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二十八話 チーズケーキ騒動

 旅の仲間に、魔族ヴェルが加わり四日が経った。

 結論から言うと、ヴェルは優秀だった。

 最初は上手いとは言えなかった共語も私とアリアが教えたら、すぐに簡単な会話を普通にできるようになった。

 ヴェルと話していく中で分かったことは、ヴェルは共語を少しポーンから習っていたらしい。

 そして、私としては気になっていた受魔の儀については、自分の持っている何かを代償に、対象者に力を譲渡する儀式、との説明だった、しかし、本人自体も詳しいことは知らないようだった。

 ただ、そんな魔術を聞いたことはなかったので、彼の種族に古く伝わる種族魔術の類いだろうと思う。

 それに戦闘面についても、経験不足の感はあるが、そこは私やアリアでサポートできる、そして何より魔力感知に優れる魔物たちにヴェルの透明化と魔力隠蔽(私が勝手に名づけた)の能力はうってつけだ、視覚情報にも、魔力感知にも掛からない。

 そして、気づいたときには放たれた矢に命を奪い取られている。

 経験不足だが、堅実に強い。

 それが私やアリアの中での戦闘面でのヴェルへの評価だ。

 もし最初にあった時に何も言わず、意識の死角から弓を放たれていたら私は確実に避けれると言い切れない。

 それはその技のポテンシャルの高さや不意打ちの急襲への適性の高さを伺わせた。

 それにヴェルの強さはそれだけでは無かった。

 最初はヴェルには魔力が少ないと思っていた、だが、そうでは無かった。

 本当はヴェルには無尽蔵とも言えるほどの魔力量があった。

 それは、私と二人で魔術の練習をしていたときに分かった。

 単純な話、アリアの全力に匹敵する火力を、まるで、息をするように放つことができるのだ(しかも本人は普通のつもり)。

 これだけでも十分に強いが、ヴェルのもっとも恐ろしいところはその魔力を隠せることだ。

 魔力で実力を測る魔術師にとっては特にやりづらい相手だ。

 具体的には、魔力が少ないから近接タイプだろう、と考えていたら、突然、高火力な魔術が飛んでくる、魔力量を見て魔術を想定から外しているため、この攻撃を躱すのは困難と言って良い。

 こうした特徴を総合して魔術師のランクで当てはめるなら優に一級相当はあるだろうと考えている。

 彼について、一言で表すなら、凡庸な表現だが、敵に回したくないタイプと言えた。

 さて、今の状況だが、私は隠れている。

 誰からか?

 それは、私の親友であり、ライバルでもある少女と、優秀な魔族の子供からだ。

 すると、少女―アリアの声が聞こえてきた

 「ヴェル!魔力探知であいつがどこにいるか探せない?」

 そういうと、ヴェルは少し間を開けて困った顔をしながら、こう言った。

 「うーん、難しいかも。ボクが魔力の痕跡を残さないやり方を魔術を教えてもらう代わりに教えたら、セレーネはすぐにこつをつかんじゃたから…しかもまだ自分が完璧には出来てないって分かってるのか撹乱みたいにあっちこっちに微量の魔力の痕跡が残ってるからどこに行ったのか分からない。」

 アリアは、チッ、と舌打ちして。

 「あいつ昔から器用なのよね…でも何とか見つけ出してやる!私たちの()()()()()()()()!」

 そう、それは一時間ほど前に遡る。

 私は、いつもと同じように、ごく平凡な日を過ごしていたのだ。

 そしてやることが一息着いたので今日の仮設の拠点に戻ったのだ。

 すると、木で出来た愛想も何もあったもんじゃない見た目の机の上に、まばゆく光るチーズケーキが三切れあった。

 普段の慎重な私なら、観察し真実に至ることが出来たのかもしれない。

 しかし、その時の私はさながら、短絡的な享楽主義的な思考に陥っていたのだ(チーズケーキが食べたかっただけとも言う)。

 そして、私は三十分とせずに皿を空にした。

 そこで、音がしたアリアとヴェルが帰ってきたのだ。

 そこで私は、もう手遅れながらに真実に至った。

 テーブルを見た時のアリアは一瞬、ポカンとしていた。

 そして何があったか分かるとすぐに、

 「この馬鹿…」

 とキマった目で薄く笑うと、風付与(ウィンドエンチャント)と唱え、速度三十キロはあろうかという速度で追いかけてきた。

 私は反射的に身を躱す。

 「ちょっ、ま、ごめんって…!うわあ!?」

 「土盾(アースウォール)!」

 最近、アリアも腕を上げ、簡単な魔術は使う術の名称を唱えるだけで長い詠唱を必要をしなくなっていた。

 アリアがそう唱えると私の背後に土の壁が出現した。

 後に飛んで、アリアの初撃を躱していた私は、危なく背面を思い切り叩きつけられるところだったが、ギリギリのところで魔術を使い退避した。

 (風弾(ウィンドキャノン)…!)

 風弾(ウィンドキャノン)を土の壁目掛けて撃ち出す。

 その反動で私は一気に移動する。

 森の中へ逃げ込んだのだった。

 そして、今に至る。

 私は、ヴェルに教えてもらった知識を活かして、撹乱しながら二人から逃げていた。

 ヴェルは魔力を隠蔽出来る位だから魔力感知も私たちの比ではないだろう、と踏んで偽装しておいて良かったと思う。

 しかし、それもそう長くは持たなかった。

 ヴェルは私の予想の上を行った。

 ヴェルは突然あっ!、と声を出すと。

 「アリアー!こっちに居るっぽい!」

 と行った木陰からちらっと覗くと指をドンピシャで私のいる方を向けていた。

 「良くやったわ!ヴェル。」

 少し先を探していたアリアが戻ってきてヴェルの頭に手をポンッと置くとそう言った。

 こうなったら実力行使で突破して、アリアの怒りの火が消えるまでちょっと隠れていよう。

 「バレては仕方ない…これでどう!?」

 (大吹雪(ブリザード)

 環境魔術を使い視界を奪うと同時に足下も奪うこれで追っ手は来られまい。

 そうして私は背を向けた。

 その時、背筋に悪寒がした。

 背後に魔力が微かに立ち上ったかと思うとそれは見る間に大きな魔力となり、そこから、2本の手のような形の蔦が現れた。

 その手は私を掴もうと躍りかかる。

 「!?…やるね」

 私は思わず口角を上げる。

 この魔術を操っているのはヴェルだ。

 魔術としては土属性系の環境操作の応用だ。

 まあ、燃やしたり何なりすれば躱せなくはない。

 だが、それだけ技術があれば良いか。

 私は大人しく捕まった。

 そして二人の前に蔦の手に運ばれる。

 そして、アリアがニヤリと笑いこう言う。

 「ヴェル、良くやったわ!…ところで今までのが()()()()だ、って言ったら信じる?」

 それを聞いたヴェルは気の抜けたような声で

 「えっ?」

 と言う。

 そして、訳が分からなさそうに、私とアリアのことを交互に見ている。

 多分、私もアリアと同じような顔をしているだろう。

 さて、種明かしだ。

 「これはね、ヴェルの実戦練習だったんだよ」

 「そうなの…?」

 そう言ってアリアを見つめる。

 そう、実戦経験に乏しいヴェルのために私とアリアが考えた、劇場型の特訓だったのだ。

 「ええ、そうよ」

 ヴェルは状況を理解したみたいで、ニコッと笑うと

 「何だ、そう言うことかー」

 と言った。

 こうしてヴェルとの特訓が終わった。

 そしてアリアが言う。

 「さあ、みんなでチーズケーキを食べよう!」

 「…えっ?」

 「なによ?」

 「チーズケーキもうないよ?」

 「?…どういうこと?」

 「食べた…」

 「は?」

 アリアは私に隠しておいて貰うつもりだったようだ。

 そして、思い出す。

 「チーズケーキは頼むね」

 と言われたことを。

 そっかぁ、あれそういう意味かあ…

 見ると、アリアが血管をピクピクさせている。

 よし、まあ、今さら理解したところで後の祭!

 こうなったら…

 (風付与(ウィンドエンチャント)…!)

 逃げる!

 「あっ…待ちやがれこの欲張りウサギ!」

 「待つわけなかろう!」

 「ヴェル、今度こそ実戦よ!」

 「あいつを捕らえなさい!」

 

 このあと1時間程鬼ごっこは続いた。

 最終的に、ヴェルに不意を突かれる形で捕まり、今後一ヶ月のデザート禁止と毎日アリアに一時間モフられの刑が言い渡された。

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