二十九話 メソロジア~魔術の聖地~
ホーリーレイクズを出て、気がつけば半月が経過していた。
新たな出会いがあったり何かと忙しかったように思う。
そして私たち3人は、やっと目的地に到着した。
魔術の聖地「メソロジア」
ここは魔術史の始まりの地として知られている。
逸話によれば、千年前、当時この世界を支配していたのは魔族だったという。
それは、魔族の扱う奇怪な術に対抗するすべが人族(亜人族も含む)には当時無かった。
当然のように空を飛び、当然のように大地を隆起させるような相手に対し人族は弓や剣で戦っていた。
当然、分が悪い戦いになる、故に人族は魔族を恐れ、忌避した。
しかし、ある時を境に状況は大きく変わった。
当時のセレス教の大司教の息子だと伝わる。
原初の魔術師アルタロス、または魔帝アルタロス。
彼は二つ名の通り、人類史上で記録に残る限り初めて魔術を使った人間だ。
その功績は大きく、まず、魔族の扱う魔術を観察・分析し、そこから術をこれまで「不可思議」で済ませていたものを、ロジックとして分解、そしてある程度、再現性や安全性を高め新しい魔術として構築し直したと伝えられている。
そうして汎用化された魔術を以て、これまで奪われるばかりだった人類が魔族に対する対抗手段としての武器を持った。
ここから人類は領土を徐々にではあるが広げていった。
それも魔帝と呼ばれ、常に対魔族戦線の最前線で戦った、アルタロスと「七賢帝」と後に呼ばれ、崇められる当時の人類の最高戦力たちあってのことだ。
彼らの活躍もあって、魔族対人族・亜人族の人魔決戦は互いの戦力が拮抗する場所を指定した。
その場所から東側全体を覆うように魔帝アルタロスが超広域結界魔術を展開したと言われる。
その地こそがここメソロジアなのだ。
古き術式は今もなお、維持されていてその術式の全容は、今時点で約八割解析されたという、解析は百年前から始められた。
というのも、この術式は千年前に構築されたにも関わらず、現代魔術理論で見ても幾つかの高度な技術が組み込まれているし、未だ解明し切れていない部分もある。
いま、現魔帝数名を含む、魔術師、研究者で日進月歩の解析を行っている状態だ。
そんなに高度な術式を千年前に構築したアルタロスはまさに、天才の一言に尽きる。
そんな彼の伝説の残る、メソロジア、その町並みは私のイメージで言えばデンマークのようなイメージ(行ったことはないので分からないが)だ。
レンガ造りの商店街は人で賑わい、民家らしき建物は白樺のような色合いで芸術品を思わせる美しさがあった。
そして、北東に位置するため、比較的寒冷な気候であると言える、今は冬なので年で一番寒い時期なのだと、メソロジア出身のアリアが教えてくれた。
ちなみに人の領域に入るのに魔族がいるのはあらぬ誤解やトラブルを引き起こしそうだったので、ヴェルには基本透明化して貰っている。
さて、今日は雪が朝から降っていて寒いし、宿屋の建物の前には雪が積もっている。
私たちが魔術師試験を受けるにはまだ、一月近くある。
なので、私たちはこれまでの旅の途中何度もそうしてきたように、魔術を使って便利屋のようなことをしていた。
そして、面白いのはここメソロジアは、魔術の聖地だけあって、他では見たことも無いような魔道具や魔術関連の書籍などを売る、露店や店が多くあった。
私がそういった店を眺めていると、うしろから肩にちょんちょん、と触れられた。
振り返ると、品の良さそうな見た目の初老の女性が立っていた。
私に彼女は
「貴女がアンリエットさん?」
と柔らかな雰囲気でそう聞いてきた。
「…?ハイ、そうです。私がセレーネ・アンリエットですが、何かご用でしょうか?」
私はそう答えた。
「ええ、知人から青髪のウェービーの子供に魔術でいろいろやって貰った、ていう話を聞いて私もちょっとお願いしようかしらと思って。」
私たちにはこうした年代の依頼者が多い、それはもしかすると、孫娘のようで依頼したくなるのかもしれないと私は分析している。
まあそれは置いておいて。
「私にこれを手伝って貰いたい、など今の時点で分かっている範囲でお伝えいただけると助かります。」
女性は、少し考えて
「一つは家の庭とか、玄関先とかの雪をどけて欲しいのよ、あともう一つは…そうねあとで伝えるわ…それでもかまわないかしら?」
「ええ、構いません。」
こうして私に一つの仕事が舞い込んだのだった。




