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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.2 遊泳――収集

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05





 オールドスタイル、という名前の通りそこには古臭いタイプのゲームが色々と並んでいる。20世紀から存在するアナログゲーム――を模した、もちろん今はデジタルだが――まであった。ピンボールなどだ。対戦ゲームなども充実していて、今なおプロ競技として存在している将棋やチェスなども。


 私は自分の快楽の為に――そんな回路は搭載されていない――AIには不要――ゲームをしようとしているのではない。性能確認の為だ。果たして私がどれだけゲームを解析(アナライズ)し、的確に攻略できるか、それを計ろうとしている。


「どれにしようかな……」


 とは言っても、これだけ沢山の遊戯があるとどことなく目移りしてしまう。最適解というものが中々見出せない。演算能力を発揮できるのは――どれか――


「お嬢さん、きみのような子は珍しいね」


 そうやって迷っている内に私に声を掛けてくる男性が現れた。どうやらこの店の店主。ということはつまりAEのオフィサーであり、そうであるからには個人情報が開示されている。渋い壮年男性のアバターを持った彼は、そこから類推できる実年齢とそう変わらない。


 ルート認証。名前はダニエル・藤田(フジタ)。46歳の中間管理職。「オールドスタイル」の店主をしていると同時にゲームプログラマーでもある。ここにあるゲームの大半は彼が開発(デベロップ)している。AEのなかでは傍流。だがその境遇に不満はない。


「若い子はVRMMOなどで遊んでいるものだが。ここに来るのは趣味人のようなものだよ」

「ここには私に適しているゲームがあると思ったのです」


 藤田は私の素性にはあまり興味が無いようだ。人間かAIかの判断もしてこない。もっともマスターの接続から離れて遊びに来るAIというのがそもそもの想定外。私は人間だと思われているのかもしれない。


「きみ、名前は」

「私はベルです」

「ゲームの経験はあるのか?」

「ありません……ですが――」


 ソフトウェアの解析能力は高い水準で守矢が構築し、搭載している。しかしその中にはビデオゲームの解析は入っていないようだった。守矢はゲームはしない男だったのだ。


「お手軽に出来そうなものはありませんか? できればスコアを競えるものがいいです」

「うーん。嬢ちゃんには難しいかもしれないが、そうだなぁ……これはどうだ」


 そうして藤田が提示したのは、2Dの縦スクロール型シューティング。「弾幕シューティングゲーム」というらしい。プレイスタイルはひとり用。タイトルは「チャージ・アサルト」。


「やってみます」


 そのゲームに登録されているスコアは、店だけのものではなく全世界から登録されているものだ。藤田は「人を選ぶゲームだからプレイ人口はすくないが、その分熱狂的なファンが根強くついている」云々。それでも登録ユーザーは100万人を超えている。まあ全世界とみるならばすくないほうではある。


 取り敢えずやってみよう、ということで私は画面(モニター)の前に位置した。没入型ではなく、そうやって操作する類のゲーム。ルールは瞬時に把握する。プレイ開始。爽快で過激なBGMが奏でられ始め、その中で私が標的を落としていくと、小気味よい爆発音が鳴り響いた。


 連続して敵機を落としていくとスコアが伸びるシステムを採用しているらしく、私はそのボーナスコンボを切らさないように撃ち落としていく。私は普通にやっているつもりだった。だが物珍しかったのか、藤田は私のプレイングを後ろで見守っていたのだが、モニターに反射される顔は感心の顔から次第に蒼ざめていった。


 私はプレイングと解析を同時進行させていた。どうやらこのゲームは2周することで本当のボスが現れて、それを倒すとエンディングになるらしい。解析によればそこまでノーコンティニューで辿り着けるユーザーは1.234238%。つまり攻略したユーザーは1万人以上はいるということである。


「おい、きみ……」


 私は集中(コンセントレート)していた。演算処理機能はすべてこのゲームに向けている。私はすべてを解析しているその上で遊んで(プレイング)いる。古典的といえば、まあそうなのだろう――PvPも実装されていない――ただ撃墜数でスコアを競うゲームというのは――しかし求道的でもあり――


 プレイングが終わった頃、私はそれをメモリーしていたのだが、見守っていた藤田は茫然とした顔をしていた。


「ノーミス・ノーコンティニュークリア……いやそれだけじゃない。このスコアは世界一位――いや!」


 彼の「茫然」はやがて「狼狽」へと変わった。


「これは理論上出し得る限界のスコアだ! これ以上はない――プログラムした私が言うんだから間違いない!」

「それのなにが問題でしょうか?」

「あんたさんはこのゲームをすっかり丸裸にしちまったってことだよ!」


 藤田の声にはかなり焦燥の熱が感じられる。私は人間解析プログラムを搭載されていて、人間の感情を擬似的(エミュレーティヴ)に認識できる。その解析の結果、私は藤田の感情を「怒り」と認識した。だがなぜ怒るのだろう。


「あんた、ずる(チート)したな」

「チート?」

「こんなスコアは登録できん。だがしかし、こんなアローンスタイルの古典的STGをわざわざチートしてまで――いや、それにしてもやりすぎだ。もうちょっと隠せよ」


 私は彼の言うことをなんとなく理解できるような気がした。人間の細やかな心理を解析する機能も私が更新(アップデート)しなければならないもののひとつ。


「私はこのゲームのチートコードを搭載していません。私は自身の演算能力を駆使して攻略したまでです」


 私がそう言うと、藤田は当初の焦燥を引っ込め、得心したように言った。


「ああ――そうか、きみは人間じゃないんだな。AIか。それも高次の演算能力を持った。『チャージ・アサルト』は最新鋭のAIを使って作ったんだがな。それを完全に解析(アナライズ)しちまうとは、あんた――。いや、ここにきみのマスターは見当たらないな。どういう指示(プロンプト)を打ち込まれたんだ? AIがわざわざこんなところまで来て、ゲームをするというのは――そんなにハイスコアを更新したかったのか。だがそれにしてはやり方が杜撰すぎる。いや、まったく理解できない」

「私は――」


 自律思考型として、と言い掛けたところで中止した。それを今ここで明かすのは私の防衛上好ましくないと判断された。代わりに別の表現を使った。


「私の演算能力を実証したかったそうです」

「ふむぅ、なるほど。しかしそれはいささか変態的趣味だ。AIの能力検査(ベンチマーク)なんぞこんなゲームでやる必要はないだろう」


 藤田はなおも疑問を持っていたようだったが、それ以上追求はしなかった。


「AIの出したスコアなら除外対象だ。ああ、それから――きみはこの先この店は出禁だからね。これ以上荒らされたらたまったもんじゃない」

「ご協力ありがとうございました」


 私はあえて最適解の答えを言わず、5番目に推奨された返答をした。

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