二十七話 手を取って。
私は魔族の少年、ヴェルの話を聞いて、怒りの感情がわいてくるのを感じた。
それは、この子がまだ子どもなのにこの世に二人しかいない、親というかけがえのない存在を未来永劫奪われたことに対する人間の国や人間全体への不信。
それと前の世界でも感じていた、とてつもなく理不尽で、自分の力で日々を笑い、泣き、怒り、全身全霊で生きている全てをあざ笑っているような世界に対しての怒りだった。
次に共感に近い憐憫を覚えた。
ヴェルは家族との平和な日常を語ろうとしたとき、母や父の在りし日を思い出したのだろう、言葉がつたないせいではない空白が何度もあった。
そして、私はそんなヴェルにできるだけ優しくこう言った。
「辛かったね…」
私はヴェルに近づき抱きしめた。
ヴェルは一瞬身体を強張らせたが、すぐに力を緩める私に身体を預け、大きな声で泣き出した。
ヴェルが落ち着くまでそうしていた。
その間、アリアは何かを考えているのか、一言も発さずに、ただ、私とヴェルのことを見ていた。
ヴェルが落ち着いてきた頃を見計らって、静かに諭すような口調で話を続ける。
「ヴェルくん、一つ聞いて良いかな?」
ヴェルは無言で頷く。
「君にはいま選択肢がある。一つ、このまま私たちと別れて一人でまた彷徨う。でもこれは現実的ではないね、そこで二つ目、私たちと旅をする、この案の良いところは道中の安全性と私たちはヒトの領域に行くから生でヒトの生活を見ることができることかな。君はどっちを選ぶ?」
最初から決まっているような二択だったから、自分でも卑怯だと思うが最初に彼を尊重する姿勢を見せて、対等であるとアピールしたかった。
「キミたちは、ボク、しんよう、できる?」
ヴェルは一単語ずつ、思い出すように、そう言った。
アリアが何か口を開こうとしたが手で制す。
恐らく「できる!」そう言いきるつもりだったと思う。
ただ、アリアとてそれが本心でもないだろう。
種族間の知識も、常識も、いざとなれば戦闘力も分からない。
…というかちょっと怖いから保険を掛けときたいって言うのもあるんだけどね…
とにかく、そんな状態で信用できるというつもりは私には無い。
だからと言って放っておくつもりも無い。
だから私はこう言う。
「信用はしない…」
「えっ…!?」
ヴェルの困惑が手に取るように分かる。
すぐに私は言葉を繋ぐ。
「でも、信用を築いていくことはできる…それに…逆にヴェルくんは私とアリアのことを信用できる?」
「…!」
驚いたような表情をして、少し考えると、首を振った。
その反応に私は好感触を感じながら話を続けた。
「だから、これから私たちと一緒に旅をして、お互いを知っていこうよ、そうすればいずれ信用することができると思う。それに…」
ここで私は言葉を切って、息を吸う。
そして思い切って私の衝動を話した。
「…私は…君の目的に賛同したい…。」
それは、あまり大きな声で言えることではない、だけど、彼の慟哭が、その悲しみで満たされ、絶望したような瞳が、前世の自分を思い起こさせた。
そこで気づく、ああ、私はヴェルと自分を重ねていたのか、と、私があのビルの屋上で感じた、喪失感や罪悪感、どうすることもできなかった、自分に対する失望、何かするだけの力をくれなかった環境や世界への怒り。
状況自体は違うが、大切な人を永遠に喪ったこと、その時自分は何をすることもできなかったこと、そうした感情がどれだけ自分を苛むかを知っているからこそ、私は、今度こそ誰かの力になっていたいと思う。
あの日、瑛士さんが私にそうしてくれたように。
そういう決意も含んだ言葉だった。
「…ありがとう」
ヴェルは迷うようにそう言った。
アリアは、ふふっと笑うと、こう言った。
「それじゃあ、私たちが手を取って進んでいく三人の旅路にこのサンドウィッチでも食べますか!」
そう言うと、ちょっと前に作っておいた、サンドウィッチ(野菜しか挟まってない)を取り出した。
「そうしよう。」
仲良くなるにはご飯を共にするのはいい手であるように思えた。
それにヴェルはかなり疲弊しているからしばらく何も食べていないであろうことも想像がついた。
私はヴェルに言う。
「ヴェルくん、今日は君のことを沢山教えてね!でもその前にお腹を満たそう。」
ヴェルは遠慮がちにアリアの元に行くと、くんくんと匂いを嗅ぎ、一つサンドウィッチを取り出した。そして、口を大きく開けて一口、かぶりついた。
すると、ヴェルの目が見開かれた。
そして、一言零れるように何かを言った。
それは聞いたことのない言語だったから、なんと言ったのかは分からないが表情からして、美味しい、と、でも言ったのだろう。
こうして私たちの旅路に新たに仲間が加わったのだった。
あけましておめでとう御座います。
岡田なんとかです。本年度もよろしくお願いいたします。




