二十五話 人と魔族
魔族の子どもヴェルは自分の家族は「ヒトに殺された」と、そう言った。
私はそれがどういう意味をなすのか理解できなかった。
そして彼への警戒心が薄らぎ、代わりに好奇心と興味が湧いた、ただとは言っても彼を完全に信用したわけではないので彼の過去について聞いてみることにした。
そして私は尋ねる。
「…えっと、もし嫌なら言わなくても良いけど、君とその家族に何があったのか…私達に教えてくれる?」
私がそういうと、少し考えて、小さく頷いた。
語り出した話は耳を塞ぎたくなるような悪魔の話だった。
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今から約一月前
魔族の領域内最西端
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その日、ボクは朝から落ち着きなく、家の中をうろうろと歩き回っていた。
それはどうしてかと言えば、その日は久しぶりにパパの仕事についていけることになっていたからだ。
その時、うしろから唐突にボクの体は持ち上げられた、一瞬びっくりしたけど、その感触は柔らかでボクの大好きな人だ、とすぐに分かった。
「ママ!びっくりしたよう」
ボクがそういうと、ママはゆっくりと姿を現した。
その顔にはえへへ、といった感じの笑顔が浮かべられていた。
ボクはママのこの笑顔が大好きだ、ママは世界で一番かわいいと思う。
「パパのことばっかり考えてるみたいで、おもしろくなかったんだもーん!」
と、ママは膨れて見せる、でも言葉とは違ってとっても楽しそうだ。
「だって仕方ないじゃん、仕事を見れるなんて三ヶ月ぶりだよ!?楽しみに決まってるじゃん!」
ボクは興奮を抑えられずにそう言った。
そうボクたちが言っていると引き戸が開く、そして顔を見せたのはパパだ。
「ふぁ…おはようさん…」
まだまだ寝ぼけ半分といった感じでそう言った。
「カリス、早く顔洗ってこーい!」
やっぱりママはいつもより上機嫌にそう言った。
そして顔を洗っていくらかスッキリした顔になったパパが戻ってきたので、ボクたちはご飯を食べる。
今日は昨日パパが狩ったマジックホースのステーキと麦飯、あとそこら辺で採れた山菜のサラダだ。
朝食にしては少しボリューミーな気がするが今日は体力を使うから、まあちょうど良いのかなと思う。
そして朝食を食べ終えるとボクたちはそれぞれ、準備を始めた持つものは、弓矢だ。
ボクたちの種族は他の種族に比べて、視力が良い、そして能力それは魔力をほぼ消費せず、使える「透明化」だ。
この能力は念じれば周囲の景色に同化して認識を阻害する、ってパパが前に言ってた!
取り敢えず便利な能力だ。そして弓矢を使うのは魔力を使わないで獲物を狙うことが出来るからなんだって。
で、今日ボクに弓矢を教えてくれることになってるんだ!
だけど最初はパパの狩りを見ることからだ、って言うからボクとしてはこっちの方が楽しみなんだけどね。
パパが弓を構えて射る姿はすっごくカッコいいんだ。
それで、一日そうやって見学したり、少しやってみたりして夕方になって、家に帰ろう、となったときにあるものが目に入ったんだ。
そこには血を流して倒れているヒトがいた。
パパが慌てて近づいて
「おい!大丈夫か!?」
と声を掛けるが、返事はない。
「アビリア、この人間どうしよう?」
とママに尋ねる。
ママは一瞬の迷いもなく、こう言った。
「何言ってんだ、連れて帰るに決まってるだろ!?」
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連れて帰った人間の男を見て、みんなびっくりして目を見開いていた。
そうしたら、仲間の一番偉いおじいさんが来て、ボクたちにこう言ったんだ。
「其奴はどうした?」
その言葉には非難の響きがあった。
それに答えたのはママだ。
「どうした?説明がいるか?怪我して意識もねえ、そんな奴ほっといたら死んじまうだろ?」
そう言うママは言葉は雑だが、思いは誰よりも優しかった。
「フン、人間なんぞ信用できん、人間はな、常に利己的なんだ、自己のためなら同族に対してであろうとも偽り、騙す。そんな奴を助けようとするとはお前さんもとんだ馬鹿だな、まあ、いざ、と言うときにはワシらの方が実力的にも人数的にも有利だから今は良いだろう、だが本当にそうなれば貴様らの命はないと思え。」
それだけ言っておじいさんは帰って行った。
そして手当を施したところで男の意識が戻った。
彼は最初ボクたちを見て、すぐに逃げだそうとした。
だけど、体中傷だらけですぐに倒れてしまった、だから、森で自分が倒れていたこと、それを見つけて連れ帰ったことを伝えるとこちらに害意がないと言うことが分かったらしくそれ以降は落ち着いて話をしてくれた。
そして、彼に話を聞くと家族を国に殺されたのだと言った。
ボクはおじいさんの言っていたことが分かった気がした。
ヒトというのは仲間同士でさえ争い殺し合うのだと知った。
そんなことをしないで力を合わせればもっと色々出来ることがあるのかな、何て思ったりした。
そして彼がある程度回復したので、少し狩りを手伝って貰ったりした。
彼は剣士で以外と実力もあったし何より獲物の処理が手早く、狩りの効率が良くなったし、色々な知恵を教えてくれた。
最初は疑いの眼差しを向けていた他の仲間たちとも、次第に打ち解けた。
そして誰もが彼を疑わなくなった。
そう、自分たちが殺される数時間前でさえも。




