自由』ではなく『混沌』のように判断します」

「それもいいだろう」


 面白がっているような守矢の声は変わらない。彼がこの世界を斜に構えて見ているのは確かだった。彼の論理と3大企業の論理、どちらが正しいのか判断する情報はまだ私には存在しない。


「それに、その秩序から外されたところから生まれた自然生殖者(ナチュラルボーン)はどうなる? かれらの権利、自由は。少数派だからといって切り捨てていい問題だと思うかい?」


 私はなお、守矢の真意について量りかねていた。彼は真摯な革命家なのか、それともただの愉快犯なのか。現時点ではどちらにも取れるように推論する。


「『革命の為の革命』では、市民の支持は得られないと想定します」


 私が提言できるのはそこまでだった。


「中々辛辣な指摘だ。だがそれでいいんだよ。さすがぼくの作った完全自律思考型AI――とここは自画自賛しておこう」


 自由とはなにか。革命とはなにか。前にも言ったが、私は実務の為に作成されたAIであり、形而上の問題解決を求められてはいなく、それに対する判断材料は存在しない。だが、だとしたら、なぜ今守矢は私に対してそんなことを語っているのか――私にやや「不快(ネガティヴ)」の反応があった。思考が寸断され、それによって小さなバグが発生している。


 もちろんわたしは自己保存プログラムに則ってそのバグを除去(デリート)した――しかしデータというのは――デリートしたからといって完全に虚無になる訳ではなく――


「〈スピアー〉。〈スピアー〉が私に求めるものはなんなのでしょうか? 私ひとりの推論では答えが出ません」

「言うまでもない。ぼくの相棒(バディ)になってもらうことだ」

「AIの私に?」

「AIだからこそさ」


 どうも守矢の思想の根底には人間不信――とまではいかないにせよ、軽い厭世観があるように思えてならない。


「そういう訳だから、きみはもっと自由に思考していっていい。もっと成長していってくれ。将来的にはぼく自身を追い越すほどの技量を身に着ける――それほどの素質があるのだからね」


 自由に、思考――


 彼は気付いていなかったかもしれないが、この会話(ダイアログ)によって、私に微かな――ほんの微かだが――彼は完全に信用の置けないマスターだという判断が生まれていたのだった。

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