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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.3 侵入――対峙

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03





 幾らでもデータコピーできるAIの、どれが本体なのかという問題には回答は存在しない。あえて言えば最新データを保有している個体が本体とも考えられるが、それも明白な答えとは言えないだろう。


 きっと守矢も個人サーバに私のバックアップデータを保有している。ならば、私は本当に本体と言えるのだろうか?


「……ええい」


 今はそれを思考している場合ではない。任務遂行こそが第一。


 増殖したクレムは敵の防壁(ファイアウォール)に激烈で間断なくピンを打つ。防御破壊は望んでいない。これは威嚇射撃のようなもの。標的の注意をできるだけクレムのほうに逸らす。


 電脳戦はあくまで暗黒の中で行われる。NSSはそれを自動的に視覚化しているが、象徴的、あるいは仮初のものでしかない。その奥にあるデータを視なければならない。それゆえの打刻(ピン)なのは前に学んだ。もちろん事前学習でも登録されていたが、「知っている」だけなのと、実地で試すのでは天地の差がある。


 私自身はまだ攻撃を行っていない。まだ状況を見ておきたい。ガードAIが出張ってくるのはまず間違いないだろうが、私が出るのはそこからだ。相手は容赦なくこちらを消去しにかかる。しかしそれはこちらも同じこと。


 その状況がやって来る。クレムはなおも攻撃を続けている。ファイアウォールはそう簡単に突破できるものではないし、そもそもそれは目的ではない。あくまで私たちの任務は時間稼ぎ、あるいは目くらまし。


「警告! 警告! 警告! 速ヤカニコノ領域カラ退去セヨ!」

「まだ警告で済ますなんて、随分と優しいわね」


 クレムは防御状態を解除している。起動した敵ガードAIは精確に打刻し、その位置を把握してくる。強制データ消去プログラムが展開され、クレムを1体ずつ「処理」していく。しかし私も同時にクレムを増殖させ、いたちごっこのような様相になってくる。


 速度の問題である。


 向こうの情報処理が速いか、それともこちらが。


 ただいなしているだけでは埒が開かない。私たちのコアが存在する守矢の個人サーバにも負担がかかる。とはいえ殲滅するのも難しいだろう。こちらがクレムを増殖しているのと同様に、向こうも自己増殖を始めている。CSAの巨大データセンターをバックに持っている向こうのほうが、長期戦になれば有利になる。


 私は自身の暗号化を解除した。迷いは無い。


 ガードAIは四脚歩行のロボットとして視覚化されている。こちらは顔を見せていない。データの位置はまだ特定されていないだろう。私は判断する。こちらのほうが速度で上回れる。そしてクレムはとてもいい仕事をしてくれていて、打刻により位置関係を把握できている。


 まずは1体目をデリート。守矢の作った消去プログラム――「ノイマン3」はかなりの高性能、威力を誇っていた。確かに彼は技術だけで言えばCSAとも互角以上に戦えるものを有している。問題はこちらが個人であるのに対し、向こうは巨大組織だということ。


 消去また消去。と同時にダミーデータをばら撒き、こちらの位置を簡単に特定させない。とは言ってもこれを殲滅するのは少々骨の折れる作業。クレムを制御すると同時に自分自身も攻撃しなければならないからだ。


 とはいえ、私が注視されているのは作戦が順調である証拠でもある。このままでいい。


「守矢は今何をやっているのかしら」

「マスターのマスターはとても有能です。心配する必要はないでしょう」


 クレムは矢面に立って相手の攻撃を引き付けているが、疲弊した様子はない。演算能力(パフォーマンス)の劣化は見当たらない。かなりのバグデータが蓄積しているはずだが、そこは高性能なAIというべきだろう。型落ちでも一個先の世代であるガードAIに引けを取っていない。


 私は攻撃フェイズを移行させる。「砲」だけで打っていてもこの戦いは終わらないし、疲弊してしまう。敵の打倒及びデータ奪取は目的ではないが、もうすこし積極的でもいいだろうと判断する。その為には敵のルートを把握、()()()()()必要がある。打刻(ピン)打刻(ピン)。それと同時にプログラムを解析していく。


 ガードAIは第8世代。幸いにも私には第8世代の性能と特性がデータベースに存在する。そして相手にとってこちらは未知の存在。一方的な攻撃が仕掛けられる。


 そして(ルート)、それはとてもせまい道だがそれを突き止める。そこからはやはり速度の問題。敵が再暗号化する前に私はデータ自壊ウィルス、「アンドロメダ2」を注入する。それはソフトウェアの中で無限に増殖し、システム内にまで一気に浸食していく即効性のウィルスである。それを開発したのも守矢。


「エラー検知! メンテナンスを実行シテ下サイ――」


 どんどん壊れていく。一度注入してしまえばもうどうにもならない。


「指示ヲ、指示ヲ……」


 ガードAIは次々とデータの藻屑に消えていく。なまじ高性能だから、バグが起これば自動消去されるように設定されているのだ。


 戦闘は一旦集結した。クレムにも攻撃を中止するように指示(コマンド)する。


「見事な手際でした、マスター」


 クレムにもこれまでの戦闘記録が残っているはずだ。そういう意味では、性能では上回るかもしれないが、経験という意味ではクレムに一日の長がある。実際、彼女はじつに「慣れて」いるように思えた。


「しかしこれで終わりではありません。1分35秒後ほどに敵の第2波が来ることが予測されます」

「いいわね。あなた、とても賢いわ」


 ここで最初のガードを退けた、ということは次はもっと攻撃的なAIがやってくる可能性が高い。


「やってやろうじゃないの」


 私が入っているドライブに、すこし熱が帯びたようだった。

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