七話 ラクロスの魔術授業
私が壁に穴を空けてから三日がたった。
ちなみに穴は次の日には塞がった、父さんが土魔術を応用して、壁を以前となんら変わらない見た目に仕上げたからだ、やっぱり魔術は万能だ。
そして、今日は父さんの休みの日だ。
今日私が何をするかというと、父さんから魔術を教わるのだ。
私は朝ごはんを食べて、庭に出る。
今の時間は7時過ぎだ、魔術を教わるのはだいたい8時からなので、あと一時間近くある。
私はウォーミングアップとして、身体に魔力を纏う練習をすることにした。
これは母さん父さんの模擬戦を見ているときに気づいたことで、父さんは身体に魔力を纏わせながら戦っていた。
これをするメリットは、全方位どこから攻撃が来ても、防御結界をすぐに展開できたり、攻撃魔法を放ち、攻撃を相殺することもできるし、攻撃面では魔力を溜める時間が短縮できて、なおかつ、慣れればその方向を向かなくても魔術を撃つことができる。
これは戦闘中はとても有利に働く、だがデメリットとしては体内の魔力を外に出すためどうしてもロスが生まれることだ。
魔力のロスを最低限にするためには、慣れが必要だ体内の魔力をできるだけ圧縮したうえで身体に纏わせ、それを常時操作し続ける、しかも魔力は一度体外に出すと外側に出ていこうとする性質を持っているので相当な技量での魔力操作が必要だ。
とはいえ、このあと魔術を教えてもらうのに魔力が少なくなってしまっては本末転倒だ。
といっても、私の魔力総量父さんと同じくらいか少し多いくらいなんだそうだ。
これは一般的なウェービーより相当に多いらしいと、少し前に母さんから聞いたので魔力を軽く纏わせて使って練習するくらいなら問題ないと思い、練習を始めた。
ちなみにウェービーはこの世界全体で見ると魔力総量が少ない人種だ、魔力は少ないが近接戦闘を得意とする者が多いのだという、理由としては、能力を使えば相手の行動が読めるというのが大きい、相手が動く少し前から先手を取って動くことができるので近接戦闘は優位に立てるからだ。
私としてはその内剣も使えるようになりたいと思っているが、まずは魔術をマスターしてからで良いかなと思っている。
そして、そろそろ疲れてきた、と言うタイミングで父さんが庭に出てきた。
父さんは私を見るなり、「おお、セレーネ魔力を身体に纏わせる練習をしてるのか?」
と聞いてきた。
「うん」と答えると同時にコントロールしていた魔力を防御結界として展開した。
それを見ていた父さんが「三歳で魔術を使えるなんて…俺の子は魔術の天才かもしれない…」とニヤけながら呟いていて腹が立ったので、ほぼ魔力を込めずに不意打ちの石弾を父さんの腹に向けて放った、もし仮に当たってもちょっと小石をぶつけられた程度の威力だ。
だが、石弾は父さんに当たることはなかった。
逆に、気がつくと小石のような弾は私の手の上にちょん、と落かれていた、私は父さんが何をしたのかまるで分からなかった。
キョトンとする私を見て父さんは「何が起こったのか分からないって、顔してるなあ」と嬉しげに笑っていた。
その通りなので何も言えないし、理解できないのが悔しかったが「…父さん今何をしたんですか?無詠唱の魔術をどうやって感知したんですか?」と聞いた。
すると、父さんは説明を始めた。
「まず、今セレーネは石弾を超低火力で撃ったわけだ、それに気づいたのはセレーネの体内の魔力が微かに揺らいだからだ。」
私は人の体内の魔力を感じ取ったことはない、そもそもそんなことができる物なんだろうか?「私は自分の魔力以外感じ取れないんですが…」
父さんは当然と言うようにうなずいて「それはやっぱり自分の魔力を正確に操作できるくらいにならないと相手の魔力まで感じ取ったりはできないさ、経験を積むまではより精密な操作ができるようにする練習する必要がある。」
まあ、一朝一夕で身につくようなことでもないか。
「で、俺はそれに気づいたあと放たれるのを待って、初級風魔術突風で勢いを殺して、そのままセレーネの上まで運んだんだ。」
その流れ自体は説明されれば簡単なことだった、だが、驚くべきことはここまでの一連の流れを瞬き一つほどの時間でできてしまうと言うことだ。
今の私の技量だったら同じことをやるのに5秒はかかるだろう。
まあ、やる以前に防げないだろうけど。
納得したところで父さんは
「さて、じゃあ始めるか!」
と言った。
「セレーネ、まず始めに魔力のことから勉強して貰おうと思う。
セレーネは人の魔力総量がいつ決まるか知ってるか?」
私の魔力総量が多いと聞いたことはあったが、魔力総量がいつ決まるのかは知らない。 「知らないです。」
そう答えると、とう…ラクロス先生は、
「そうか、魔力総量は出生時に決まる。
だけどそこで最終的な魔力量が決まるわけではない魔力総量というと分かりづらいが言い換えるなら魔力上限とでも言おうか、だから魔力総量が多くても魔力量が多いとは限らないんだ。」
そうなんだ、魔力総量=魔力量だと思っていた。
だけど魔力総量はどうやったら分かるんだろう?分からないことは先生に聞いてみよう。
「質問なんですが、どうやって魔力総量を測るんですか?」
「ああ、魔力総量を測るのは出生時の魔力量はだいたい一定なんだだからそれを利用して空き容量を鑑定眼と呼ばれる特殊な目を持った人が見るとあとどれくらい、魔力が溜められるのかが分かるんだ。」
へー、この世界にも鑑定眼とかあるんだ。
でもなんか、私の思っていた鑑定眼ほど便利ではなさそうだ。
そんなことは良いとして、じゃあ魔力量を増やす方法は?
「そうなんですね、では魔力量を増やすにはどうしたら良いんですか?」
するとその質問を待ってましたとばかりに、説明を始めた。
「そう!そこなんだ、まず魔力量を増やすにはとにかく魔力を使うことだ、剣士が走り込みをするようなものだ、魔力を使えば使うほど魔力量が増える。だけど、増えるのはだいたい10歳くらいまでだ、だから今のうちから魔術の練習をするのは素晴らしいことだ!」
そうなのか
「分かりました。」
そう言うとラクロス先生は「じゃあ、早速模擬戦をしながら魔術を色々使ってみよう!」
「えっ?模擬戦ですか?」
「ああ、大丈夫!手加減するから大きな怪我はしないさ!」
待って!違う、そうじゃなくて普通に魔術の使い方とかを教え…!!防御結界正面からさっき私が放った石弾をいきなり放ってきた、しかも無詠唱で、手加減ってなんだよ威力以外手加減になってない!この鬼教師!
だが逆に言えば私も全力で戦って良いと言うことだろう。
この鬼教師にひと泡吹かせてやる!
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一時間後
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「セ、セレーネまだやるのか?」
「ハア、ハア、やり…ますよ…」
あのあとわりと激戦だった、最初の内こそラクロスの魔術が当たったりなんとか交わしたりと防戦一方になっていたが、途中からここまでやってくるのだからと何でもありで殺すつもりの魔術を連発させたり、搦め手を使ったりすると徐々に互角に近づいた。
多分ラクロスが一番焦っていたのは火炎魔術と技術系の武器創成を組み合わせて、フレイムソード(適当)を創って近接戦に持ち込んだときだろう。
ラクロスは今までビビりつつも余裕げにしていたのだが、その時ばかりは「ちょ、セレーネ、それはマジで死ぬって!」と叫んでいた。
そこで火球を放とうとしたとき、ふっと意識が遠のいた。
魔力切れか?
こうして、私の一回目の授業(模擬戦)は終了した。
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おまけ
魔術師のひとりごと
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イヤ、危なかった。
セレーネよ、あの火の剣とか爆発する石弾とか本当に模擬戦で放って良い魔術じゃないって!危うく死ぬかと思ったわ!
そもそもカッコいいとこ見せたいとか張り切ったのが問題だった。
圧倒的実力差を見せる予定が、まさかオレがセレーネに怪我させないようにしていたのを差し置いても互角になるとは思わなかった。
しかもそんな愚痴をフォリアに話したら、なんで三歳児に無詠唱魔術ぶっ放すんだバカとげんこつ食らったし、セレーネの炸裂石弾(適当)で体の数カ所に切り傷はできるしで、なんか全身痛い!
……今度からは絶対に模擬戦はしないようにしよう。
それにしても我が子強すぎじゃね?
もう既に3級くらいの実力あるんじゃないか?
5歳くらいになったら魔術師試験受けさせようかな?
そんなことを思いながらひとり下位回復を使う。
まあでも楽しかったな。