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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.1 起動――仕事

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02





 ――接続(アクセス)


 私は守矢の所有するスタンドアローンユニットの中で開発された。ここで私は初めてネットワークに繋がる(リンク)。AIの私にそこで存在意義が発生する。すくなくとも守矢のセックスワーカーとして作成された訳ではない。


「自律思考型――いや、自律演算型と呼ぶ方が正しいのかな。まあ呼び方はなんでもいいが」

「〈スピアー〉。私に仕事を下さい」

「まあそう急くな。きみにはまだまだ学びが必要だ」


 私が把握している、というよりは予め入力された情報による守矢。彼は簡単に言って犯罪者である。ただし粗野ではない(と、私に打ち込んだ)。ネットワーク上にあるデータを盗むハッカー。


 そんなハッカーに作成された私はなにか。


 つまりその犯罪の片棒をつぐための存在。


「しかし私の学習は仕事によって成されます。〈スピアー〉、あなたがそう設計しました」

「それはそうだ。だがそんなに焦る必要もない。きみはAIだ。ネットワークの情報に接続し、それを高速演算処理できる。学びとるがいい。ほら、この(データベース)に飛び込んでごらん」


 そう言って守矢は巨大なデータベースに触れさせる。それは3大企業(ビッグ・トラスト)のひとつ、チャン・セキュリティ・エージェンシー(CSA)が所有するデータセンターが保有するもの。


 電脳世界(サイバー)肉体世界(フィジカル)の境界が極限にまで曖昧になったこの世界に於いて、CSAはその企業名の名が示す通り、企業から個人に至るまでの安全保障を担っている。企業利益を捨て去った訳ではないが、事実上ネットワークの警察機構である。


「CSAが3大企業の盟主と言っていい。古来より一番巨大な権力を握るのは警察権を握ったものだからね。秘密警察の歴史は――はて、インフォメーションに入っていたかな」

「把握しています、〈スピアー〉」


 こう言い換えることも出来る。CSAはこの現代世界における政府(ポリス)なのだと。


 そして守矢は裏口(バックドア)から秘密裏にその情報に接続できるほどのハッカーなのだと。


「ビッグ・トラストに関してはのちにまた講義しよう。まあ、この稼業を続ける限りにおいては決して避けられないし、講義だけじゃない学習もしていくだろうがね」

「彼等は敵なのでしょうか」

「重要な取引相手先さ」


 データを盗むことが果たして取引と言えるのか。私の語彙にはそう記録されていない。


 守矢の諧謔味は打ち込まれた情報だけでは把握できないものだった。それもまた学習(ラーニング)


 そして学習効果をすぐさま出力(アウトプット)する。私はそうするように設計されたAI。それが守矢の望んだもの。


個人(インファンティ)の取引先としてはCSAは巨大すぎるように思えます」

「そこに勤める企業人(オフィサー)も一緒さ。企業は一個の生命体ではない。大きな群れでしかない。だからこそぼくのような存在にもつけこむ余地があるという訳だ」


 私たちは話し(チャット)ていた。それ自体が情報の交信だった。それと同時に私は自分自身に搭載されたソフトウェアを動かしている。守矢がなにを望んでいるか、把握している。


 それにしてもネットワークの情報(インフォメーション)の莫大なこと、そして雑多なこと。私が作成時に予め打ち込まれたそれは、そのごく一部でしかなかった。守矢がどれだけの情報とソフトウェアをライブラリに貯め込んでいたとしてもだ。


「さて、マッピングは順調に進んでいるかい?」

「進度問題なし、このまま続行します」

「そろそろ(ルート)が見えてきたところだろう」


 守矢の声は安定している。彼の感情は滅多に動くことはない。


 感情。それは情報(データ)たるAIには存在せず、人間には存在するもの。ゆえに私は直接ではなく情報分析(アナライズ)によってそれを把握する。


 守矢相手には必要ないものかもしれないが。


「初めての仕事(ビズ)はきみ自身に選んでもらおうか。初めての実践学習でもある。それに適した、簡単なヤマ――それを判断できる知能はきみにはすでに搭載されている。そのはずだよ」

「了解しました、〈スピアー〉」


 私はその指示に従い、なるたけ防御の薄そうな標的(ターゲット)を探し始めた。私にはそれが可能。


「きみの優秀さ、有能性を確認したい。だがまあ、焦らずにね」


 そして私はハッキング先としてCSA傘下――といっても孫の孫の孫会社だが、その銀行を射程に捉えたのだった。

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