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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.3 侵入――対峙

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15/78

01





 今回の仕事は守矢が主役(メイン)で私は脇役(サブ)に徹する。天才ハッカー、〈スピアー〉の手管をその目で確認するまたとない機会になるだろう。


「いずれはこれくらいの仕事も、きみ単独でできるようになってほしいものだが」


 ダイブ開始。守矢はそれを「国境を越える」と表現した。


「ここからは敵国だ」

「しかし〈スピアー〉。CSAは国家ではありませんし、私たちも国家ではありません」

諧謔(ジョーク)の理解には、まだまだ学習が必要なようだな」


 と守矢は言うが、私とてそれをそのまま受け取った訳ではない、例えであることは分かっている。ジョークとして評価するなら――私はさほど上手くないと判断したのだ。


 それはさて置き、私たちは自身を暗号化し、CSAの情報領域(データスペース)に侵入している。


「ほっかむりを被った盗人のようなものだね」


 しかし今回狙うのは金品財宝ではなく、個人情報。具体的に言えば、個人情報を秘匿されながら活動するCSAのエージェントを「奪う(ハック)」。当然、危険。私には危機警戒レベル認識が実装されているが、今回の仕事は警戒レベル、10段階の「7」と認証している。本来なら使用者に撤退を促すほどの段階だが、しかし今回はこちらが仕掛ける側なので撤退というのは有り得ない。撤回ならあり得るが。


「きみは危険と判断しているんだろう」

「その通りです、〈スピアー〉。推奨はしない仕事です、しかし……」


 所詮私は一体のAIに過ぎない。助言や作業はできるが、最終的判断はすべてマスターに委ねなければならない――しかしそれでは今までのAIとなんら変わることはなく――完全自律思考型としての私の存在意義は――


「こんなものは、確かに危険かもしれないが、ぼくが目指すものからすれば……まだ一里塚にすら到達していない」


 守矢はじつに愉しげだった。彼の「(ポジティヴ)」の脳波を感知する。そうすると、私の機能もクリアになっていくは――気のせいだろうか――


 既に私たちはかなりの深度までに到達していた。にもかかわらず敵の防衛反応は今のところない。つまりアスムッセン氏のリークしたCSA防壁ラインの脆弱性は正しかったということになる。単純にデータスペースが広大過ぎて管理が行き届いていない、というのもあるだろうが。


 しかし攻撃を仕掛ければ必ず反応はある筈だ。よってここからの行動は慎重にならなければならない。暗号化はもっと複雑化しておく必要があるだろう。処置開始。


「警戒してください。ここはすでに敵対領域です」

「分かっているよ。しかし欺瞞(ダミー)攻撃はきみの任務だ」


 その手筈だった。表面上は私が攻撃する。だが実際の役割は守矢が攻撃(オフェンス)で私が防御(ディフェンス)


 概略を確認する。まず私が標的ではない場所にウィルス攻撃を仕掛ける。攻撃には自動的に反応する防衛(ガード)AIは当然こちらに向かって来るだろう。だがそれが隙になる。時間の勝負になるだろう。私が時間稼ぎをしている内に守矢が手早く情報をハッキングする。情報を奪えばすぐさま撤退。


 そのあと、その個人情報をどう扱うのかは、私には知らされていない。あまりマネーにはならない仕事なのは明白。守矢は以前CSAを「重要な取引先相手」だと表現したが、それだけではない。彼はこの企業を敵視している。


「〈スピアー〉、指示をどうぞ」


 しかしながら、AIが人間である守矢の内心を量ろうとしても意味は無い。私は与えられた仕事をこなすだけ。


「よし、始めよう。きみに(スレーヴ)AI操作の権限を与える。ブロック423に移動しろ。そこはCSAのセキュリティ・システムの中枢だ。だがあくまで目的は情報攪乱であることを忘れるなよ」

承認(アクセプト)しました。状況を開始します」


 AIの私がAIを使う――それ自体はさして珍しいことでもない。AI使用者が(マスター)AIに(スレーヴ)AIを与える運用は普通に行われている。しかし今回は自律思考型である私が使うことに新規性があると言える。しかし、スレーヴ。奴隷(スレーヴ)とは。コンピューティングの世界では普通に使われている用語だが、しかし――


 ともあれ、わたしはブロック423に向かう。「匂い」が感じられるようだ。シリコンの匂い。もちろん移動は瞬時。この世界に距離はない。どこまでも瞬間で繋がる連結体(ネクサス)。その情報速度の驚異的な進化があればこそ、人類はニューラル・ネットワーク世界でかつてない繁栄を享受している。


 それは進化、なのだろうか。


 その発展を支えた企業のひとつ、CSA。個人が立ち向かうには巨大すぎる存在、権力機構。守矢は今それを実行しようとしている。危険極まりない。私はいい。所詮AIソフトウェアだし、当然バックアップデータも存在しているだろう。しかし人間である守矢にはどうか。私は彼を命知らずだと認識する。


 だが私がその疑問をぶつければ、彼はこう答えるだろう――命は自分の目的を達する為の、あるいは自分を表現する為の手段、道具に過ぎないのだと。


 私はその彼のそのシニカルさを受け継いでいる。だから危険だとは判断しても強硬に反対はしないし、動作が不安定になることもない。


 なにより「仕事」は私の存在意義そのもの。


 その点で私と守矢は一体化していた。

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